読書感想 森から出てこなかった男 片岡義男

タイトルにひかれて、初めて片岡義男の文章をちゃんと読んだ。「森から出てこなかった男」という短編。

僕は最初に作った自分の会社に「マウンテンマン」という名前を付けたくらい、「森から出てこなかった男」に昔からあこがれている。ちなみにマウンテンマンというのは雪男のことではなくって(雪男のことでもあるけど)、北米で、山の奥深くで世間との交わりを断って生活している世捨て人のような人のことを意味します。まさに「森から出てこなかった男」のことであり、僕は「出てきたくなかったけど簡単に出てきてしまった男」だったわけですが。

物語の舞台は北米。主人公は牧場で生まれ、15歳の時に徒歩で南米大陸最南端まで旅して、その後北米シエラネヴァダ(有名なヨセミテ国立公園を含む山岳地帯)で暮らし、最終的にアラスカに山小屋を立てる。

短編だからヘンリーソロー的な「自然の中で一人で暮らす精神の葛藤」的なことは少しも出てこず、とにかく自然が好きで好きで、その魅力に取りつかれ、どんどん深く自然の中に入っていく、という能天気なお話。この世に「マウンテンマン」なる人たちがいることなど知らず、そんな精神性は想像もつかず、でも自然が好きー!という感じの軽めのアウトドア好きな人たちが「こんな人もいるのか!」と驚くのにはとても良い文章だと思うけど、それ以上でもそれ以下でもない感じ。

「片岡義男」というと「バブルのころにはやった軽い文章」というイメージが今まで何となくあったが、「森から出てこなかった男」というハードなタイトルの文章は、その印象を少しも変えてくれなかったのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?