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第33回 家庭内暴力と闘うモーツァルトの国(オーストリア)


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目にいっぱいの涙は、どんな言葉も及ばない強いインパクトで恐怖を語る。

オーストリア・ウィーン市の「子どもと女性への暴力廃絶キャンペーン」の1枚。2004年、ウィーン市女性局で頂戴した。下部のドイツ語が雄弁だ。

「ベッドから落ちただけ?」

診断書いわく「上まぶた充血、頭蓋骨出血、半月板損傷」
両親いわく「眠っていてベッドから落ちたようです」
子どもへの暴力は隠されることが多いのです。
女性と子どもへの暴力を撤廃しよう。

ウィーンの誇りは、モーツァルトやシューベルトだけではない。女性と子どもへの暴力廃絶への取り組みも自慢の種だ。

代表的政策はウィーン市の「女性ホットライン(電話相談)」で、24時間・365日休みなし。その実践は今やEUの模範である。

ウィーン市女性局の職員によると、相談には実名も住所もいらない。スロベニア語、ポーランド語、チェコ語、英語などOK。悩みの軽重も問わない。

「女性ホットラインは1995年12月に、フェミニストの副市長グレーテ・ラスカが牽引車となって、市庁舎の一角でスタートしました。家庭内暴力(DV)は、女性の尊厳を踏みにじる深刻な犯罪です。これは、女性の自己決定や経済的自立を獲得するたたかいでもあります」

女性ホットラインは、オーストリアではウィーン市のほかに6つあって、ウィーン市は公費100%、他市は約90%。ほかに70年代に女性運動家たちが設立したシェルターも多数ある。

さらにDVインベンションセンターでは、被害女性が警察や裁判所に臨むときの心理的支援から、就職の支援まで行なう。DVは子どもや女性の心に癒しがたい刻印を残すから、小さな兆候も見逃さないよう、警察や病院への出張研修も怠らない。

日本で10年以上、DV被害者支援を続ける吉祥眞佐緒「エープラス」代表は言う。

「もちろん、わが国の公的支援の余りの少なさは痛い。でも、もっと問題なのは、DVが男性と女性の支配・被支配構造から起きる、という理解が、男性はむろん女性にも非常に足りないことなのです」

この男と女の支配・被支配問題。世界共通の古くて新しい難題だ。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2016年3月10日号)


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