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【メモ】『微生物との共生(梅崎昌裕)』

<内容>
適応と進化のプロセスは、「腸」のなかにつまっている。タンパク質不足でも筋骨隆々のパプアニューギニア高地人。栄養学からは不可解な謎を解く鍵は腸内細菌にある。地球上のあらゆる場所に住むホモ・サピエンスが,適応と進化を繰リ返すなかで獲得してきた生存システム。そのコードのひとつを高地人の低タンパク適応から解明する。

<目次>
序章
 1 ホモ・サピエンスの適応
 2 腸内細菌叢と適応
 3 パプアニューギニア高地食の問題点
 4 調査の経緯
 5 本書の構成
第1章 フリの社会システム
 1 パプアニューギニア高地
 2 調査地域
 3 生業―サツマイモの集約的栽培
 4 ブタの飼養
 5 対象地域の選定
 6 ハメイギニ
 7 ウェナニ・ヘリ・キキダ
第2章 集団の構造と成り立ち
 1 留まらない人々
 2 頻繁な居住地の移動
 3 人口の変動
 4 人生のなかでの移動
 5 移動の方向
 6 移動と適応
第3章 生業を支える在来知
 1 農学の基本原則に反するタリ盆地のサツマイモ耕作
 2 選択的な植樹と除草
 3 共有されない在来知
 4 サツマイモ畑に植えられた/残された植物
 5 サツマイモの生産性を向上させる植物はどれか
 6 サツマイモ栽培のための人為的植生形成
 7 「あいまいな」知識体系
第4章 高地の食生活
 1 サツマイモ
 2 品種のこと
 3 クム
 4 ブタ
 5 食事調査の方法
 6 タリ盆地での食事調査
第5章 長雨への対応
 1 天候不順に備える方法
 2 長雨のタリ盆地
 3 作物の生産性の低下
 4 食生活にみられた影響
 5 ウェナニとヘリの生存条件のちがい
 6 近年のフリ社会の変化
 7 なぜ「飢えた」か、なぜ「飢えなかった」のか
第6章 部族内戦争
 1 警察権と司法権に優先する平和維持システム
 2 「争い」の単位
 3 「争い」と「集団」の論理
第7章 ポートモレスビー移住者集団の生態学
 1 憧れのポートモレスビー
 2 セトルメントの生活
 3 インフォーマルセクター
 4 移住者の生存戦略
 5 労働とジェンダー
 6 ポートモレスビーの食生活
 7 移住と健康
第8章 低タンパク質適応
 1 フリの適応システムの不思議
 2 低タンパク質適応を支えるメカニズム
 3 腸内細菌の役割
 4 細菌とは
第9章 糞便をあつめる
 1 生体試料の収集
 2 便をあつめるタイミング
 3 低タンパク質適応のメカニズム
 4 細菌叢の特徴
終章
 1 幸せな学問
 2 腸内細菌叢と人類の適応

謝辞
参考文献
索引

<気になった箇所>

さらに、窒素固定のプロセスで重要な役割を果たす NifHという遺伝子が、パプアニューギニア高地人の糞便に存在するかどうかの検討も行った。 NifHはニトロゲナーゼ還元酵素をコードする遺伝子であり、細菌が NifH遺伝子を有することは、窒素固定能を有することの必要条件となっている。 データベースを参照しながらの検討をおこなったところ、NifH遺伝子をもつクレブシエラ属およびクロストリジウム属と相同性の高い細菌のゲノムおよびそのNifH遺伝子の代謝産物が確認された。
興味深いのは、このような腸内細菌による窒素固定を示唆する実験結果が、パプアニューギニア高地人の糞便サンプルだけでなく、十分なタンパク質を摂取しているはずの日本人から採取した糞便でも確認されたことである。腸内細菌による窒素固定能は、パプアニューギニア高地人のように普段のタンパク質摂取量の少ない集団だけでなく、十分なタンパク質を摂取している集団にも普遍的に存在する可能性がある。実際、窒素固定能を有する細菌にはさまざまな種類があり、タンパク質の摂取量が十分な個人の腸管にも常在菌として存在している可能性が高い。そのような個人が、何らかの理由によりタンパク質摂取量の不足する状態になると、スタンバイしていた窒素固定菌が機能をはじめ、ヒトのタンパク質栄養に寄与するのではないか。
上記のように、パプアニューギニア高地人の腸内細菌叢に窒素固定能を有する細菌が存在し、固定した窒素を人間に供給する能力があるのは間違いないとしても、(後略)

P202

サツマイモの炭水化物を窒素を固定するクレブシェラ属、クロストリジウム属の細菌がタンパク質に変換する。

この実験からわかることは、以下のふたつである。ひとつめは、タンパク質の摂取が不足する状況においては、腸内細菌による尿素の再利用は、パプアニューギニア高地人だけでなく、日本人にもみられることである。
もうひとつ、パプアニューギニア高地人では、十分な量のタンパク質を摂取する状況においても、尿素の再利用が継続するということが明らかになった。すなわち、日常的なタンパク質摂取量の少ないパプアニューギニア高地人は、儀礼などでブタを殺して大量の肉を食べる際に、そのタンパク質を効率的に体たんぱく質プールに取り込む何らかのメカニズムを有しているということになる。

P204

尿素の再利用もしている。

細菌の側からみれば、大腸は、そこに存在するだけで生存のための餌が自動的に提供される環境である。たくさんの細菌が大腸に定着することを試み、細菌種同士の絶え間ない生存競争を経て、細菌生態系が形成されていく。たとえば、パプアニューギニア高地人のように、サツマイモの摂取量がおおく、タンパク質の摂取量の少ない個人の大腸には、大量の食物繊維が届く一方で、タンパク質、ペプチド、アミノ酸などはほとんど届かないと考えられる。タンパク質源として使える可能性があるのは、窒素とヒトが腸管に排泄する尿素くらいのものであり、そこには窒素や尿素を餌にして生きる細菌のためのニッチが存在しただろう。また尿素の再利用および窒素固定によりタンパク質源を提供できる細菌はホストの適応度をあげることで、みずからの適応をあげることができたのだと思う。

P216

文明社会で、炭水化物、脂質、タンパク質をバランスよく取れる現代人も、はるか昔は、環境に適応した腸内細菌叢を持っていたのだろう。
現代でも眠ったままになっている細菌を起こすには、食事を変える必要がある。炭水化物をカットする食事を続けるとケトン体が生成されるように、人間の体は適応していく。
現代病と呼ばれる肥満などを解消するには、食生活を改め腸内細菌叢を変えてやることが必要である。
実際、炭水化物をカットした食事を続けていくと、便の匂いが無くなったりする。

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