6月上旬発行予定の新刊紹介
古本のオンライン販売をやっている本屋なので新刊のことは考えなくてもよいのですが、来たるべきときがきたらなどと版元ドットコムを見ているときがあります。また、Twitterを見ていて「これおもしろそう」と思ってもいざその時になったらすっかり忘れていて出遅れることも多々あります。
ということで、せっかくなので、版元ドットコムを見て「自分が本屋をやる場合に仕入れたい」、「一読者として読みたい」と思った本を月2回に分けて紹介してみます。
6/1発売予定
・村井正誠 版画作品集(阿部出版)
ジャンル:アート
日本の抽象絵画の草分け的存在である村井正誠の版画集。絵画集はこれまで出版されているが、版画集としてまとめられるのは初めて。図版も多いということなので実物を見てみたい。
・谷根千の編集後記(森まゆみ、山﨑範子、仰木ひろみ / 月兎社)
ジャンル:エッセイ
地域雑誌「谷中・根津・千駄木やねせん」の編集者3人によるエッセイ。いろいろ調べたら、普通の人がそんなすごい地域雑誌作れるんだと驚いたのでどんな人なのか読んでみたい。雑誌自体も読めたらいいのに。
・HOJO(Kankyo Records)
ジャンル:音楽
アンビエント等の取り扱いで非常に有名なレコード屋のKankyo Recordsから新たに創刊される雑誌「HOJO」。"音楽を中心にデザイン、アート、建築、インテリア、音響など、暮らしを「補助」する情報発信"ということで期待高い。デザインも良さそう。
6月3日発売予定
・佐藤史生 傑作短編集 夢喰い(佐藤史生 / 河出書房新社)
ジャンル:コミック
漫画家の佐藤史生による短編をまとめた1冊。お恥ずかしいことに佐藤史生の作品を読んだことがないが、表紙に惹かれて調べると宮城県登米市の御生まれで、少女SFの大家とのこと。名作も含まれているらしくこの機会に読みたい。
・五月の迷子(魚住陽子 / 駒草出版)
ジャンル:小説
小説家・歌人の魚住陽子の掌編小説集。紀伊国屋書店で働きながら小説を勉強して小説家になっているという経歴がすごい。「小説の書けない時」ってフォルダに入っていた掌編小説という時点でおもしろすぎる。
・新凱旋門物語(ロランス・コセ / 草思社)
ジャンル:小説
タイトル見て、新国立競技場って新凱旋門みたいでちょっとおもしろい名前だなと思っていたことを思い出した。「東京都同情塔」の九段理江氏が推薦文を書いているのも興味をそそる。
・写真文学論(塚本昌則 / 東京大学出版会)
ジャンル:評論
「写真がその成立に大きな役割を果たしている文学」という定義づけがなされた「写真文学」についての評論。個人的にパッと思いついたのは「舞踏会に向かう三人の農夫」だったが、目次にはなかったので実際どういうものを指すのか知って小説も読んでみたい。
6月4日発売予定
・泉鏡花きのこ文学集成(泉鏡花 / 作品社)
ジャンル:小説
言わずと知れた泉鏡花の小説集だけど、「きのこ」で括れるくらい「きのこ」関係の作品があるんだという驚き。
・ふつうの軽音部(2)(クワハリ、出内テツオ / 集英社)
ジャンル:コミック
今一番おもしろい漫画。ジャンプ+で連載中。
・しぶとい十人の本屋(辻山良雄 / 朝日出版社)
ジャンル:本屋
「本屋なんてジャンルないよ」って思われるかもしれませんが、本屋本というのは一定数出ています。今月はもう1つありましたが、こちらを選びました。当たり前ですが、このご時世本屋になっている人は年齢・性別問わずいろいろいるので、そういう声を拾う気もないものは論外ということで。荻窪の有名店「Title」の店主が著者。読んだら言いたいことありそうだなと思いつつ、先人の言葉は聞くのが大事。本屋話が盛り上がっているので、この機会に読むならこれだと思います。
・佐野繁次郎装幀集成 増補版(西村義孝 / みずのわ出版)
ジャンル:アート / デザイン
すでに刊行済みの「佐野繁次郎装幀集成」の増補版。装幀を多数手掛けた画家佐野繁次郎の作品を多数まとめたコレクターによる1冊。ちらっと見たらけっこう攻めた感じのものもあり、じっくり見たい。
6月6日発売予定
・きみのまち 歩く、旅する、書く、えがく(今日マチ子 / rn press)
ジャンル:エッセイ
漫画家今日マチ子の初のエッセイ集。漫画家としてこれだけ有名な人なのにエッセイ初めてなのが意外。「#stayhome」シリーズを書いていた人のコロナ後の自身の動きというのも興味ある。
・パパイヤ・ママイヤ(乗代雄介 / 小学館)
ジャンル:小説
2022年発売の小説の文庫化。間違いなく現代で最もおもしろい小説家の1人であり。今後も名声を築くこと間違いなしの乗代雄介作品なので、未読の方は文庫化記念にぜひ。いつからでも遅くはないです。
6月7日発売予定
・選択的夫婦別姓 これからの結婚のために考える,名前の問題(寺原真希子、三浦徹也 / 岩波書店)
ジャンル:人文
岩波ブックレットは安価で質の高いものが多いので期待を込めて。法律的観点からの話が多そうな目次でした。いろんな観点から「選択的夫婦別姓制度」は理解して確実に導入に向けて動くようにしていきたいものです。
・闇の中国語入門(楊 駿驍 / 筑摩書房)
ジャンル:言語
「闇の」って人文界隈で流行っているというか、一部の界隈でけっこう使われていたのでその系譜なのかなと勝手に思ってしまった。(多分違う)言語の批評から社会にも接続する感じみたいだけど、単純にそういう表現あるんだとか、日本語でもあるわーとか思うのかなとかそういう興味が湧いた。新書なので手に取りやすい。
6月8日発売予定
・ある翻訳家の取り憑かれた日常(村井理子 / 大和書房)
ジャンル:エッセイ
おもしろすぎる翻訳家・エッセイストの新刊ということで、読まない理由がありません。おもしろだけではないテーマも多々出てくるだろうなということはTwitterを見ていると想像が容易いが、それが文章になるとどうなっているのか気になって仕方がない。
6月10日
・日常の言葉たち(キム・ウォニョン、キム・ソヨン、イギル・ボラ、チェ・テギュ、牧野美加 / 葉々社)
ジャンル:エッセイ
これ多分絶対おもしろい。葉々社は梅屋敷のとてもいい本屋ですが、そこの出版事業として発売されるのも信頼度がめちゃくちゃ高い。いずれも韓国の女性で本を出しているけれど、それぞれ別の顔をもつ4人のポッドキャストでの身近な「言葉」に関する会話をもとに文章化したものをまとめたものとのこと。
・記号説1924-1941(北園克衛 / 思潮社)
・単調な空間1949-1978(北園克衛 / 思潮社)
ジャンル:詩
詩人・デザイナーの北園克衛の前衛詩による詩集。前者が戦前の作品、後者が戦後の作品をそれぞれ収めている。元は2014年発行の詩集だが、新品は長らく手に入らない状態だったためか、この度新装版として発売。短歌ブームの大きさの影に隠れている感もあるが、詩も受け入れる土壌が若い人を中心にできている印象なので、そういう人たちに届く機会になれば。
・初夏ものがたり(山尾悠子、酒井駒子 / 筑摩書房)
ジャンル:小説
山尾悠子の初期作品「オットーと魔術師」に収められていた4作に酒井駒子の挿絵を加えた1冊。作者もさることながら、装幀:和久井直子、挿絵:酒井駒子という盤石の布陣。いまやその道の大家となった作者の若いころの作品が文庫で読めるというのは非常にありがたい。作者自身の作品紹介も併せて読むのが良し。
・平熱のまま、この世界に熱狂したい 増補新版(宮崎智之 / 筑摩書房)
ジャンル:エッセイ、評論
2020年に発売された本の文庫化。造語も数多く、それだけ時代の空気を感じてうまく言葉にすることができる作家だなという印象があり、文庫化されるのでこの機会に手に取りたい。解説が山本貴光、吉川浩満というのも絶妙な人選。
・神戸、書いてどうなるのか(安田謙一 / 筑摩書房)
ジャンル:エッセイ
こちらも文庫化。神戸在住のライターによる、神戸に関するエッセイ。神戸の街の空気感が文章から伝わってきて行きたくなるし、いろいろな都市でもこんな文章があったらいいなと思う。解説がtofubeats、表紙の絵は坂本慎太郎という音楽好きにもたまらない座組。
・価値の社会学(作田啓一 / 筑摩書房)
ジャンル:人文
1972年に発表された日本社会学の名著の文庫化。初版はもちろんのこと、2001年に岩波モダンクラシックから発売されたものもかなり高額で、とてもではないが簡単には手に取れないので、ありがたい。それでも文庫とはいえ1800円+税で600ページ超えはかなりのボリューム。
・歩き娘 シリア・2013年(サマル・ヤズベク / 白水社)
ジャンル:小説
詳しく知らないけれどもニュースに出てくる国や地域というのは一定数あり、事実を詳しく知ることも大事だが、その入口としてその国の小説を読むというのも1つの方法のように思う。近年では、アフガニスタンの女性作家による短編集「わたしのペンは鳥の翼」が記憶に新しいが、こちらはシリア人作家によるシリアを舞台にした小説。同国内での内戦下の少女が「あなた」にあてた手紙という形式で綴られる。
6月11日発売予定
・美しいブックデザイン(デザインノート編集部 / 誠文堂新光社)
ジャンル:デザイン
21人のデザイナーによるブックデザインを、自身による解説とともに600点あまりを掲載している1冊。凝ったデザインの本であればあるほど、物としての本を買っている人間としては嬉しくなるので、どういうことが考えられているのかを知れるのも嬉しい。気になった本を買うのも良いかも。
6月12日発売予定
・読んでばっか(江國香織 / 筑摩書房)
ジャンル:エッセイ
江國香織のエッセイ集。タイトル通り、読みものに関するエッセイということで、ファンからすると何を読んでいるのかを知れるだけでも嬉しい一冊なのでは。「都の子」や「泣く大人」などの既刊エッセイが好きなので個人的にも楽しみ。
・身体の変容 メタバース、ロボット、ヒトの身体(高橋一行 / 社会評論社)
ジャンル:評論
目次がすでに出ていて、「性」の章がおもしろそうだったので選んだ。フーコー、マラブー、バトラーに対する、谷崎潤一郎、円地文子、笙野頼子。昨今の騒動について、何がどうしてこうなっているのかということを考える上でも読んでみたい。
6月14日発売予定
・フォロンを追いかけて BOOK1(ジャン=ミシェル・フォロン / ブルーシープ)
ジャンル:アート
ベルギー人のアーティスト、ジャン=ミシェル・フォロンの初期のドローイング作品を集めた画集。ドローイングだけでなく、プルーストの質問表への回答も添えられているということで、そちらも楽しみです。ジャン=ミシェル・フォロンは今年の7月東京ステーションギャラリーから始まる「空想旅行案内人 ジャン・ミッシェル=フォロン」展でここからまた注目が高まりそう。BOOK2および図録は7月下旬発売予定とのこと。
・日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議(西田亮介、安田洋祐 / 日本実業出版社)
ジャンル:社会
社会学者と経済学者による対談形式で社会問題について語る感じの本だと思われる(詳細がどこにも書いていないのにイベントの情報だけが溢れている)。両者ともそれぞれの分野で活躍が目立っていますので、このタイミングでの対談本はけっこうインパクトがありそう。西田さんは最近は学者に限らずいろいろな人と話しているイメージがあり、こういう組み合わせの方が珍しくなっているのでどういう話をしているのか気になる。
・存在の耐えられない愛おしさ(伊藤亜和 / KADOKAWA)
ジャンル:エッセイ
著者は新進気鋭のエッセイスト。自身のnoteの「パパと私」という記事が当代きってのエッセイストであるジェーン・スー氏によって取り上げられて一気に注目を浴びた。同記事などの発表済みのものに加えて、書き下ろしも収録ということで、そちらも楽しみ。
6月上旬だけで、2398冊が発売される。本は売れていない割にはめちゃくちゃ発売されている。本当に売れていないんでしょうか。こんなに発売されているのに。いや、本当に売れていないのですが。
別に買わなくても本は読めるので、図書館で借りるもよし、中古を待つのもよしということで、好きな方法で気になった本が少しでも読まれるといいなと思います。
6月上旬は筑摩書房からいい本がかなり出ています。今回取り上げなかったものでもちくま新書でおもしろそうなのがありました。文庫もかなりいいラインナップなので、何か迷ったらちくまの新刊を見てみるといいのではないでしょうか。
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