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よく分からない日本酒のラベルの読み方 part2.「生、生貯蔵、生詰って何?」

はじめに

日本酒を選ぶ時に何を基準に選んだらいいのか分からないし、ラベルに書いてあることがヒントになったらいいのにな、と思っている方は多いんじゃないでしょうか?
そこで、この「よく分からない日本酒のラベルの読み方」では、皆さんが日本酒を選ぶ際のヒントとなるポイントを一つずつ解説します。
第1弾では、製造年月についてお伝えしました。

第2弾は、「生」や「生詰」、「生貯蔵」って何?というお話です。
全部生ってついているけど、生酒と言えるのは「生」だけなんです。

分かりづらいですよね。それぞれの日本酒の特徴を簡単にお伝えします。

搾ったままを瓶詰して出荷する「無濾過生原酒」

日本酒の加熱殺菌処理について

日本酒の加熱殺菌処理のことを「火入れ」と呼びます。実は日本酒の火入れの歴史は古く、室町時代までさかのぼることができます(「多聞院日記」の記述から)。ビールやワインの劣化を防ぐために、フランスの科学者であるルイ・パスツールが発表した定温加熱殺菌法が1866年だったことを考えると、それよりも400年ほども前に日本酒を加熱殺菌処理をする技術があったことにびっくりしませんか?

火入れの目的は、搾った日本酒を、65℃程度まで加熱、殺菌することで酵素の働きを止めて、お酒の質を安定させて熟成を図るというものです。
特に冷蔵技術が発達していなかった時代においては、全く火入れを行わないお酒はすぐに劣化してしまい、味が落ちてしまうため、必要不可欠な技術だったと言えます。

生酒を本生とも表記

火入れのタイミングと回数によって名前がかわる

火入れをするかしないかで、まず生酒と火入れ酒に分けることができます。
火入れをしないお酒は、生酒(あるいは生原酒、本生)と表記してあります。
一方で、火入れをしたお酒には次の三種類があります。
①「生貯蔵(なまちょぞう)」:搾ったあとには火入れをせずに、出荷の直前に一回火入れをしたもの
②「生詰(なまづめ)」:搾ったあとに、比較的早い段階で一回火入れしたもの
③「二回火入れ」:搾ったあとと出荷の直前に計二回火入れしたもの(従来の一般的な火入れ方法)

出典「SAKETIMES」

①の生貯蔵(なまちょぞう)は、搾った直後には火入れをしないで、生のままで貯蔵します。そのあと、出荷の直前で一回火入れを行うため、②の生詰よりも生で熟成させている分、生酒のようなテイストを残したまま、味わいが濃厚で、熟成が進んだ状態になる傾向にあります。

②の「生詰(なまづめ)」は、搾った直後に火入れを一回だけ行い、そのあと飲み頃になるまで貯蔵してから、二回目の火入れをすることなく(=生のまま瓶に詰めて)出荷します。秋に出てくる「ひやおろし」は、この生詰タイプの日本酒のカテゴリーに入ります。
2回火入れよりも鮮度を保った状態ながらも、生貯蔵酒よりも落ち着いた丸みと旨味が特長的。
「ひやおろし」という呼び方も、ひや(=火入れをしない)でタンクから下ろしてくるから、または、ひやで出荷する(卸す)から、というところに由来するようです。

③は、特に名前がついていません。あえて書くとすれば「二回火入れ」となりますが、冷蔵技術の発達していなかった時代には、品質保持のために、この二回火入れが主流でしたので、表記がないことも多いです。
搾ったあとに、貯蔵タンクに移す前に一回目の火入れをし、しばらく貯蔵したのちに、飲み頃を迎えたと思ったタイミングで二回目の火入れを施して、瓶詰めをして出荷します。
二回火入れをしているので、新鮮さやフレッシュ感はほとんど感じられず、落ち着いた味わいのお酒が多い印象です。

現代版の「一回火入れ」

最近のトレンドは?

ここまで、火入れの有り無し、火入れのタイミングによって名前と味わいの傾向が変わることをお伝えしてきました。

それぞれ、造る蔵元によって考え方が違うので、生酒を多く造る蔵元や、生酒は全く造らない、など哲学はそれぞれです。
そんな中でも、今はフレッシュな状態で出荷する、現代版の「一回火入れ」がトレンドかなと思います。

従来の火入れでは、上の図のように、貯蔵前と瓶詰め前のどちらか一回だけ火入れをすることを「一回火入れ」と呼んでいました。
しかし、現代ではまず生のまま瓶詰めし、瓶詰め後に一回火入れを行う方法(=瓶火入れ)が主流になってきました。その後は瓶のまま貯蔵します。つまり、貯蔵と瓶詰めの順番が逆になっています。この方が従来の一回火入れ(生貯蔵、生詰め)よりも圧倒的にフレッシュ感を保つことができるんです。
そのあとは、瓶の状態で低温で貯蔵して出荷するので、とてもフレッシュで、まるで生酒のような一回火入れ酒というものも楽しめるようになりました。
これはラベルにはほとんど書かれていないので判別するのは難しいですが、「一回火入れ」や「瓶火入れ」と書かれているお酒は、このような現代版の一回火入れをしている可能性が高いです。

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最後に

二回火入れや生詰タイプでもひやおろしのように、味わいが落ち着いてどっしりと濃厚な旨味が楽しめるようなタイプは、冷や(常温)から燗酒で真価を発揮します。
一方で、フレッシュな生酒や現代版の「一回火入れ」はしっかり冷やして飲んでいただくと爽快感があって楽しめると思います。
合わせるお料理や季節によって、あるいはお好みによって日本酒を選んでもらえたら嬉しいです。




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