121. 林静一 その1 【美術】
ご存知、ロッテから出ている梅のキャンディ、「小梅」。あのパッケージの横顔が印象的な古風な女の子を描いているのが林静一です。
てっきりああいった可愛いイラストだけを描いているイラストレーターなのかと思ったら、予想外に作品の幅が広く、日本画・水彩・デジタルイラストの他、漫画やアニメーションも手掛けていました。
今回はその中のイラスト・絵画に焦点を合わせ、「林静一美人画集」収録の、美術評論家正木基との対談から引用しつつその仕事を追えたらと思います。
林静一絵画の一つの代表的なジャンルは「美人画」です。浮世絵の流れを汲んだ、潔い線とシンプルな背景で構成され華やかな色柄の着物を纏う女性たち。
小梅ちゃんも(あと、これも林静一作品である萩の月のパッケージの女の子も)そうなのですが、ほんのり桜色のほっぺと指先、小さな口と瞑った目の横顔が印象的です。
和装だけれどちっとも古臭くなくモダーンな印象なのは、小物やポージング、着物の色柄の故かしら?
柄は自身で考えているとのことで、季節感もありつつ洗練されたデザインです。例えばつばめの柄の帯とか、着物と帯にあしらわれた花は同じでも色合いが全く違ったりとか。全体の組み合わせ方の妙は、ああこういうカッコしてみたいなあと憧れを抱かせます。
現代の竹久夢二との呼び声が高いことも納得です。
対する洋装の絵画の方が、どことなく昭和を感じるノスタルジックな雰囲気です。これについて作家本人がこう解説しています。
つまりわたしが見て昭和っぽいと感じたものは、的確に時代感を捉えて描かれているからこそそういう感覚が生まれていたということらしいのです。
時代が下って今は人によって全然ファッションが違うから、一つの格好で時代を表すのが難しいのですね。
また、和装と同じく色遣いやコーディネートが巧みで、jaccs、富久娘カレンダーなどで使用されたシリーズは、印象的なピアスをつけている子が多いです。
和装でも洋装でも描かれる女の子たちは皆所作が美しく、普遍的な美人像が窺えます。これについても作者のコメントがあります。
そしてもう一つの路線は、主におかっぱ髪の女の子がぱきぱきして厳しい印象の色と戦で描き出されたイラストレーション群です。この系統ではポップでメッセージ性のあるものや、生々しくはないがエロティシズムを感じさせる作品が多く見られます。
天井桟敷のポスターや寺山修司の書籍の装画に使われているのはこういった作風のものであり、林静一が漫画を描いていたガロの気配が濃厚です。
絵は仕事、漫画は表現と使い分けていたそうで、正木氏はこう解説します。
無論この3つの分類に当てはまらない絵も多々ありますが、敢えてこの3つに分けてみたところで全体を俯瞰すると、どれも影(動き)がなくデザイン的であることに気が付きます。
本人がこう語る通り、その狙いがどの作品からもはっきりと感じ取れます。
対談を読んでいると、林静一がすごく絵というものについて勉強して、自分の表現を突き詰めて考えていることが分かります。ふわ〜っと見た程度のわたしに分かる程度のことは、最初から本人が意識しているので、こうして紹介文など書いているのが何だか恥ずかしくなってくるほどです。
それに、絵画やイラスト作品の中では、わたしは分かりやすくミーハー的に、小梅ちゃん系の和装の横顔女の子というのが一番好き。
1986年の作品「黒猫」が特に印象に残っています。白地に秋っぽい色の柄が入って、ピンクの帯を締めたおかっぱの子。ピンクのカップアンドソーサーのコーヒーとおみかんと黒猫とレモンみたいな器が絶妙な位置に配された、午後のひとときといった風情の作品です。
漫画作品は、絵的には恐らく3つ目の路線に近かろうと思いますが、流れがあり本人の思想が明確に表されていると、一枚絵とはまた大分違ったものになっているでしょう。(ところで小梅のCMも、正面のカットがあったりしてパッケージだけ見るのとは全く別物という感じです)
また、アニメの世界では、この数年ずっと観たいと思っている1987年版の「源氏物語」にキャラクター原案で参加されているとのことで、更に観たくなりました。
正木氏曰く
とのことなので、今回は絵画作品しか触れられませんでしたが、今後別の作品を体験し、また記事が書けたらと思っています。
ではまた。
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