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大相撲九月場所⑥ 若隆景ー逸ノ城

 六日目。
 今日心に留まったのは若隆景と逸ノ城の一番。

 立ち合いから左に動きながら逸ノ城の右の腕をおっつける若隆景。
 これで逸ノ城の右の差し手は窮屈になり、さらに若隆景が頭をつけているので、逸ノ城の右はほぼこの時点で使い物になっていまい。
途中、逸ノ城が強引に小手に振るも、下から圧力をかけ、逸ノ城の重心を上げることで、封殺。

 見応えがあったのは、ここからの刹那の攻防。

 圧力をかけるこの過程で左の脇が開いてしまった若隆景は、逸ノ城に深く右を差されかける。だが、相撲勘の良さというか、冷静さというか、瞬時に低く上体を倒し、頭を付け直す。見事な反応だった。

 一方、そのように考えると、逸ノ城も小手に振ることで、この好機を見出そうとしたのかもしれない。実際に逸ノ城の右の腕が深く入り、腕を返されてしまったら、若隆景は上体を起こされて、相当に不利な体勢となったであろう。胸を合わせたときの逸ノ城の実力は横綱に比肩する。

 もう一歩、深く想像を広げると、右を殺され、左は深く差されている逸ノ城は小手に振るという選択肢しかない、ということまで若隆景が想定したとしたら…。それが故の反応の速さだったのか、はたまた、呼び込みを誘ったのか。

 想像の波紋は幾重にも広がる。なんという高度な駆け引きだろう。


 だが、勝負はもはや、ほぼ決していた。
 手を出し尽くした感のある逸ノ城に対し、相変もわらず絶好な体勢の若隆景。とどめは、まるではず押しのような強烈なおっつけ。再度小手に振られるも、なんのその。粘り強い足腰で見事な仕上げを行った。


 それにしても若隆景のおっつけは美しい。
 おっつけといえば稀勢の里を思い起こすが、この横綱のおっつけは、「破壊」あるいは「粉砕」の印象をもった。
 対して若隆景のそれは、「締め上げ」という感じ。

 換言すると、おっつけだけで相手そのものを壊せる稀勢の里に対し、相手の攻めを壊す若隆景のおっつけ、そう見ている。
 分かりやすくはないかもしれないが、いいじゃないか。美は細部に宿るものだ。


 あぁ。細かく見れば見るほどに魅力的な大相撲。

 大相撲が、私を放さない。

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