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日記「三井のすずちゃん」

最近は主に三井のすずちゃんについて考えている。
最初は友達があんなに三井不動産の話ばっかしてたらやだなーと思っていた。
しかしそれが逆に、何であんなに三井不動産の話ばっかしてるのに友達がいるんだ…?という疑問に変わった。
その時からずっと三井のすずちゃんについて考えている。

街を歩いていても、カフェでお茶をしていても、三井不動産に関する何かが目に入ればすぐにそれと三井不動産との関係の話を始め、さらに話を広げて会社のビジョンについて解説を始める。
最新作ではついに、友人の結婚式の祝辞でマンションの購入検討を勧めるというウエディングハイジャックとでも呼ぶべき暴挙に出た。

意識高過ぎ高杉くんは友人も変だが、三井のすずちゃんは周囲が普通の人間なので異様さが際立つ。

「三井のすずちゃん」という名前自体、自称でもニックネームでもなく、周囲が陰で呼んでるあだ名の可能性が高い。たぶん三井不動産に勤めてすらいないだろう。
三井不動産に対して異常な反応を示す一種のアレルギー症状に近いかもしれない。

でもだからこそ、なぜあんなにも普通に暮らしていそうで、友人もいるのか。
確かに三井不動産の話ばかりしているが、そのことを除けばとてもいいやつなのかもしれない。人には誰しも欠点があるのだから。
猫になつかれるすず、小学校の担任といまも年賀状をやりとりするすず、友人の借金を肩代わりするすず、SNSの病み投稿を見て控えめだが温かな言葉をかけてくれるすず……。
周囲は時々エキセントリックなところもあるけど、総じて気のいい人間として彼女を捉えているのだろう。

しかし、彼女の精神のほとんどは三井不動産によって再開発され尽くしている。
彼女は確かに温かみのある振る舞いをするかもしれないが、それはもはや彼女の中の三井不動産によって実行されているに過ぎないのだ。

世界中どこへ行こうが、彼女は三井不動産の話をし続けるだろう。
お風呂に入っている時も、流れ落ちるシャワーの水の流れが宮下パークを行き来する人の流れに見えているのだろうか。

あるいは、まだ三井不動産を知る前、両親と見た海の純粋な美しさを朧げに思い出したりもするんだろうか。

でも、記憶の中の美しい海にも、瞬く間に三井不動産はやってきて、土砂を投入し、砂浜を護岸し、今っぽいコンクリート作りの建物群へと変えるだろう。

心の海を失ったすずは安心して眠りにつく。

今の彼女は三井のすずちゃんだからだ。


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