無益魔伝
この世には何故こうも悪が蔓延っているのか。
宋酎酎は、憤りを隠せなかった。
「黒血魔鬼…俺が必ず根絶やしにしてやる!」
超天脱解波紋功を会得してからというもの、酎酎はこれまで視えなかった江湖の常に苦悩した。
罪なき人々が流した涙が長江となったと言っても過言ではない。
武林人である前に人として、悪を許すわけにはいかないのだ。
燃え上がるような怒りは内功となり、酎酎の氣をより熱く色濃いものに変える。
そのときだった。
優雅に空を飛ぶ鷺が描いた線、西に広がる松林の風音、雨上がりの土の香りが繋がった――。
酎酎は、無意識のうちに熟練者の域に達した。いや、熟練者よりも遥か上の境地かもしれない。本人はまだそれに気づいていないが、滞っていた何かを押し出すかのように、新たな拳法を編み出すことに成功した。
「雅空鷺松香拳法と名付けよう。きっと、黒血魔鬼との戦いで役に立つはずだ。」
ぐっと拳に力を入れ、酎酎は師父である秋光明のもとへと走り出した。
二千里は、もはや大した距離ではないのだ。
<終>
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