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【ミステリーレビュー】リバース/湊かなえ(2015)

リバース/湊かなえ

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湊かなえと言えば、イヤミス。
ということで少し避けていた部分はあったのだけれど、新本格ミステリーとしても面白いと聞いたので読んでみた1冊。

冴えない男、深瀬が「深瀬和久は人殺しだ」という告発文によって、過去に起こった親友・広沢の事故死と向き合うことになる。
告発者は何者か、というフーダニットが推理小説としての体裁を保っているのに加え、実質的には、深瀬の目を通して広沢の人間関係を調査していくことで、過去の事故の見え方が変わっていくという点が作品の肝。
率直に言って、フーダニットの部分はミステリーを読み慣れていれば自然と推測はつくレベルなのだが、過去と現在が交錯する、この二段構えが、読んでいて飽きさせない魅力だったと思う。
更には、それらを最後の3ページでひっくり返すオチまで用意されていて、プロットの上手さを感じずにはいられない。

そして、もうひとつのポイントは、深瀬というキャラクターなのだろう。
自分は特別だという意識がありながら、結局最後までカースト上位に溶け込めず、学歴に見合わない中小企業で、うだつの上がらない生活をしているサラリーマン。
見事に性格は屈折しており、その卑屈さは読んでいてストレスを感じるほど。
一方で、それが自分と遠い存在であるとは否定しきれない親近感や共感が隣り合わせに存在している。
広沢の過去が明らかになるにつれ、果たして自分は本当に広沢の親友だったのか、と深瀬が自問自答するたび、自分も頭を掻き毟りたくなる衝動を伴っていたほど、彼の葛藤は自分の葛藤、と感情移入してしまっているのである。
彼のキャラクターに入り込めるかそうでないか、という点で、この小説の読みやすさや味わい深さは変わってくるのではなかろうか。


【注意】ここから、ネタバレ強め。


まず、告発者については、内部犯か外部犯かの二択であるが、外部犯だとすれば、もはや選択肢はひとりしかいないので、あてずっぽうで推理したとしても当てることは可能だろう。
もっとも、まさかの木田先生か、と読者に揺さぶりをかけていたのを踏まえると、それは織り込み済みということなのだと思われる。

それでも面白いのは、探偵パートが多いため。
人と会って、情報を集めて、ということを繰り返し、スタートからゴールまでにどういう道筋を辿ったのか、というシナリオ補完のワクワク感を追求しているのが奏功している。

そして、最後の最後、やはり湊かなえはこれなんだな、という秀逸なオチが鮮やかに決まる。
ここまで読ませたら作者の勝ち、と言わんばかりの伏線回収っぷりで、それだけに、途中でもういいや、とならないように読ませるテクニックを張り巡らせているから、一気に読み耽ってしまう。

簡単だった、と侮っていたら、お釈迦様の手のひらの上。
ページ数もそこまで多くないので、手軽に読めて、大きなスッキリ感とほどよい絶望感を味わえる、コストパフォーマンスが高い良作。

#読書の秋2020

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