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【創作文】Nemacystus decipiens星雲

Nemacystus decipiensとは、"もずく"の学名。
その星雲は枝分かれした糸状に連なって見えることから、発見した日本人の学者がそのように名前をつけた。星雲の中に浮かぶもっとも大きい星は、そのまま"Mozuku"と呼ばれており、"もずく星"という愛称で親しまれている。

実は今回、そのもずく星と姉妹星協定を結ぶ動きがあり、視察に来たのだった。もずく星は、大きさこそ地球の20倍ほどと思われているが、まだ未開発の土地も多く経済的には発展途上。技術提供と引き換えに、豊富にある資源の恩恵を受けるという目的も含んでいる。

もずく星で有名なのは、なんといっても洗濯機。
種の頃は土に埋まっているのだが、乾季(もずく星では秋から冬の間)になると、水辺を探して顔を出してくる。今年は特に豊作で、四国と同じくらいの規模らしい広大な畑から、出荷目前の洗濯機たちが出てくる様子は圧巻だった。

もずく星産の洗濯機は、稼働音がほとんどしない。脱水時でさえ、ほぼ無音で仕事を終える。星雲民の約20%が洗濯機生産に関わっていると言われている"洗濯機大国"の品種改良の成果だ。

ちなみに、大昔の地球人は、洗濯機が植物だったと知って驚いたらしい。本来、地球では湿度が高すぎて洗濯機を育てることはできないらしく、人工的に代用品を作っていたとのこと。数百年も前に、この複雑な仕組みを機械で再現してしまう技術力には舌を巻くが、天然モノを友好の品としてもずく星から譲り受けたという史実だけが消え失せてしまっているのは、この星らしい悪癖だ。

もっとも、もずく星での記録において、はじめて洗濯機を送った際の日本は鎖国中。外国はおろか、外星と交流していた事実を残すことなんて、表向きには出来なかったということなのだろうが。


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