秋が深まる
会いたい時に会えないのは寂しい、そう言ってあなたは泣いた。寂しくて耐えられないから別れたいと言った。今なら幾らでも方法はあって、ビデオ通話なり手段はあるはずだって僕は諭した。週末は必ず会いに行った。片道三時間掛けて、電車の中で文庫本二冊を読破した。そしてその日読んだ本の話題を必ずした。あなたはそれが却って苦しかったのだと泣いた。僕だけがあなたとの距離を楽しんでいる。いつだって隣にいて欲しいのに、すぐに帰らなくちゃいけない。毎日の画面越しのおはようもおやすみも虚しいだけだって。
僕はその言葉を聞いてがつんと頭を打たれた気がした。僕だけが楽しい。確かにそうだったかも知れない。あなたが不安や寂しさを抱えているのに気が付けなかった。いつも会いに行く道中、楽しみに選んでた本もその話題も僕の自己満足だったとしたら、いや読書なんて所詮個人的な体験なんだ、だけどあなたに面白かった、つまらなかった、是非読んでみてって聞いてほしくて、僕たちのきっかけは互いに読書が趣味だっていう話題からだったから。
終わりにしましょう、さようなら。短いメッセージが送られてきた。僕は駅のホームでずっしり重たいリュックを背負って立ち尽くす。あなたに会わないなら、もうこの駅に来ることもないだろう。往復四冊分も毎回リュックに詰め込むこともないだろう。荷物が軽くなる代わりに、大事な何かを失って秋が深まる。
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