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この世に存在しなかった話

気がつけば、異国の地にいた。
誰かと一緒だったのか、一人だったのかも覚えていない。

あたりはすっかり暗くなっていて、道の両脇に並んだ出店からは、香辛料の独特な匂いが漂っている。
どうやら、アジアのどこかの国のようだ。

民族衣装やエスニック料理、さまざまな夜店のテントが連なっている。
見ているだけで楽しいし、飛び交う異国の言葉にワクワクする。

そんな喧騒に溢れたエリアを跡にし、いつの間にか郊外の橋にさしかかっていた。

ふと夜空を見上げてみると、満天の星。
子どもの頃は天文学者になりたかった私。
自然と星座を探してみる。

まず、天頂付近に見えるのは"うお座"。
そのすぐ隣には、"みなみのうお座"が手を繋ぐように仲良く並んでいる。

そして驚いたことに"クラウネス座"が見える!
この星座は日本からは見ることができない。感激モノだ。
クラウネスは、神話に登場する老女。
幻想を見たのかもしれない。しかし、ロッキングチェアに座るクラウネスの姿が夜空にはっきり見えた気がする。

異国の夜の雰囲気。飽くことなき星探し。
ずっと、ここにいたい。こうしていたい。

そして、私はベッドで夢から目覚めた…。

そう、この物語は先日、私が夢で実際に経験したものだ。
ここまで読んでくださった皆さま、ありきたりな夢オチで申し訳ない。
やけにリアルで素敵な夢だったので、起きてからすぐメモをとった。

よくよく思い返すと、ツッコミどころ満載な、まったくトンチンカンな夢である。
うお座は春の星座、対してみなみのうお座は秋の星座。
隣同士になることは決してない。

そして"クラウネス座"なる星座も現実には存在しないし、神話にも出てこない。
"クラウネス"自体、私が夢の中で作った単語なのだ。
ググっても出てこない。

夢って一体なんなんだろう。
「自分の願望や欲望が、無意識から語り掛けてくるもの」だとは、本で読んだことがある。
にしても、私が経験したことのないことに加えて、この世に存在しないことや、その名前を創るのは、本当に不思議なことだ。

そして、そんな夢から醒めた朝は、なんだかとてつもなくせつない。

あの夢は、私が生きたかった世界なのだろうか。
また出会えるかな。
そう思って、今夜もまた旅に出る。


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