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はじめまして、マイベイビー

生まれてきてくれて。

あぁ、生まれる。
なにか、大きくて、丸くて、生あたたかい物体が、身体の中からニュルンと滑り出た。

オギャー、オギャー、オギャー。

一瞬の沈黙の後、大きく響きわたる産声。
それはそれは、歓びと感動と感謝が一瞬で押し寄せる不思議な瞬間で。

目の前に、高く掲げられる小さな生命体は血まみれで、私の右手に繋がれた夫の左手は小刻みに震えていた。分娩台から見上げると、夫は静かに泣いていた。

「あぁー、生まれてきてくれて、ありがとう」

それが、はじめて我が子にかけた言葉。
それは、これからも変わらず毎日欠かすことなくかけ続けるであろう言葉。

MY SUPERPOWER

出産は、想像以上に痛くて大変で、でも何にも代え難い、尊い瞬間だった。

陣痛が辛すぎて、もう無理です、痛いです、無理です、と繰り返すわたし。(無痛分娩のはずなのに、「我慢できなくなったら言って」という助産師さんの言葉を鵜呑みにし、平成の部活で鍛えた我慢強さを遺憾なく発揮してしまったのだ。故にずっと痛みに耐え続けることになったのはいい思い出。)

永遠に終わらないんじゃないかと思う陣痛に、
正直早く終わることだけを望んでた。
でもふと、痛みの合間に赤ちゃんが気になった、
あれ、赤ちゃんって、、心拍とか大丈夫なのかな。
助産師さんに聞いた。
「赤ちゃんは、赤ちゃんは元気ですか?」
「元気ですよ、とっても頑張ってますよ」
と助産師さん。
そうか、そうだよね、赤ちゃんの方がずっと頑張ってるんだよね。

その瞬間、涙と共に湧き出た、SUPERPOWER!
我が子がこんなに頑張っているのに、なんで親の私が、こんなに弱音吐いているんだろう、
私は強いんだ、やるしかない!
頑張ろう!一緒に世界に出よう!
脳と身体が一気に覚醒していって、全身に漲るエネルギー。
あぁこれって、大事な大会で、試合開始のホイッスルが鳴る直前の感覚と同じだな。
そんなことを思いながら、もう一度、自分の身体に集中する。
もう全然痛くなくて、そこからは、あっという間だった。
「ふぅーーーーー」
できるだけ息を長く吐く。
もういちど。
今度はもっと長く、できるだけ長く。

あぁ、生まれる。

2024年7月17日、3750gの元気な元気な女の子が、生まれた。


生きる力。信じる力。

我が子の命を授かってから、41週0日、日数にして287日。
今なら自信を持って言える、その全ての日々が、宝物だと。

はじめて妊娠がわかった日。
トクトクという小さくて大きな心臓の音。
元気よくお腹をパンチしたりキックしたり。

不安で仕方なくて、あるいは身体が痛くて、
眠れない日々もたくさんあった。

初めての妊娠で何もかも不安で、小さな振動や、食べ物1つ1つにも気を遣っていた妊娠初期。
だんだんと大きくなっていくお腹に、妊娠の実感と愛情が増していった妊娠中期。
妊婦として、母親としてだけでなく一人の人間としてどう生きるかを考えるようになった妊娠後期。
振り返れば、その時々で心配事は尽きなくて、楽観的なわたしは何処かに旅立ってしまったよう。

だけど、出産を経て思う。
赤ちゃんは、私たちは、
「自ら、生きる力を持っている」

私がどれだけ不安になろうとも、痛がろうとも、もう無理と叫ぼうとも、
力強く、毎日毎日成長し続け、そして、この世界にやってきた。

だから、わたしが親として唯一できることは、海のように大きくゆったり構えて我が子が生まれながらに持っている力を信じることくらいなんだろう。

と、大層にそんなことを言いつつも、生まれてからの日々は、妊娠中のそれよりもっと酷い。
息してるかな?痛くないかな?寒くないかな?抱き方はあってるかな?消毒した方がいいのかな?吐いちゃったどうしよう。
本当にこんなレベルで、(自分でもおどろくくらい細かい)いちいち心配になっては調べて、眠れなくなって、そんな自分に落ち込んで。朝が来て、また向き合って。

そういうことの繰り返しでしかないのかもしれない。
人を育むということは。

きっとこれからも、我が子に教えてもらうばっかりなんだろうな。
海のような心までは程遠いけど、あたたかい目で見守ってもらうこととしましょう。

よろしくね、マイベイビー。

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