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44. 藤原薫 その1 【漫画】

高校時代(大学1年だったかも?)、渋谷のブックオフで見つけてどハマりして、全作集めた漫画家が三人います。それが、鳩山郁子さん・楠本まきさん・藤原薫さんの三人です。
2018年に出た藤原薫の最新作「夜の魚」を読んだので、今回は藤原さんの話を。


藤原薫は2000年代からぽつぽつ作品を発表している、大変寡作な漫画家です。
代表作は「おまえが世界をこわしたいなら」。
人形のような美しく整った(そしてしばしば表情に乏しい)男女の恋愛にまつわる話が多いです。描き方は、エロティックで退廃的な路線と輪廻転成ものが二大機軸。

今回記事を書くに当たって調べてみたら、アダルトものの雑誌に連載しているそうですが、あんまりアダルティーじゃないそうで、多分このエロティック退廃路線のものを掲載しているのじゃないかなあ。


この方、とにかく絵が下手です。
顔は美しいのですが、指はボロボロ。基本的に立体感がないですし、背景も全然ないからページが白いです。トーンも乱用しています。
主人公の顔がどの作品でも同じで見分けがつかないという問題点もあります。

極め付けはパクリ・トレース問題。今改めて調べてみると検証画像がほとんど出てこないのですが、5、6年前はそれこそ山のように出てきたものでした。
特に表紙などの目立つ一枚絵が、おしゃれなファッションフォトから流用してきたものばかりで、初めて知った時はショックで藤原薫作品を読めなくなりました。

それがどうしてまた新作を買うのかと言えば、この“絵が下手”という大きな欠陥を補ってあまりあるほどに、描かれる世界観・雰囲気や作中のアイディアに惹かれるからです。
これはもう好みだからとしか言いようがありません。


さて、「夜の魚」の話に移りましょう。
※盛大にネタバレしながら書いていくのでご注意ください。

薄めのB6サイズで文字もそんなに多くなく、一時間半くらいでサクッと読めました。ただ通販サイトのレビューでも複数の方が仰っていますが、これまではA5サイズでわりと質の良い紙で出していたので、急に小さく、紙質も劣るものに変わったのが残念でした。

絵柄や描かれたものの特徴はほとんど変わっていません。十数年経っているのに変化がない(良くも悪くも)というのは、逆にすごいことのように思われます。
若干、横顔の時の目の描き方が変わったかなあとか、指が前より描けるようになったくらい。

内容は、これは輪廻転成を軸にしている方。
他の人の頭の中に浮かんだ映像やその人の過去・未来を見ることのできる馨と、彼が恋する橙子を中心に物語が進みます。

ある日代理で出たお葬式で、馨が「故人を殺した犯人を見つけ出して殺してやりたい」と思っている女性を見つけることで話が動き始めます。

半分以上が薫と橙子の対話で構成されているし、何度か二人の行動とかぶるような「ある女の子のために殺人という間違いを犯そうとしている男の子」の話が差し込まれる。この憎しみに囚われている女性は、話を進めるための単なる駒に過ぎないと思わされますが、これはミスリード。

実は「ある女の子のために殺人という間違いを犯そうとしている男の子」にはいつもそれを見守り押し留めようとする存在があり、橙子がそれなのです。彼女は猫であり馬であり鳥であり、今回の世界では人間の姿で生まれたのでした。
そして馨がいずれ一緒になる相手は橙子ではなく、橙子と馨の説得により憎しみから解放された女性なのです。
三人はずっと同じ運命を繰り返してきたのが、今回は橙子が他の二人に通ずる言葉を話せたので、その輪から外れ新しい展開へと進むことができたのでした。
それが分かった時、カタルシスと静かな感動が訪れます。

実はあまり期待をしないで買ったのですが、余韻の残る話で、思っていたよりずっと充実した時間を過ごすことができました。
また、久々に藤原薫作品に触れたので、昔の作品も読み返したくなりました。

何せ前述の通り欠点の多い漫画家なのでお勧めはしませんが、耽美系の作品が好きな方の中には刺さる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今もブックオフのワイドコミックコーナーにたまにありますので、お見かけの際はぱらぱら捲ってみてください。

ではまた。


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