日本酒のおいしさ 1 成分と味の構造

日本酒の裏ラベルに「アルコール分」の他に、「日本酒度」、「酸度」、「アミノ酸度」などの成分値が記載されていることがある。「日本酒度」は、日本酒の比重を表すのに便利なように工夫された独特の尺度で、計量法では、

          日本酒度=((1/比重) – 1) ×1443

と定義されている。日本酒度は15℃で測定し、4℃の純粋な水と同じ重さであれば0、それより軽いものは正の値、重いものは負の値をとる。日本酒の比重はアルコール分が同じであれば、不揮発成分(主として糖分)によるため、概ねマイナスになるほど糖分が多い。
 「酸度」は、日本酒中の遊離酸型の酸の総量を、0.1規定の水酸化ナトリウム溶液により滴定した値であり、「アミノ酸度」は、日本酒中のアミノ酸をホルモール滴定法により測定した値である。
 国税庁では、毎年、全国市販酒類調査を行っておりHPには、清酒の成分値が公開されている。平成30年度の一般酒の成分値を平成元年度の一級酒と比較すると、一般酒の日本酒度は3.4高くなり、酸度は0.1、アミノ酸度は0.3減少している*。糖分が少なく酸もアミノ酸も少なくなっていることから、日本酒の味はライト化しているといえる。ただし、ここ数年については成分変化が少なくなっている。

* 国税庁全国市販酒類調査, https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/seibun/06.htm
  平成元年のデータは平成25年度調査分にある

 日本酒の味はどのような構造になっているのであろうか、元国税庁醸造試験所長の佐藤博士は、日本酒の味は、甘辛、濃さ(コク、はば)、きれいさ(調和・まるい、雑味)の3次元で表現されるとしている*。

* 佐藤信他: 清酒の味覚に関する研究(第一報)ー因子分析法の適用ー, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/62/5/62_5_506/_article/-char/ja

* 佐藤信他: 清酒の味覚に関する研究(第二報)ー多次元尺度構成法の適用ー, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/69/11/69_11_771/_article/-char/ja

 一方、日本酒の成分には五つの基本味のうち、塩味はなく、ビールのイソフムロンやワインのポリフェノールといった特徴的な苦味、渋味成分は含まれないので、甘味は糖分、酸味は有機酸、苦味・うま味はほぼ窒素成分と考えられる。日本酒では、窒素成分が濃さやきれいさに大きく影響している。
 また、アルコール分は、ビールで約5%、ワインで12%前後(7-14%)、日本酒は15%前後(13-18%)であり、日本酒はアルコールの有する「甘味、苦味、刺激感」* で香味のバランスを保っている。12%あたりまで希釈してもなんとか味の調和は保てるが、10%以下にしようとすると糖分や酸(炭酸を含む)を補う必要がある*。

* 梶浦英明他: エタノールの味, https://www.jstage.jst.go.jp/article/tasteandsmell/6/2/6_KJ00002397290/_article/-char/ja

* 小幡孝之他: 新しいタイプの清酒へのアプローチ, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/79/9/79_9_659/_article/-char/ja

初出 醸界協力新聞 2013

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