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【ADVゲームレビュー】アルタイル号の殺人/Nintendo Switch(2024)

アルタイル号の殺人

「神宮寺三郎」シリーズや「イヌワシ」などで知られるオレンジが制作したSFミステリーADVゲーム。


内容紹介


木星の第4衛星・カリスト――そこに人類最先端の研究基地があった。
「シオン・フロンティア」と呼ばれたその地はある日、謎の爆発事故に襲われる。

1年後――基地の残骸が有人宇宙船・アルタイル号によって回収される。

その中にあったものは天才宇宙工学者シオン・ミラーの遺体を収めた冷凍カプセルと、そこに寄り添うアンドロイド・フレム。
そして、木星圏で発見された地球外生命体・ホープだった。

それらと乗組員を巻き込んで、やがて船内で不可解な事件が起こる。
果たして事件は謎の生命体によるものか?
それとも乗組員によるものか?
逃げ場のない船内に恐怖と疑心暗鬼が渦巻いていく――

orange


解説/感想(ネタバレなし)


プレイヤーは、宇宙船のマスターAI。
神の視点であるプレイヤーの存在は、ときにメタ要素として使われがちだが、正々堂々と設定に組み込むことができる時代になったな、と。
もっとも、すべての情報が認識できてしまってはゲームにならない。
その点で、監視カメラが壊され、アンドロイドであるフレムに接続して、彼女が五感で得た情報からマスターAIとしての見解を出力するというシステムは、絶妙だったと言えるだろう。

宇宙空間というクローズドサークル内で、殺人事件が発生。
ただし、船内には未知の宇宙生物が侵入していたり、政治的な思惑が入り乱れ、乗組員も一枚岩ではなかったりと、何もかもが不明の状況。
それぞれが別々の行動理念に沿って動く中で、事件の真相を究明するのが目的となる。
設定だけを見ると複雑な気がしてくるが、実態的な容疑者は6人。
その中から被害者が出ることを踏まえれば、フーダニットは4~5択。
ハウダニットも、ガイドがわかりやすいため、さほど苦労はしないはずだ。
やりこみ要素もほぼないため、プレイ時間は3~4時間といったところか。

プレイ時間だけを見ればさらりとしているが、シナリオは充実。
パートごとに驚かされる要素が設けられていて、飽きさせない。
この手のゲームにありがちな、色々な場所を行ったり来たりさせて、とにかくフラグを立てないことには先に進めないという時間稼ぎもなく、移動する場合は、今いるところと、次にフラグが立つところ、2~3カ所しか表示されない親切設計。
無駄を省いた中で、シナリオが3~4時間にぎゅっと凝縮されていると捉えれば、いかに満足度が高いかおわかりいただけるだろう。
音楽も効果的、絵柄も綺麗で馴染みやすかった。



総評(ネタバレ注意)


作中では"渇望"という言葉で表現されていたが、アンドロイドやAIに自我が発生し得るかが、本作におけるひとつのメッセージとなっている。
メタ的な視点で推測すると、そりゃプレイヤーが操作するわけだから人間的な判断だって出来てしかるべし。
ロボットの大原則を破ってでも、自発的な行動をとれるかどうかの決断は、ゲームの展開を読めばそこまで難しくはないだろう。

もっとも、それ一本でシナリオを構築していたら陳腐化にもほどがある。
ミステリーの観点では、天才的な宇宙工学者であるシオン・ミラーが善人か悪人か、に尽きるだろう。
序盤は、孫のケント、マリナの兄妹が、どちらかと言えば搾取される子供。
合衆国側の乗組員の3人が、小賢しい大人として描かれているため、自然とシオンも善人だと誘導されるのだが、徐々にその独善的な科学者ムーブが明るみになり、徐々にその評価が揺らいでいく。
更には、第三の勢力も絡んでくる設定になっていて、ストーリーが進むにつれて、登場人物の立ち位置が変わっていくから面白いのだ。

そして、ポイントなのは、ゲームとして難易度が高くないことと、予想できない結末が待っていることが両立していることである。
ゲームとして犯人を暴くことは、丁寧に推理を続けていけば誰でもできる。
何なら、間違えてもペナルティはないので、当てずっぽうでもいけてしまう。
しかし、そこから先の展開は、手元で推理していた想像をはるかに飛び越えたスケールで語られていくので、十分に驚くことができる。
"誰も犯人であってほしくない"だったのが、絶対的な悪人の復活により、犯人拘束への納得感が積み上がっていく構成も巧みだった。
多少強引な部分はあるにせよ、エンディングは後味すっきり。
マルチエンドにも出来そうな設定ではあったが、コスト対比での満足度を勘案、この爽やかさで終われるなら悪くないか。




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