蔵の酒に纏わる話1

https://twitter.com/sake_minarai/status/1385398293098729476

先日の呟きの内容について、どういう話を聞いたのか、ここで書かせてもらいます。大げさなことではなく、本当に些細なことですが、僕にとってはとても嬉しかった話。よければお付き合いください。



前置きとして

僕は日本酒を造る酒蔵で、酒造の人間として働かせてもらっている見習い小僧です。そんな自分が2020年度の仕込みで、2本だけお酒を自身の考えた設計に基づいて、親方(南部杜氏)の指導の下、造らせてもらえることになりました。

そういうお酒ができたこともあって、僕の家族が例年よりも多くの知人に送りたいと張り切り、その送ったお酒が届いた一件の家庭で起きたお話になります。



届いた先でのお話

お酒が届いた先は、40代の女性の方でした。ご結婚もされていて、共働きの方だそうです。

そのご家庭では(詳しくは存じませんが)どこの家庭にでもあるような家庭の問題を抱えていて、そのことでここ数か月、夫婦関係が少し刺々しいような雰囲気に包まれていたそうです。


また、女性ご自身のこととして、今まで日常的にお酒を嗜んでいたものの、周りの人間から健康を気遣うよう促されたこともあり、飲むことを暫く控えていて、それがストレスにもなっていたそうです。


そんな状況の中、当蔵のお酒が届くと突然伝えられ、女性としては「自身が買ったものではなく、友人からの好意で贈られてくるお酒だから、たまには飲んでもいいよね」と羽目を外せる機会が得られたことで、気持ちが上向いたそうです。また、旦那さんのほうも良いお酒が届くらしいという話を聞かされていて、その日は家に帰るのが楽しみだったという話も聞かせてもらえました。


お酒が届いた日、ペアリングを考えようとあれこれおかずを造ったり買ってきたりして、これは合う・これは違う、などと久しぶりに楽しく夕飯を楽しめたそうです。また、家庭の問題は解消したわけでもなく、多少食事中の会話の中で口論にはいかないまでも普段なら怒ってしまうような発言があったそうですが、お酒のおかげもあって聞き流せてしまったそうです(笑)


僕がこの話を聞かせてもらって嬉しかった点は、問題が何も解消されてはいないけれど、贈ったお酒がお二人の間に生じていた刺々しさを和らげる一助になれたということです。特に、旦那さんの「帰るのが楽しみになった」という部分、また、「お酒のおかげもあって聞き流せた」という点が非常に嬉しかったです。お酒がそんな影響まで与えられるのかって。



今はこのようなご時世ですし、お酒も健康志向や海外のノンアルブームもあってとても逆境に立たされている業界だなぁなんて考えさせられたりしていますが、こういう話を聞くと、やはり酔うということは良いことでもあるのかもしれないなと気持ちを前向きにさせてもらえて、また頑張ってお酒造ろうという気持ちになれるお話でした。

そして、お酒に限らず、我慢をし続けている趣味や嗜好品があるのなら、たまには羽目を外したり息抜きのために、ちょっとだけ楽しんでみるのもいいのかもしれない、そんなふうな気持ちにさせてくれるお話でした。


おしまい。



貧乏見習いなので、サポートして頂けるととても喜びます。