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デッドエンドのその先へ - ONE PIECE視聴記録#9.5

実写版からうっかりアニメ・ワンピースを見始めたオタクの記録、今回は寄り道。
ワンピース THE MOVIE デッドエンドの冒険、視聴記録です。

デッドエンドと呼ばれる、海賊たちによる海賊たちのための、ルール無用なんでもありな裏レース。
賞金は3億ベリー、主にルフィの食い意地のせいで慢性金欠病の麦わらの一味は、冒険の匂いも嗅ぎ付けてレースに参加することにする……というあらすじです。

面白かった!素直にとても面白かった。かなりざっくりとしたほぼ二分割構成でしたが、映画ならではの良さが多分に詰まっていました。

見られた方はお察しかと思いますが、私はシュライヤ・バスクードという男のことがとても好きです。
あと、一味とルフィの関係性にしっかり焼かれました。よろしくお願いします。

それでは参りましょう、今回のさけおさんは〜?

  • シュライヤ・バスクードという男

  • 一味とルフィ

  • ゾロとサンジ

の3本を主軸にして、お送りします!
ジャン、ケン、ポン✌️!ウフフフフフフ!

シュライヤ・バスクードという男


まずもってこれだけは言わせてくれる?

私「CV宮本充」という字面と現実に大変弱いねん。

あの方凄まじくいい声してらっしゃいますよね。大好きです。ええもう大好きですとも。

無料だというレストランで、ルフィに負けないくらいの量の食事をひとりで食べていたシュライヤですけれど、ルフィの伸びる腕にどんどん食事は奪われて、思い切り喧嘩を売るところが初対面でしたね。

あの後、ガスパーデの手下達との戦闘シーンが挟まりますけれど、シュライヤの身のこなしがあまりにも軽すぎて、もうこの時点で全部持っていかれてしまいました。

私個人としては、ワンピースという作品、というよりは世の数々のジャンプ作品って、基本的に「剛」と「速」の2点を大事に描写されていると思うわけですね。

力強いパンチや蹴り。目に見えないほどの速度の斬撃や回避行動。勢いのある力強さは何よりも目を引きますから、これはとても大事な要素だと思うわけです。

しかしながらそんな中で、シュライヤ・バスクードという男、大変「柔」の男です。

滑らか!!動きがあまりにも滑らか!!

映画特有のアニメーションのヌルヌル感も相まって、シュライヤの柔軟な戦いぶりが非常に映えます。ひらりひらりと攻撃を避けて、その場にあるもの全てを利用し、的確に確実に倒していく。

そしてすらりと降り立って、ちょっと嘲るように笑いながら、小気味よく雑魚を一掃する。

私はね、飄々とした男のことがとても好きです。故にシュライヤ・バスクード、好きにならざるを得ません。この斜に構えた感じ、もうこの登場時の立ち回りの時点で大好き。

賞金稼ぎだと言うシュライヤですけれど、普通に血と汗に塗れた復讐譚の香りがプンプンしますよね。こういう男は明確な目的があり標的がいて、そのために手を汚していると相場が決まっています。

そしてそれはガスパーデが登場した時点で、当然確信に変わりました。こいつの標的、ガスパーデやわ。

ワンピースにおける、いわゆる「全てのヘイトを集めていく」タイプの敵であるガスパーデ。元海軍で、ついた異名は「将軍」。アメアメの実という悪魔の実の能力者です。

まあルフィからすればそんなことはお構いなし。こいつ嫌いだ、というわかりやすく超絶シンプルないつもの理由で、ガスパーデに喧嘩を売ることになります。

ニードルスというガスパーデの側近に危うく首を引き裂かれそうになりますが、気が向いたら船に来い、手下にしてやる、なんて本気かどうかもわからないガスパーデのお誘いのおかげで難を逃れました。まあもちろんルフィは即答で断ってましたし、シュライヤもお断り申し上げてましたけど。

ガスパーデという男、海軍が裏レースを追うことになる描写の際に卑怯者呼ばわりされていましたので、頭が回るタイプの嫌な海賊なのだろうというところまでは簡単に察しがつきます。同時にシュライヤの過去に関しても、ある程度の察しがつきました。この時点で私絶対弾け飛ぶなと思いました。

シュライヤという男ひとりだけで、十分に死を覚悟していたんですよ。だというのに、だというのに。

ええそうです、アナグマのことです。

ガスパーデの蒸気船のボイラー室で働くビエラ爺さん。病気の爺さんを心配して、薬をくれとガスパーデの一味に頼みますが、聞いてはもらえない助手の子供・アナグマ。

ガスパーデに銃を向け、そして「この銃で海賊を殺して懸賞金を手に入れる」と宣言しました。面白がったガスパーデは、アナグマを向かわせ、「殺してこれたら仲間に入れてやる」という旨の約束をします。

そして銃を危なげに抱いて駆け出したアナグマ。道中でシュライヤとすれ違います。

いやここ兄妹なのほんま勘弁してくれん?

シュライヤに死んだ妹がいたことが発覚した時点で兄妹じゃんもう!!!!!!!!!って叫び散らかしましたけどね、あの、それでは聞いてください。「さけおはお兄さんと少女の組み合わせが好き」。

まして死んだと思っていた妹その人だなんてそんなの私特攻が過ぎます。妹思いのお兄ちゃんなんて本当にまじで私特攻なんですよわかりますか?

ガスパーデに街を焼かれ、幼かった妹は濁流に呑まれ、必ずガスパーデを殺すと誓って生きてきた男、シュライヤ・バスクード。

愚かな生き方だとわかっていても、そうすることでしか生きられなかった男、シュライヤ・バスクード。

「生きる意味なんてない」という旨の発言、兄妹どちらからも飛び出していて、ア〜〜兄妹だ〜〜〜よく似てらっしゃる〜〜〜〜と天を仰ぎました。

シュライヤは、ガスパーデを殺せませんでした。
特別な力を何ら持たないシュライヤですけれど、ニードルスだって頭を使って上手く倒しており、めちゃくちゃ格好良かったんですよ。
でもシュライヤは、ガスパーデを殺せなかった。

ガスパーデを倒したのはもちろんルフィでした。
そしてそのルフィを助けてくれたのは、生きる意味をなくしたシュライヤをも助けてくれたのは、船の動力源を爆破したことで死んだと思われていたビエラ爺さん。

自分のことは構わないからアナグマだけ助けてやってくれ、なんて言っていた爺さんですけれど、一味に教えられたアナグマの「生きる」という覚悟に触れ、前を見ることを選んでくれました。そしてその前を見る覚悟が、勇気が、シュライヤにも伝播していきます。

8年前、ガスパーデが街を襲ったあの日。濁流に呑まれ、流されてきたアナグマことアデル・バスクードを救ってくれたのはビエラ爺さんでした。
そして、ガスパーデ殺害を目的に据えることでしか生きられなかったシュライヤ・バスクードを救ってくれたのもまた、ビエラ爺さんでした。

帽子をとって、長い髪が姿を現し、大きく手を振っている少女。
それが死んだはずの妹だとわかったときの、シュライヤの表情が忘れられません。

この兄妹にとったら、ビエラ爺さんはもう、第2の親のようなものなのかもしれませんね。爺さんの存在がなければ何もかも成り立たない話でした。

陽の当たる場所で生きていく、前を向いて、未来へ向かって1歩進み始める。その覚悟と勇気が、爺さんとアデルの存在によりシュライヤの中に生まれた瞬間が、私はとても好きでした。

別れのシーンで賞金稼ぎたるシュライヤから賞金首たるルフィに向けられた、「もう会うことはない」という台詞が、彼が血濡れの世界から足を洗うことを示していて、めちゃくちゃよかったです。

飄々とした男が本音を晒した瞬間からしか得られない栄養って、あるんだよなあ………………(ここまで紡いできた割と綺麗な文章を全て台無しにする発言)。


麦わらの一味、そしてモンキー・D・ルフィ

ロロノア・ゾロとサンジ


このデッドエンドの冒険という映画、ゾロとサンジというふたりの男の扱いがめちゃくちゃ上手いな………………と個人的に思って嬉しくなりました。

なんかこう、あるじゃないですか。メインに据えられているシーンではなく、端々の、特筆すべきことではない内容からしか得られないものって。

1時間半という限られた時間の中で、ロロノア・ゾロという男と、サンジという男、それぞれの役割がかなりしっかり描かれていたのが私の中ではかなり良かったです。もちろんこの2人以外もそうでしたけどね。

まずもって、映画冒頭のバーでの食事シーンが良かった。
資金繰りに悩むナミさんの話を聞いてくれているのはまずサンジです。彼はコックですし、一味の慢性金欠病の原因は一にも二にもルフィの食欲なので、当然サンジとの会話になりますよね。

とは思いつつも、やはりレディのお悩みに最初に耳を傾けてくれるのはサンジなんだよなあ……という納得と喜びがそこにはあります。

その後バーカウンターでマスターと怪しげな会話をするひとりの海賊を見て、金の気配を察知するナミさん。

その様子に対してもやっぱり最初に気づくのはサンジです。
そして、全ての状況を把握しており、「ナミさんが金の気配を察知した」ということまできっちり理解した上で会話してくれるのがゾロです。

ゾロの視野の広さと、一味への、特に古参メンバーへの理解力の高さには恐れ入ります。戦闘のことを除き、現状ナミさんの機微に関して最も理解度が高いのはゾロな気がします。尚ルフィはジャンルが違うので除きます。

そしてその後、マスターに通され、裏口から謎の洞窟を進む一味ですが、ここでの配置でも私は嬉しくなってシンバル猿になりました。

やっぱりゾロが先頭なんですよね。そしてサンジはレディの隣でナイトをしていらっしゃいます。ルフィが何やってるかも、おそらく確認ができる配置にいるはずです。

私はね、ゾロとサンジの「戦うならまず俺たち」という自覚と覚悟の部分を大変愛しています。

放っておいたら船長は勝手に腕を伸ばして敵をぶん殴ってしまいますし、ナミさん、ウソップ、チョッパーは現状役割的にも実力的にも咄嗟に戦闘配置につける人達ではありません。

ロビンさんは大丈夫でしょうが、彼女は彼女で役割が違います。完全に一味の仲間になったとて、彼女は前に出るべき人ではありません。

そんな中、ゾロはあくまでも「剣士」を生業として生きてきました。戦うことこそが彼の役割であり、刀がある以上間合いも広く、初速に優れています。そして何より彼は気配に敏感。メリー号に潜り込んだアナグマに真っ先に気づいたのもゾロでした。

サンジはあくまでコックですが、生きてきた環境が環境なので自然と鍛えられており、足が出ることに何ら躊躇いはありません。当然戦いを生業としてきたゾロに比べれば人の気配や殺気には鈍いですが、主軸にしているものが違うからこその視点・機転の違いがあります。

それぞれが優れたところで、それぞれの足りない部分を補い合っている感じがあり、この2人が並び立って戦うところは結構かなり好きなんですね。

お互いがお互いに遠慮容赦など微塵もなく、それ故に喧嘩もするし、心配だってしている描写は互いにほとんどありません。これってかなり、特にゾロ側にとっては大きいことだと思うんです。

自分がどうにかしてやらなきゃいけない、という場面が多い一味の中で、サンジのことだけは基本放っておいていいんですよ。守ってやる必要も助けてやる必要もないんです。

どんなに面倒でも、文句を垂れても、必ず一味のことは助け、守ってくれるゾロですが、サンジのことだけは「あいつは放っておいても自力でどうにかできる」と思えている。なんならサンジは、自分と同じ「一味を守る側」だとすら、おそらく思っている。

アラバスタのときだってそうでした。主に心配していたのは、明確な戦闘スキルを持たないナミさんとウソップのことばかりです。
ナミさん、ウソップ、チョッパーのあたりには「下がってろ」と言いますし、ルフィにもまた違った意味で同じ台詞を言いますが、サンジにだけは言いません。

一味の安全の確保をひとりで担ってきたゾロにとって、かなり嬉しいことだと思うんですよ。まあ相手がサンジなので、嬉しいという感情は発露する間もなくサラッと消えてなくなるでしょうけど。

互いが互いの実力を認め合っているからこそのことです。アーロンとの戦いで、並び立って命をかけた経験が多分大きかったでしょうね。私あそこのゾロとサンジ、かなり好きです。

そんなわけなのでこのデッドエンドの冒険でも、敵船に乗り込んでいき1分で終わらせると声を揃えたところ、狂喜乱舞しました。
ルフィを抑えてたまには任せろ的なことを言っていたのも含めてシンバル猿案件です。

ゾロとサンジのタイムアタック宣言シリーズ、集めて永遠に流したい気持ちすらあります。アラバスタのやつも好きだったんですよね。

この映画、子供であるアナグマから見た麦わらの一味、という視点を含んで展開されていくため、特にゾロとサンジの強者感が端々で目立ったように思いました。

いや、本編だとルフィが基本的に何もかも持っていくというか、ルフィ・ゾロ・サンジがひとりの相手に並んで戦った後ルフィが勝利する、という流れが印象深いため、結局ゾロとサンジの上にルフィがWINNERとして立ってしまうんですよね。

アラバスタなんかはクロコダイルと戦ったのはルフィだけでしたけれど、大ボスを倒すことを全身全霊でルフィに委ねたシーンがかなり印象深かったため、やはり「やっぱり最後はルフィなんだよな」という、役割分担以上の何かを感じてしまうわけです。

ところが、この映画に関しては完全に役割分担がなされており、ゾロとサンジはゾロとサンジのまま、強くて格好いいふたりのまま、映画が終わりました。おそらくそれも相まって、ふたりの強者感がマシマシに感じます。

ルフィがガスパーデをぶん殴りに行くことを決める理由って、今回に関しては本当に「ルフィがそう決めた」一択です。
ルフィがガスパーデをぶっ飛ばしたかった理由だって極論言ってしまえば「おれはお前のこと嫌い(その上しょーもない理由でレースを邪魔した)」ってやつなので、ルフィVSガスパーデ、完全にゾロ・サンジは戦闘的にも心情的にもノータッチ。

「あいつの喧嘩だ、怒られるぞ」という旨のことをゾロが言っていましたが、最早それが全てです。
ゾロとサンジは船長がしたいといった喧嘩に付き合っているに他ならず、船長が別にもうええわと言えば何もせずに帰れる程度のそれなのです。
アーロンやクロコダイルのときとは違い、「目的を共にしていない」のですね。

故にルフィの裏方的サポートにのみ徹します。アナグマことアデルを保護し、サイクロンから逃れるべくギリギリまで待ちながらもメリー号を安全なところまで離しました。

ゾロとサンジがゾロとサンジの役割に徹したからこそ感じられる、一味の安定感、安心感、強者感は確かにそこにありました。
みんながボロボロにはなっていない。それぞれがそれぞれの役割をきっちり果たすことで生まれる「麦わらの一味」という揺るぎなさ。たまらんかったです。

あと、この保護シーンにおいて、ゾロとサンジはちゃんとビエラ爺さんの覚悟を受け入れてくれていたのがかなり印象深かった。

死ぬ気なんてなかったかもしれないけど、ここで死んだとしても子供のようにかわいがってきたボイラーの最期を見届けるのだというビエラ爺さんの覚悟は、このふたりでもない限り、あんなにあっさり受け入れられるものではありませんものね。

いやあこの映画、ゾロとサンジ、相当良かったな。ありがたいです命助かりました。


ナミさんの怒り、チョッパーの優しさ


アナグマが言った、「生きる意味がない」という言葉。

そりゃナミさんの地雷だわな……と思いました。
だってナミさんは、「生きる意味がない」なんて言っていられない状況にいたのです。

8年間、ずっとずっと、母を殺した海賊の下で働いて、金を稼ぎ、村を買い戻すことだけを目的に生きてきました。

必ず生き抜かなければなりませんでした。村を買い戻すのは、自分でなければいけなかったのです。アーロンが気に入った海図を描ける、自分でなければ。

大切な人達を放って死ぬことなどできません。許されません。逃げたくなっても、逃げることは許されません。そんなふうに生きてきたナミさんにとったら、「生きる意味がない」なんて理由で命を投げ出してしまえるその身の軽さに、怒りだって湧くに決まっています。

そのことをアナグマにそっと教えてくれたのはサンジでした。サンジ、なんだかんだ言っても優しいですよね。

優しいんじゃん、なんてウソップにからかわれて、ほんとだななんでだ?なんて首を傾げていましたけど。女の子であることを本能的に察知していたのか、昔の己やナミさんに重ねたのか。

作品上はおそらくアナグマがアデルという少女である伏線だったのでしょうが、実際のところ理由はひとつではなかったかもしれませんね。

ナミさんの激しい怒り、当然ナミさんの過去を重々承知した上でこの映画を見ているわけなので、ああ……そらそうよ……と胃を痛めることになりました。

でも、あそこで思い切り怒ってくれるナミさんがいたから、そしてナミさんの過去や、他の一味もそれぞれ重たい過去を背負っていること、生きていれば見えてくる明日もあるということをそっと教えてくれたサンジがいたから、アナグマは前を向くきっかけを得られたのだと思います。

そしてナミさんと対照的に、終始ずっとアナグマに優しく、アナグマの味方をしてくれていたのがチョッパーでした。

チョッパーは当然お医者ですから、アナグマが本当は少女であることを知っています。身体の状態だってきっと良くはなかったでしょう、ガスパーデの船にいたわけですから。

アナグマに対して怒ったり、時には手を上げたりした一味に対して、アナグマを庇うように怒ってくれていたチョッパーの優しさ。やはり目を見張るものがあります。

ビエラ爺さんを何故助けなかったのか、生きろと言ったのはお前達なのに、と泣き喚いたアナグマに首チョップをキメて気絶させ、「こうする方が早いだろ」みたいなことを言ったゾロと、特にそれを責めなかったサンジに対して、本気で怒ったチョッパーの姿が印象深いです。

気づいてなかったのかよ、この子は女の子だぞ、というあのシーンです。
敵だと思い込んで思い切り手を出したら正体はガキだった、というときのゾロの衝撃もなかなかだったでしょうが、こちらもこちらでパンチがあったでしょうね。

子供なんてものは男の子だろうが女の子だろうがみんな同じように弱いものなので、男だ女だというのを理由にするのは違いますけれど、そもそもゾロもサンジもアナグマのことをアナグマという少年だと思い込んでいるからこそ容赦がないわけなので、「女の子だった」というのは相当な衝撃ですよね。

ルフィやナミさん、チョッパーは男だから・女だからという手厳しさは基本的にはありませんが(ナミさんの大人の男に対しての手厳しさはまた根源を別とするものと思うので今回は横に置いておきます)、ゾロとサンジは割と顕著にある気がしています。

くいなに対して「女だからなんだ」という旨の発言をしてはいましたけれども、それはあくまでもくいながゾロを負かすほどの実力者であり、それにも関わらず性別を理由に夢を諦めようとしていたからに他なりません。

ゾロはどちらかと言うと実力主義な考えだと思いますし、それ故に戦う力を持たない守るべき仲間はきっちり守ってくれます。ですがやはり、戦う力がないとはいえてめーは男だろ、という男性ならではの男性に対する厳しさは少なからず持っていると思うんですね。男見せろ、的なね。

サンジは更に顕著です。彼はレディに手を上げるなんて以ての外という男ですから、少女が相手だってそれそのものは大して変わりないと思います。扱いがレディに対するそれではなく子供に対するそれに変わるというだけで、女の子だ、ということさえわかってしまえば絶対に手は上げないでしょう。

ナミさんの怒りはアナグマの性別に関係ありません。ルフィのアナグマに向けられた言葉達はそれこそ性別なんて関係ありません。

けれどゾロとサンジは違います。アナグマのことを少年だと思っていたからこその手厳しさです。
アナグマはアデルという少女です。まだ幼い女の子に安易に手を上げたんです。彼らにとったらそら衝撃です。そしてそれを理解しているからこそ、チョッパーだって本気で怒ります。

あの心優しいチョッパーが、ゾロとサンジに対して本気で怒っている様子、とてもとても良かった。優しい人が怒ると、重大なことが起こっているという雰囲気がかなりあって、すごくいいですね。ゾロは反省してください。


ウソップの実力、ニコ・ロビンから垣間見えるもの


このデッドエンドの冒険という映画、一味の役割がかなりはっきりと現れていてよかった、という話を散々していますが、ウソップもかなり顕著でした。

いや、ウソップ、地味にめちゃくちゃ活躍してましたよね。狙撃手としての有能さを遺憾なく発揮し、割としっかり敵を沈めておりました。すごいよかった。

ウソップ、弱音を吐いて逃げ回る描写がまず入るだけに、彼の活躍シーンがやってくるのは彼自身が相当追い詰められてからであることがほとんどです。

男ウソップ、ここで逃げてなるものか、というスイッチが入って初めて、ウソップの格好いいところがスタートする。それがいつもの流れなわけです。

ですが、映画は1時間半。
メインは当然ルフィ。ストーリー展開も大事。そうなってくると、この初期段階の「持病の〇〇してはいけない病が……」などと言っているウソップの本気を出させるにはなかなか尺的に難しいと思います(もっと先に進んだら言わなくなるんだろうと思ってるけどもしかしてずっと言ってるのかもしれない)。

そこで輝くのが彼の狙撃技術ですよね。

いや、ウソップ、正しく自覚はなさそうですが、マジで狙撃手として恐ろしく有能なんですよね。基本的にちゃんと狙わせてさえもらえれば(後ろからナミさんとかに揺すられたりしなければ)百発百中です。

だからナミさんに、後ろについてこちらを攻撃しようとしている敵船をどうにかするよう指示を受けて、おれかよ!!なんて嘆きながらも、大砲で狙っちゃえば一撃必殺。ちゃーんと当ててちゃーんと敵を撃破しちゃいます。

いやこんな有能なことある?ってくらい有能過ぎやしません?狙撃って難しいですよ。

彼にもう少し落ち着きと冷静ささえ備わってしまえば、最早手のつけられない狙撃手になってしまいます。

不安がりで心配性なところは、そしてそれを真正面から自分の特性として受け入れられるところは、間違いなく彼のいいところです。そしてそれこそが彼をどうしようもなく強くしています。

焦って泣き喚いて1回背を向ける、というフェーズがなくなったら、もう彼すごいことになっちゃいませんかね。ちょっと狙撃の才能があって実は根性がありすぎるだけのただの一般人、を脱した瞬間すごいことになりますよほんと。

1時間半という短い尺の中で、ウソップは自分の仕事をきっちりこなして見せており、それがより一味の安定感を支えています。この仲間達がいれば大丈夫だわ、という全能感にも近いそれです。

そしてそれを強く大きく支えていたのが、ニコ・ロビンですよねえ。

あれだけしか人数のいない小さな船に、悪魔の実の能力者が3人も乗ってるって、確かに冷静に考えるとめっちゃ怖いなと思いました。アナグマにそうやって紹介してるナミさんの発言を聞いて、これは誰だって泡吹いて泣くわという気分になった、本当に。

そんな悪魔の実の能力者の一角であるロビンさん、やっぱりちゃんと一味に協力的なんですよね。

アニオリ編見てから映画見てよかったなーと思いました。アニオリでロビンさんと一味の距離感を予習しておいてから、映画を見たのは順序として大正解です。

川を下る船の勢いが良すぎて、どう考えても曲がり切れない……となったとき、ルフィをクッションにして船は空へと飛び上がります。

この後どうすんだよ!このままだと地面に落下だぞ!と思っていたら、ロビンさんがハナハナの実の能力で巨大な腕を作り、よいしょ、と川まで船を引っ張って、規定コースへ戻してしまいました。あまりにも強すぎる。規格外もいいところです。

でも、海賊たちが集まるレースですし、ロビンさんは一応変わらず賞金首なわけで。
悪魔の実は同じものはふたつとしてないって話ですから、ハナハナの実の能力、あそこまで目立っちゃうとニコ・ロビンだ!!ってなりません?大丈夫?とか視聴者的にはちょっと思うとこあるじゃないですか。

ルフィ達はまあ言動も見た目もそもそも目立ちますし、それに同行してる時点でまあ仕方ないんですけど。
それはそれとして裏工作を得意とするはずのロビンさんが、表立って目立つ行動をとる程度には一味の味方をしてくれているのだな、というのがね、私的にはかなりよかったわけです。

生きていく理由も希望もない。だけどそれでも、成り行きで生き延びて、そして麦わらの一味の船に乗りました。

乗ったからには、ちゃんと味方をしましょう。助けましょう、協力しましょう。あなた達の気持ちが許す限り。
そんな感じが垣間見えて、ロビンさんという人、やっぱり全然めちゃくちゃいい人なんだよな……とか思って、天を仰ぐなどしました。

本編はともかく、これはあくまでも映画なので、一味は一応ロビンさんのことを「ロビン」と名前で呼んでいましたが、ロビンさん側からは一切名前を呼んでおりませんでしたね。胃が痛いったらもう。

一味とは確実に一線を引いていて、まだ完全に仲間になっているとは言い難いニコ・ロビン。
けれど、一味と過ごすはちゃめちゃな時間は、確実にロビン姉さんに楽しさを運んでいるようにしか思えず、やはり私は天を仰ぐわけです。

ガスパーデとルフィの戦闘中、崩れゆく蒸気船の横で船をつけて待っている一味ですが、やばいほどでかそうなサイクロンが待ち受けているわけですね。

そのサイクロンを見て、ロビンさん、ものすごいにこやかに「直撃ね!」って言うわけですよ。

めちゃくちゃめちゃくちゃ楽しそうやんけ。

ロビンさん、命をかけるスリルとか楽しんじゃうタイプ?深刻そうでもなんでもなかったですけど。めっちゃ明るくにこやかに「直撃ね!」って言った。すごい楽しそうな顔してた。

ロビンさんが楽しそうだと嬉しくなってしまうオタクなので、あのシーン好きすぎて後でもう1回そこだけ見ようと思っています。あとゾロとサンジの戦うシーンね。

この船っていつもこうなの?というどこか楽しげな問い、船に乗ったそのときにもありましたね。ロビンさん、ひとりで本を読んでいるのもお好きでしょうが、仲間や家族に囲まれて騒がしい日々を送るのも実は好きだったりするのでしょうか。少なくとも一味のめちゃくちゃ加減はとても楽しんでらっしゃいますよね。好き。

とんでもない船に乗っちまったらしいシリーズ、ロビンさんの場合は「この船っていつもこうなの?」なのだろうと思うんですけど、楽しそうなのが本当に嬉しいのでもっと言ってくれませんか。よろしくお願いします。


一味からモンキー・D・ルフィへの信頼と親愛


麦わらの一味、しっかりきっちり役割分担がなされていたからこそ、ルフィという存在への信頼・親愛の形もまた明確でした。

サイクロンが迫る中、あの、あのナミさんがですよ。ルフィのことを置いてひとまず逃げようとせず、「時間かけてらんないわよ」と思っていた、それがまずもって大きな変化だなと思いました。

ナミさん、基本的に、自分や大多数を救うことを主軸にしがちな、要は損得勘定の人です。

もちろん、損得勘定なんかでははかれないものを前にしたときは違います。ナミさんは優しい人なので。

でもこれまでだって、仲間のことを置いて逃げようとする場面はありました。あいつらならどうにかするわよ、という信頼のもと、という前提があったのは確かですが、嵐の中ルフィ達を取り残して容赦なく船を出したりする人です、ナミさんは。

それでもデッドエンドの冒険においては、ナミさんはルフィのことをギリギリまで置いていこうとしませんでした。

ガスパーデの蒸気船の横につけて、それぞれの用事が終わるまで、待ってくれようとしていた。ある程度時間がかかるとわかっているはずのルフィの喧嘩だって、待ってくれようとしていたわけです。

ルフィは泳げない、ということを知っていて、そしてここは何もない海の上で。
ただそれだけだったら、泳げる人員、例えばサンジとかを放り出してすたこらさっさと船を守ったかもしれませんが、問題は超巨大なサイクロンが迫っているということです。

あんな凄まじいサイクロンに巻き込まれてしまったら、ひとたまりもありません。泳げる泳げないなんて最早関係ない。生き延びるには撤退一択です。

ルフィのことを当たり前に生かすべき仲間だと思っているから、サイクロンが迫っていてもギリギリまで待てるのですね。この手の親愛の情は、損得勘定で生きているナミさんからしか吸えません。

結局その後、船まで巻き込まれるわけにはいかず、近くの小島へと緊急避難する一味。

この撤退シーンにおけるゾロとサンジもかなりよかったです。

ルフィをひとり置いて大丈夫なのか、手を貸さなくていいのか、と心配そうなサンジですが、ゾロは流石の古参ぶりですね。さっきもちらっと話しましたが、「ルフィの喧嘩だ、邪魔したら怒られるぞ」という旨のことを言っていました。

サンジがルフィのことをひとりにしておけないと思う、その優しさも大変ありがたく、全私を救うものです。この間見たTVアニメオリジナル編①において、ゾロが初めて溺れたルフィを助けてくれていましたけれど、基本的にルフィの尻拭い、特に海関連はサンジの役割だったわけですね。

このままだと溺れてしまいます。サイクロンに巻き込まれてどうにもなりません。とっととケリをつけて、溺れないよう回収してこないとまずいです。故に心配して、助けに行こうとしてくれるサンジ。

ゾロに止められますけれど、コックが故の機転の効かせ方で、水飴に相対するためルフィに小麦粉を持たせることで、ルフィの勝利にしっかり貢献しました。あそこもかなり好きです。

しかしゾロのこの、ルフィへの理解度の高さと信頼度、なんなんでしょうね。
あの状況で「ルフィの喧嘩だ」って、手を出すなって言えるの、あまりにも強くないですか。

近くの小島へ撤退した後も、ウソップとナミさんはずっとずっと海の向こうを眺めていて、ルフィのことを心配しています。
特にウソップは、ずっと言葉に出してルフィのことを心配していました。優しいですよね、やっぱりね。

チョッパーはアデルにずっとついてくれているため、ルフィのことを心配しつつも今自分にできることを、と医者としての仕事に集中してくれてはいますが、それでもやはりみんな海の向こうが気になる様子で。

そんな中やっぱりゾロだけが、モンキー・D・ルフィのことを心から信じていました。

この程度のことはいつも乗り越えてきた。そう言った後、「俺達の船長を信じよう」って言うわけですよ。

塵です。(私が)

そもそも一味からルフィに向けられる「俺達の船長」という名のクソデカ感情矢印のことをずっとずっと愛してるんだって言ってるじゃありませんか。こんなもん焼かれて死ぬに決まっています。

いつだって誰よりもルフィのことを信じていて、落ち着いているのはロロノア・ゾロなのです。

みんなみんなルフィのことが心配で、生きていて欲しくて、もちろんこの程度であいつが死ぬわけないって信じているけれど、それでも落ち着いてなんていられなくて。

誰よりも長く「モンキー・D・ルフィ」の強さと輝きを隣で見つめてきたロロノア・ゾロだからこその、説得力です。

いつだってどんなときだってルフィのことを「船長」として立て、時に守り、時に助け、そして助けられて、並んで生き抜いてきた、ゾロだからこその言葉です。

全く心配していない、なんてことはきっとないです。だからこそいつだって、ルフィの生還には嬉しそうに笑ってみせます。
信じていることと心配することとは、きっと別物。

それでも、信じているからこそ、心配や不安を振り払わなければならないときはあります。
信じているからこそ、ドタバタせず、まずは己にできることに集中する必要があるときが、確かにこの世には存在します。ゾロはその辺の切り分けが上手ですね。

このときは、信じて待つこと以外できることがありません。だからゾロは、ただ愚直に、俺達の船長の生還を信じて待つことにしたわけです。ゾロ、メンタルが強いよなあ。そういうとこも好き。

そして一味が信じた通り、願った通り、ルフィは確かにみんなの元へと帰ってきます。
それこそが、モンキー・D・ルフィなのですよね。


感想まとめ


かなり、かなり面白かった!

昔のアニメ映画ならではの奥行のようなものが、画面にずっと広がっていて、すごくよかったです。

最初に語り散らかしましたが、戦闘シーンもすごく滑らかでヌルヌルしてて、シュライヤの動きに映えてめちゃくちゃよかった。

あの軽やかで滑らかな柔らかい動き、何度でも見たくなります。やっぱり今度また普通に見返そうかな。

シュライヤ・バスクードというキャラクター、そしてその妹だったアナグマことアデル・バスクードというキャラクター。そして何より、ふたりを繋いだビエラ爺さんという存在。

この3人がかなり良かったです。かなり私のツボでした。すすめてくれたフォロワーさん、本当にありがとうございます……。

敵たるガスパーデの物語に与える威力自体はそうでもなく、物語の主軸は終始ルフィ側(シュライヤ達も含む)にありましたので、バスクード兄妹とビエラ爺さんのキャラクターが良かった結果とても後味がいいです。

かなり満足しながらエンドロールを見ていて、ビエラ爺さんのCVとして永井一郎さんのお名前を発見し、飛び上がりましたね。聞いたことあると思ったら。

おすすめされるだけのことはあって、とてもとても面白かった。
すすめられていないタイトルに関しては、また暇ができたときにでも見ようかと思っています。映画は、すすめられているのはあとはFILM Z以降のものだったはずなので、ひとまずはそこまで映画はお休みかな?

というわけで、今回はちょっと寄り道。
ワンピース THE MOVIE デッドエンドの冒険を視聴しました。

まだ映画は見てないよ、という方は是非見てみてくださいね。シュライヤの戦闘シーンだけでも見る価値はあると思います。

次回以降は、本編に戻ります。
空島編に突入していくことになります、長い、長いぞ……。

単純な話数的には、おそらく3記事分になるかな……?と思いますが、質量によっては4記事になるなと思っているところです。大体そのくらいの規模感でお届け致します。よろしくお願いします。

また2万字とか3万字とかにならないことを祈っててください(フラグ)。

それではまた次回!

よろしければサポートよろしくお願いします。いただいたサポートは健康的で文化的な最低限度の生活にあてられております(ガチ)