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最後の危機(後半)

親分さんと私は、田舎の深夜のファミレスでコーヒーを飲んだ。

その後のことが気になって落ち着かず、何を話したのかなんて全く覚えていない。

もちろんコーヒーを飲んで、すぐに帰ることになった。
当たり前だ、目的はコーヒーじゃない。

ついに車に乗り込んでエンジンをかけてしまったけど、気が気じゃない。
というのも、ファミレスからの帰り道はラブホテルの前を通らなければならなかった。

違う道を通る理由を一生懸命探してみたものの、結局理由は見つからず、
ついにそこにさしかかってしまった。

「そこ左に曲がって」

凍りついた。もう、本当に凍りついた。

私は20年も水商売をしていて、水商売にはそういうことがつきもので、
今も昔もそういうやりとり自体は全く否定しない。
のだけど、これは良いのか悪いのかわからないけど、私はその方法を実践したことがないのだ。私にはどうしても出来ないのだ。

ましてや、そんな人と、年齢もあるし、立場もあるし、もう…
絶対無理!!!!!

だったのだ。だからあの一言に凍りついた。

「本当にごめんなさい。無理です…」

と、とっさに口から出てしまった。
このお方を…拒否するという… 恐ろしい言葉を吐いてしまったのだ…

もう何が起こってもおかしくないのではないかと、数秒で色々なことを考えて心臓がバクバクして吐きそうだった。

「わかった」

と、一言だけ親分さんは言った。
その後は何も話さず送り届け、お礼を言って事務所を後にした。

申し訳ないやら、怖いやら、安心したやら、この後何か報復があるのではないかとか、パニック状態で何もわからなくなっていた。
でも結局、その後にママからも親分さんからも何もなかった。

というわけで、こうして最後の日が終わった。

今思えば、あんな怯えた小娘に興味もなかったのだろうし、
ママの手前、私の手前、気を遣ってコーヒーに行って一応ホテルに誘ってくれた。その後の体裁を考えてのことだったのだと思う。

もし私が喜んでお願いしますと言えば、受け入れてくれたかもしれないけど、やはり組織をまとめる人というのはまともな素敵な人だったのだ。

もっと上手くふるまえる大人になろうと思ったのは、
もしかしたらこの時がきっかけかもしれない。

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