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オリンピックの時期になると思い出す話

スポーツの祭典、オリンピック。
このタイミングで開催されることについて賛否両論巻き起こっているが、別にここで議論をするつもりはなし。
今日書くのは、オリンピックが近づくと思い出す、2004年のアテネオリンピックの時期にテレビ局でアルバイトをした話である。 

オリンピックやワールドカップなど、大きなイベントがあればテレビ局は大忙しだ。長時間の生放送、しかも海外からの中継も噛ませる。入ってくる情報量も膨大で、この時期になると瞬間風速的に人手不足になるというのは、少し想像すれば理解できるだろう。 
学生時代、そんなタイミングでだけ、とあるテレビ局でアルバイトをしていた。  短期間なので研修を行う余裕はなく、相応にスキルも必要ということで、おそらくきちんとした公募はされていなかったと思う。僕は当時、マスコミ系のサークルに所属しており、そのコネクションでスポット的にシフトに入っていた。 
ちなみに、僕以外のバイトも同じサークルのメンバー。局側も、イベントのたびに人員募集をしていると効率が悪いので、スキルのある学生サークルを抱えておくと、こういうときに役立つのだ。何をするかといえば、多種多様。ADに近い現場仕事もあれば、視聴者からのFAXをピックアップするという業務もある。10年以上前の話なので、今ではFAXがTwitterのハッシュタグに変わっているのかもしれない。中には、"待機"というシフトも存在していた。ただ椅子に座ってアクシデントに備えておくだけのバックアップメンバーだ。ADを必死にやっている人と、待機している人で同じ時給というのは納得しにくい面もあるが、深夜から朝方に何もせずに座っているというのも、考えようによっては辛い仕事なのかもしれない。 

僕が主にやっていたのは、キャプションという作業。2人1組で、現地から送られてくる映像をVHSのおばけみたいな大きなテープに録画する。絶対に"録れていない時間"を作ってはいけないので、テープの残り時間が少なくなってきたときには神経を使っていた。
また、キャプションには、もうひとつ大きな役割がある。それは、そのテープの何分何秒のところに、どんな映像が収録されているかを記録すること。ライバルを抜き去る瞬間や、ゴールシーンなど、これはダイジェストに使えそうだ、という場面をひとつひとつ書き出していく。珍プレー好プレーや、注目選手がアップで映ったときのイメージカットなど、ニュース番組で使われている映像は、こういう地道な作業の積み重ねの結果なのだ。
映像は次々とリアルタイムで送られてくるので、めまぐるしく展開が変わるバスケットボールや卓球などにあたると、もはや何を書いていいのかわからなくなってしまう。得点のたびにスコアを書いていたら、もはやスコア表になっていたということもあるし、「福原愛 サー!」など、直感的すぎて意味がわからなくなるものも多々あって、これを編集する係の人も大変だっただろうな、と改めて謝罪したい気分である。 

とはいえ、一瞬も見逃さないようにスポーツを見るという機会は貴重だった。ルールも知らないマイナースポーツでも、仕事が終わるころには少し詳しくなっているから面白い。先輩と"飛び込み"のキャプションに入ったときは、さすがにハズレだと二人でがっかりしていたのだが、いつの間にか楽しみ方を覚えていた。「野球が良かったな」と言っていた先輩も、「今のは着水が乱れた」とか、「これは美しい!高得点でしょ!」とか、選手が飛び込むたびに興奮している様子。
残念ながら日本の選手は振るわなかったが、妙な充実感があった僕。感情移入しすぎたのか、表彰式まで来ると、涙が止まらなかった。止まらなすぎて病院に連れていかれ、コンタクトをつけたまま長時間画面を見ていたことにより、眼球に傷がついたと診断された。そのまま職場復帰できず、待機メンバーが満を持してカバーに入ることに。さよなら、テレビ局。メガネで来れば良かったのかな。

余談だが、飛び込みのキャプションを一緒にやった先輩は、今では声優として活躍している。数年前、「サザエさん」の中島くんの声優、白川澄子さんがお亡くなりになり、落合るみさんにバトンタッチされたのだが、その間、代打で1話だけ中島くんの声を担当することになって、身内では大いに盛り上がった。あの「野球が良かったな」は、この日の伏線だったのかと震えたが、「磯野!野球しようぜ!」のセリフはなかった。

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