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ヤングケアラーが本音で述べる“ガクチカ”

先日、会社のエレベーターホールで説明会の帰りと思われる初々しい就活生たちとすれ違った。

就活生を見かけると基本的に「がんばれ……」と思うんだけど、一方で自分の就活時の後悔とか、就活という行事そのもののルールについてやるせない思いを抱いたりする。

とりわけ納得いかないのは“ガクチカ”だ。

「学生時代に力を入れたこと」を問われるのは、新卒就活においてテッパンとなりつつある。

大抵の人は、ガクチカとしてサークル活動やらバイトやらボランティアやら、努力の成果が分かりやすく華々しい経験を挙げる。し、世間的にもそれが求められる。
かくいう私も、就活生だったころはサークル活動の話をした気がする。わりと盛ったからあんま覚えてないけど。

なんで盛ってまでサークル活動と答えたかというと、本当の“ガクチカ”は話せる内容じゃなかったからだ。

私はいわゆるヤングケアラー。
真に頑張ったことは、家事と学業の両立だった。
大学卒業までを実家で過ごし、やりたいことや楽しみをたくさん諦めて家事をしてきた。

本当のことを答えたって就活では不採用続きだっただろうけど………でも、もし本音でガクチカを述べたとしたら。

面接官「あなたが学生時代に力を入れて取り組んだことはなんですか?」

私「家事と学業の両立です。私は父と兄が発達障害、母が病弱な体質ですので、日常の家事をほとんど担ってきました。しかし、遅刻や欠席をすることもなく大学の単位を取り続けています。
この経験で得た、忍耐力と気遣いは御社の社員になっても活かしていけると思います」

面接官「それぞれについて詳しく教えてもらえますか?」

私「はい。まずは忍耐力です。私は望んで家事をしていたわけではありませんが、手を抜くことなく、毎日休みなく取り組んできました。
特に洗濯は、毎日2回しており、1限のある日は時間との戦いでした。効率を上げるために工夫しながら日々家事をこなしてきたことで、忍耐力が養われたと思っています。
そのため、今後社会人としてどんな仕事が任されても、地道にきちんとこなしていけると考えています。

次に気遣いです。
私の父は攻撃的で、家族の言動が気に障ると暴力を振るう人でした。そのため、父の細かな様子の変化をつぶさに察知し、状況に応じて発言や行動をアレンジしていました。
こうして身につけた気遣いは、クライアントとの商談や、上司・同僚とのコミュニケーションにおいて活かしていけると思います」

面接官「分かりました。ありがとうございます」

いや、落ちるよねえ。
やっぱヤングケアラーの経験そのままをガクチカにするのは無理です。頑張ったのは本当なんだけどなあ。

実際に、ヤングケアラーは社会人として求められる要素が鍛えられている人材のはずだ。テキパキ動けるし、傾聴力あるし、マルチタスクできるし、嫌なこともきちんとこなすし。
けど、その経験が表立って評価されることはない。

少なくとも就活においては、サークル活動や海外ボランティア経験に埋もれて儚く散るだろう。

顔とか才能とか、人はいろんな要素を生まれ持ってくるけど、個人的には現代において一番強力なステータスは「穏やかで太い実家」だと思う。
あー、うらやましい。

私はお金なかったからサイズの合わない安いスーツ着てたし、証明写真もスピード写真機でした。

世のヤングケアラー就活生の皆さま。
あなたたちが就活を無事に乗り越えて、親元を離れ、自分の人生を歩み始められるよう心から応援しています。

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