第95回 男たちよ、育児もあなたの仕事だ(オランダ)
「この胸毛の男のポスター、気持ち悪いのよ、ワーッハハハ。どう思う、あなた?」
「オランダ女性の利益」のリーダ・ナロップさんは、縦170㌢以上、横100㌢以上のド迫力ポスターを広げながら笑い転げた。
パパの育児を促すキャンペーン用で、ユトレヒト市男女平等局から資金が出た。ユトレヒト駅の広告塔にあわせると、こんな大きさになるのだという。
「オランダ女性の利益」は100年以上の歴史を持つ民間女性運動団体だ。オフィスは、ユトレヒト駅から徒歩15分のところにあった。訪問したのは4半世紀前の1994年。
北欧ノルウェーでは、政府を批判する市民団体にも公費補助されると知って驚いたが、オランダも同じだった。「オランダ女性の利益」には自治省から日本円で年約900万円が出ていた。『女性議員を35%に』と描いたゼッケンをつけた女性たちが大勢ワーッと電車に乗り込むゲリラ選挙戦も話題を呼んだ。
それで、オランダ男性の育児休業取得は進んだのか。
実は最新調査では、オランダ男性のわずか11%しか育休を取っていない。7%の日本男性よりはずっとマシだが、ノルウェーの90%とは雲泥の差。国際調査で「子どもの幸福度世界一」のオランダなのに育休のこの低さ! なぜか?
カギは、一般的に労働時間が短いことのほか、労働者に「正規」対「非正規」の格差がない点にありそうだ。
オランダの平均労働時間は週38時間。残業も非常に少なく、毎日子どもと夕食をとれる家庭がほとんどだ。労働時間差別禁⽌法 (1996)が、 パートタイムとフルタイムの待遇格差を厳しく禁じており、有給休暇は週の労働日数の4倍と規定されている。週5日なら20日、4日なら16日、3日なら12日…となる。
問題の育休も、有休と同じ原理だ。こちらは週の労働日数の26倍と定められていて、週5日だろうが3日だろうが、それぞれの労働時間に比例して育休が取れる。
あまり父親が取らないのは、この厚い労働条件のおかげで日ごろから家庭で過ごせる時間が多いことと、母親の負担がそれほど重くない、ということのようだ。
労働時間差別禁止法のない日本の非正規労働者は、正規労働者が持つ権利を持っていない。同じ職場で同じ仕事をしていても、正規なら育休を1年取れるのに、非正規は「雇用を更新されないと困るので、妊娠は避けています」となる。
今、国会で、男性育休の新制度を検討中らしい。男親にだけ育休を4週間与え、その間、仕事もできるのだという。これでは、育休を取りながら育児・家事を放り投げる男性が増えるのではないか。
(三井マリ子/「i女のしんぶん」2021年6月10日号)
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