最初に…　わたしと咲

彼女は夜の世界で生きるもう一人の私だ。

夜の世界では「源氏名」を付ける。
本名を使う子もいるけど、本名だと演じ分けることができなくなるので良くないとか、水からあがれなくなるから、などと諸説ある。
※「水からあがれなくなる」＝「水商売を辞められなくなる」

どんな名前を付けるか、特にルールはないけど、
「あ」がつく名前が良いといったりもする。
単純に電話帳の最初に来るからだと思うけど、違うかな。

夜の女は記憶に残らなければならない。残らなければどうしようもない。
だから名前からってことなのかもしれない。

私の名前は「咲（サキ）」。
他の名前を使ったこともあったけど、水商売を始めて2年後くらいに働いたお店で自分でつけた名前だ。

あの時は、それが20年にもおよぶ彼女を作ってしまうとは思ってもみなかった。

咲という人はたくさんの人と出逢い、いっぱい泣いて強がって、笑って喜んで、戦って一生懸命、夜の世界を生きた。

伝説のキャバ嬢でもない、夜の世界を大切に思う人の中の一人でしかない、
今までもこれからも、陽に当たることのない彼女の人生を少しだけ残しておきたいと思う。