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【フリゲ感想】鼓草

この記事の文字数は約6,100字です!

おはこんにちばんは! 富井サカナです。
今回はプレイ済の方から名作との声が続々と聞こえてくる、
かなり珍しい第二次世界大戦中を舞台にしたゲームのご紹介です!

激動の時代の空気の描写が素晴らしく、文章力そのものに秀でており、
運命に翻弄される主人公とその周りの人々を丹念に描き切った作品です。
日本人なら一度は遊んでほしい心からとてもおススメできる長編作です。
是非腰を据えてお時間が取れる時に遊んでみてください!
オンリーワンな素晴らしい作品であることは間違いないです。


作者さんのツイートを見て今が機だ!ということでプレイしました!
(ということはやっぱりこういうツイートって効果ありますね)

1.どんなゲーム?

今回紹介したいのは、式部さんの「鼓草」です!!

【制作】 式部様
【制作ツール】Light.vn
【プレイ時間】総プレイ時間4時間程度
【ジャンル】女性向け恋愛ADV
【KW】戦中、戦後、第二次世界大戦、岡山
【筆者プレイ時期】2022年6月プレイ
【筆者プレイ状況】3(+2)のエンディングクリア
【補足】2022年5月末にver1.20再公開

【あらすじ】
 昭和十八年・夏。
岡山の町に私は嫁いだ。
祝言で初めて会ったその人は、優しくて、弟思いで、軍医を志願する人だった。

赤紙、空襲、その先の日々。
私と彼と、あの人の。
選べなかった、物語。

【一言でいえばどんなゲーム?】
第二次世界大戦に翻弄される女性の人生を描いた、全日本人に推奨のゲーム


2.こんな方に特におススメ!

今作は面白いから是非やってみなよ!というだけでなく、
日本人として教養を得るためにもプレイした方が良い!と言う感じですね。
この日本にはかつて今の時代とは比べられないほど大変な生活があった
と噛み締めた上で日々平和に生きていることに感謝したいですね。

・正直、日本人はみんなプレイしてほしい
本作は『はだしのゲン』を一度は読んだ方が良いのと同じで、
「戦争とは何か」を感覚的に理解するために優れた作品と思いました。
私自身はもちろん戦争を経験したわけではありませんが、
祖父母と暮らしていたので戦時中の話はよく聞いていました。
非常に多くの自由が制限されていたこともそれなりに理解しております。
今後、若手世代は戦争を全く知らない世代がどんどん増えていきます。
そんな中、本作は戦争を知るためにはうってつけの作品と感じました。
そして、ここまでそれを全面に出した紹介になってしまっていますが、
単純にエンタテイメント作品としても極上の逸品です!

・シリアス乙女ゲーが好きな方
「乙女ゲー」に対するキラキラしたイメージとはかけ離れており、
登場人物は「恋愛」に浮かれることなく地に足を付け「生きて」います。
でも公開サイトのジャンルに「乙女ゲー」とあるので乙女ゲーなのです。
主人公は女性ですし、時に難しすぎる決断を迫られることもあります。
複数の恋愛対象と人生を懸けた大恋愛を繰り広げます。乙女ゲーですね。

・純文学っぽい作品が好きな方
私はエンタメ系小説ばかり読んでいるのでイメージでしかないのですが、
なんとなく純文学っぽい印象(文章が繊細?)を受ける作品でした。
ひとつひとつのシーンや描写の仕方がとても丁寧ですし、
表現も巧みで、しっとりと心に深い余韻が残るような文章でした。
構成や展開も素晴らしいのですが、極めてテキストの描写が優れています。
グラフィックもテキストにピッタリで当時の雰囲気を感じさせるものです。


3.ネタバレなしの紹介

まずはネタバレなしの紹介をここで書きます。

【作品紹介】
同人ゲーム・オブ・ザ・イヤー2020「泣き部門」受賞作!
ふりーげーむ「優しい世界」にて評価S+ 100点を叩き出す!

と、何を言ってるか分からない方もいるかもしれませんが、
簡単に言うと「大量のフリゲをプレイしている愛好家が大絶賛」です。

【参考】


■暗い時代をひたむきに生きる人々を描く
「闇の朝ドラ」「最悪の慶事」「誰も悪くない地獄」
こちらは作者さんが再公開時に紹介した感想のフレーズです。
物凄く端的に本作のイメージを言い当てているようにも感じます。
ですが、ただ絶望や地獄を描いているような胸糞作品ではなく、
本作はそんな時代だからこそ実感できる幸福も美しく描いているのです!
ちなみに攻略対象の2人の男性はどちらも素晴らしい精神性の持ち主。
どちらも男が惚れてしまう男なのでプレイして背筋を正してしまうほど。

■史実に忠実であろう世界観
私自身は戦争を知らずに育った子供ですので、
戦地や戦時の話はともに暮らしていた祖父母から直接聞いたほか、
TVのドキュメンタリーやはだしのゲンなどからの情報しかありません。
従っていい加減なことを言うわけにはいかないのですが、
私の知っている「戦争」の雰囲気との違和感はほぼありませんでした。
多くの参考文献から得られたであろう情報を上手く盛り込み、
活き活きと当時の岡山周辺における世相を表現されていたと思います。
本当にこの時代にこんなものあった?みたいなものも出てきますが、
意外と戦前から海外の豊かな物や文化って日本に入ってるんですよね。

太平洋戦争の時代を舞台にしたこのようなアプローチの作品を遊ぶのは
記憶の限りでは商業含めても初めてだったのでとても感動しました。

■素晴らしい文章表現
文章の表現力がとても高く、シーンの区切りでは常に余韻を感じました。
主人公に次から次へと様々な展開が襲い掛かりますが、
そんな中で感情を揺さぶられる様がありありと描かれていました。
特に素晴らしいと思ったのはシーンの終わり際の文章と演出です。
その直後のフェードアウトとあいまった「余韻力」が素晴らしいです。
おかげで、主人公のその時その時の感情が強く印象に残りました。

■ドラマチックな展開
本作の展開にはそれほど意外性はありません。
これは戦争の結果を自分が知っているからかもしれませんし、
本作の舞台設定を考えると一番ドラマ性が高まる展開はこれしかない!
という期待に作者さんが完璧に応えてくれたということだと思います。
この時代は市井の人々も漏れなく壮絶な人生だったんだなぁ、と。
私の祖父母も出兵による恋人との離縁やら死別やらを経験したそうですし。

■グラフィックがぴったり!
ゲームのシナリオと絵柄の雰囲気がここまでぴったりなのも珍しいな、と。
フリーゲームのグラフィックとしては珍しい落ち着いた絵柄と彩色。
テキストとのシンクロ率が高すぎて感嘆のため息をもらしてしまいました。
後で知ったのですが、今作はシナリオ・テキストを完成させた状態で、
絵師さんにそれを見せて直接口説き落としたんだとか。
なんて素晴らしい制作秘話なんだ!舞台裏までドラマチック!憧れる!

というわけで改めて作品のDLページです!レッツプレイ!


4.ネタバレありの感想【各EDの感想】

ここからは相当にネタバレを含みます。
というか完全に各エンドの結末を明かしての感想となります。
プレイする前には絶対に読まないでください。
(貴重な体験を得るチャンスを棒に振ることになります。やめましょう)


↓ネタバレ記事開始カウントダウン5

↓ネタバレ記事開始カウントダウン4

↓ネタバレ記事開始カウントダウン3

↓ネタバレ記事開始カウントダウン2

↓ネタバレ記事開始カウントダウン1

さて、改めてここからはネタバレ感想になります。
致命的なネタバレだらけですので未プレイの方は読まないでください。

■芳次郎ED
これは尚太郎の気持ちを考えると辛い。
国の為、愛する家族のために出兵し、
死と隣り合わせの戦地でなんとか死線をかいくぐり、
帰って来たところで妻が弟と夫婦になってるのは辛すぎる。
(副読本にてレビラト婚との言葉を知った。この歳でまた賢くなった!)
帰国してからの未来を想像することで気持ちを奮い立たせていただろうに。

そしてこのタイミングの妊娠発覚は尚太郎にとっては生き地獄も良いとこ。
尚太郎は信じられないほど人格が優れているのでなんとか耐えましたが、
普通は暴言の一つも吐くでしょうし、刃傷沙汰や自殺だってありえる展開。
それでも踏みとどまった尚太郎は本当に尊敬できる男です。
時と場所、家業を考えると近所付き合いも濃厚で近所は知り合いだらけ。
時代背景的には身を寄せる場所があるありがたさは大きいのでしょうが、
さすがにどう考えてもここに残る方が辛いルートだろうと思いました。

ちなみに後日談が素晴らしすぎた。
12年の歳月を経てようやく未練を断ち切れた、
かどうかは分からないが少なくとも尚太郎はその決心をして結婚。
ご両親が健在なうちに一家で集まろうというその優しさ。
確かにこの時代背景を考えると、みんな幸せで万々歳なエンドでした。
後日談で姿を消した尚太郎が自死とかしてたらもう病んでた。良かった。


■尚太郎ED
本当に登場人物は善人だらけだなぁ、と。
旦那と元旦那とその両親と一つ屋根の下にいるという状況。
そんな状況に立たされた中で尚太郎を選んだ直後に判明する妊娠。
綿子の苦悩が最も浮き彫りになるルートだと思いました。

それにしても深夜の家族会議のシーンのいたたまれなさは凄い。
絹本家の兄弟と両親はこんな局面でもひたすら善人なので、
それが却って綿子が自分を強く責める気持ちに繋がるのは必定。
私はおっさんですが、綿子に感情移入して一緒に泣き崩れてしまいました。

その後の尚太郎の漢気は素晴らしいですが、
誰も悪くない状況の中で身重な綿子のあんな健気な姿を見せられたら、
誰だって同じ行動を取るほかないのかな、と思います。
この状況の中で明確に自分を選んでくれたという気持ちもあるでしょうし。

で、それ以降のシーンの芳次郎が超カッコ良い。
これ以上ない対応で作中での精神面の成長度合いが凄いです。
去っていく男と、綿子を優しく後ろから支える男。
これが芳次郎EDと対照的になっていているのも印象的です。
(もちろん自殺未遂者を助けた際の尚太郎のセリフの変化も印象的です)


■選べないED
かなりの針のむしろ展開になりますがそれは状況的に仕方ない。
綿子自身も自覚がありますが、責任を伴う選択をできないのはなぁ。
ただ、今と違って女性に選択権がないことが多すぎる時代なので、
それがたとえ二人とも傷つけてしまうことになったとしても
この展開の中で明確にどちらかを傷つける選択をするのもまた難しい。

綿子の生い立ちやここまでの話の展開を考えると、
この選択肢が最もリアルなルートなんだろうなと思いました。
というか恐らく実質的には人生で初めて選べる選択肢がこれだなんて。。。

「綿子さんに責任を押し付けるな」という尚太郎の芳次郎への言葉は
綿子びいき過ぎると思ったものの、時代を考えたらその通りなのかも。
男気に溢れる兄弟間だからこそ投げかけられた言葉だと印象に残りました。
ちなみに尚太郎がとても優しいけど頻繁に男女で扱いが代わるあたりも
時代性をとても感じてリアルさを醸し出していると何度も思いました。

最終的には自殺未遂をした綿子の姿を見て、
家族全員の温かさや善意のおかげであるべき場所に落ち着きます。
この辺り、絹本家の反応が神懸っているほど善性の塊だなぁ、と。
いや、もう何がどうなってるんだってほど人が良すぎる。
はだしのゲンで言うところのパクさんの集団みたいな。

後日談は全EDの中で一番きれいな着地点だった気がします。
綿子の性格も考えるとこのルートがTrueなのかなぁ、と。
初回は必ずこのルートになるようにしてラストで後悔じみた地の文を出し、
2周目以降でどちらかを選ぶ選択肢を出しても良いなぁとも思いました。
一方、そういう作りではないので本ルートがTrueということでもないかも?

どうでも良いけど最後ちょろっと触れられている名古屋駅の銀時計。
出張の集合時によく目印にしているのですが、
こんな時代から(恐らく旧バージョン?)存在しているんだなぁ、と。
ナナちゃん人形はさすがにできたの最近ですよね!(とか言ってみる)

尚太郎はどっちつかずの状況に途中段階では最大ダメージを受けますが、
最終的には芳次郎より良いポジションゲットだぜ!で良かったですね。
芳次郎は愁いの雰囲気も帯びて名古屋で超モテてそう。
後日談の後でも良いので素敵な女性と結ばれてほしいです。


■再会ED
こちらは尚太郎EDを見てから解放されるエンディング。
まさかの急に綿子が鉄のような意志を振りかざす展開!
旦那が好きだ!でも実家には帰りたくない!ここにいさせてけろ!
と唐突に自己主張できる強い女がそこに現れます。
いや、確かに出兵前に尚太郎は好きにしろよと言ったけど!
このルートで尚太郎が帰ってこないとそれはそれで悲劇的なのですが、
一途な綿子と復活の尚太郎のただただハッピーなエンディングでした!
確かにこういう結末があっても良い!


■離別ED
こちらは芳次郎EDを見てから解放されるエンディング。
尚太郎は戦死して帰ってこず、芳次郎と夫婦として生きていきます。
本編の究極的な選択肢までに見たような展開はあったのでしょうが、
選択肢が提示されることもないので平穏な人生と言える展開ではないかと。
皆さんも戦地に向かう旦那には何か記念の品を持たせましょう。
確かにこの結末は(尚太郎が可哀想なので)見なくても良い!


■ちょっと不満に感じた点
何か感じた時はきちんと書いておこう、というスタンスです!
そもそも個人的には全体的にメチャクチャいいな!と思うほど、
気になる点が気になったりするんですよね。(自分だけ?)

〇回想モードが欲しかった
エンディング分岐の選択肢からエンディングまで多少の分量があるので、
エンディングそのものの回想モードがあると良かったと感じました。
(どこからどこまでを見せるべきか難しそうですが)
「結末」にて到達したエンディングの一覧が参照できるので、
ここからクリックで回想に飛べたら良いな、というのが唯一の要望です。


ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯

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ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯

ネタバレ防止緩衝地帯


5.おわりに(ネタバレなし)

というわけで「鼓草」の感想はこれでおしまいです。

噂に違わぬ超名作でした。控えめに言っても確実に良作です。
どんな忙しくても時間作ってプレイする価値ありだと思います。
ちなみにプレイ後に購入した副読本が昨日届いたのですが、
こちらも制作時の丹念な調査の一端が見られてとても良かったです。
歴史年表や用語集が物凄くしっかりしていて世界観に浸れます!

最新作の『フサの大正女中ぐらし』も評判が良いので、
落ち着いたらまたプレイさせて頂く予定です!


👆こちらが新作の紹介ページ。鼓草よりも更に時代を遡っているようです。

👆こちらは作者さんのホームページ。「らいとらいとらいと」超楽しそう。

👆副読本はこちらから購入できます。装丁も綺麗でテンションMAX!



以上、富井サカナでした。

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