フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化 30 ゾーン・ディフェンス攻略理論4 〜バスケットボール10〜
パスアウト
ゾーン・ディフェンス攻略法の最後はパスアウトである。パスアウトという攻撃方法は、もともとラグビーから発生したようであるが、バスケットボールにも同様の攻撃方法論があるので、どちらから発生したかはここでは言及しない。
※パスアウト:ラグビーで、選手が密集している所から密集していない所へパスを行うこと。インサイドに位置するボールマン(ボール保持者)がアウトサイドに位置するオフボールマンにパスをするプレイ。
パスアウトをもう少し具体的に説明すると、インサイドのプレーヤーにボールを入れることで、相手ディフェンスをインサイドのプレーヤーに引きつけて、いかにアウトサイドにボールを展開するか、もしくは相手ディフェンスの背後にボールを供給するかというゾーン・ディフェンス攻略法であると考える。
パスアウト3つのルール:
ドナルド・ベック(2012)は、パスアウトの3つのルールを活かした効果的なオフェンスについてこのように説明している:
この「パスアウト」も、「5スポット」と「ダイヤモンド+1」の陣形から、5スポットの1つであるエルボー付近の5番にボールを預ける。対応してきた相手によって1番〜3番のいずれかがフリーの局面となるのでタイミングよくパスアウトしてシュートやドライブを狙おう。
※ドライブ:オフェンスプレイヤーがドリブルによってディフェンスエリアに切り込み、ゴールに向かうプレイ。〈同〉ドリブルカットイン、ペネトレイション、ペネトレイト
図50:どの相手がマークしにきたかを瞬時に把握し、相手の逆を突くプレーをする。
この「パスアウト」も前の章で説明した、相手ディフェンスのライン間のギャップや相手ディフェンスの背後でボールを受ける「5スポット:ライン間でボールを受ける(ボールを入れる場所)」や、「数的優位をつくるためのダイヤモンド+1」のポジショニングが必要になる。
「パスアウトの3つのルール」とは、どのディフェンスが、ボールを受けたインサイドのプレーヤーに対応してきたかによって、プレッシャーをかけにきた相手の背後にできるスペースにパスを送ることである。
オフボールマンは、どの相手がインサイドプレーヤーをマークしに行ったのかを素早く察知し、どこにオープンスペースできるのかを予測し、素早く行動に移すこと、相手ディフェンスの逆をつくプレーが必要だと考える。
ルール1:1番のマークが来た場合
図51:1番へのリターンパス
1番をマークしていた前衛の相手プレーヤーがインサイドプレーヤーの5番をマークに来た場合は、1番のマークが外れるので素早く1番へリターンパスをする。1番はこのスペースを利用して、ドライブやシュートを狙う。
ルール2:3番のマークが来た場合
図52:3番はスペースを活かしてシュートやドライブを狙う。
ルール3:5番のマークが来た場合
図53:1番や3番へのパスが難しい場合、2番へパス。2番はフリーであれば、シュートを狙う。
図54:4番をマークしていた後衛が2番をマークしに来た場合は、2番は4番へ素早くパスをして4番はシュートを狙う。
このようにゾーン・ディフェンスの攻略法は、いかにして相手ディフェンスがしたいようにディフェンスをさせないか、ボールを使って相手ディフェンスを動かして、オープンスペースとフリーなプレーヤーを作り出すことがゾーン・ディフェンス攻略の鍵となることがパスアウトの攻撃方法から理解できると思う。
インサイドプレーヤーがライン間で相手ディフェンスを引きつけるためにボールを受けて、相手ディフェンスを動かし、他のオフェンスプレーヤーが空いたスペースを有効利用するこの戦術は、バスケットボールやラグビーだけのものではなく、フットボールにも応用可能であると考える。
フットボールの章で詳細な説明をしたいと思うが、例えば、マウリツィオ・サッリ(イタリア人監督:現チェルシー監督)が監督をしていたセリエAの名門チームSSCナポリで実践していたフットボールは、パスアウトを使ったポジショナルプレーであったと私は考える。
これで「他のチームスポーツにおけるダイヤモンド・オフェンス」バスケットボールの章を終わりにして、次からはハンドボールの章である。
引用・参考文献:
バスケットボール用語辞典. 監修:小野秀二、小谷究. 廣済堂出版. (2017). 118. 135.
ベック・ドナルド監修. バスケットボールの戦術&トレーニング. 新星出版社. (2012). 98-101.
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