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フットボールのダイヤモンド・オフェンスにおける攻撃サポートの構造化13 2.2 ダイヤモンド・オフェンスとは何か?

2.2.1 ダイヤモンド・オフェンスを説明するために使用する5レーンのグラウンド

ペップ・グアルディオラがチームのトレーニング時に使用していると言われている、縦に5つのレーンに分かれた「5レーン」のグラウンドがある。その「5レーン」のグラウンドを使ってフットボールのダイヤモンド・オフェンスを説明するが、その前に「5レーン」とは何かについて説明する。

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図8:ペップ・グアルディオラのチームがトレーニングで使用するグラウンド


ペップ・グアルディオラは、「5レーン」のグラウンドについてこのように述べている:

私たちのプレーにとって唯一重要なことは、これら4つのラインの中で何が起こるかである。それ以外のことは二次的なことだ。


5レーン:

レナート・バルディ(2018)は、「5レーン」には「グアルディオラの3つの原則」があることをこのように説明している:

①「5つのレーンの縦レーンの中には最大2人」
②「4つの横ゾーン(敵3ラインの間と前後)には最大3人までしか入らない」              
③「隣り合うレーンに位置する選手は常に斜めの位置関係を取る」

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図9:グアルディオラの「3つの原則」に基づくシステム 2-3-2-3

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図10:グアルディオラの「3つの原則」に基づくシステム 3-2-3-2

グアルディオラの「3つの原則」に沿って、「5レーンと4つの横ゾーン」にプレーヤーを配置をした。上記の3原則に当てはめると、2つのシステムしかあり得ないことがわかる。それは2−3−2−3と3−2−3ー2である。試合中は相手チームはディフェンスラインを高い位置に取りコンパクトにディフェンスをしてくるチームが多いと考える。例えば、GKからの「ボール出し(GKからのビルドアップ)」をする場合、相手ディフェンスはハーフライン付近にディフェンスラインを引き、前からプレッシングをしてくるチームが多いと思うので、上記の図のような深さにはプレーヤーはポジションを取ることが難しいと考える。そう考えると、②の原則はある特定の場面を除いて、現実的ではないのかも知れない。

ある特定の場合とは、例えばゴールキック、GKのキックが非常に飛ぶのであれば、上記2つの図のような配置や、次の図のような配置でも良いと考える(ゴールキックはオフサイドの反則がないので)。

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図11:GKからのゴールキックの配置システム 2-3-2-3

ペップ・グアルディオラは「外側レーン」にWGを1人だけ配置したいと考えているので、両ウイングが両サイドの「外側レーン」に配置されると、①の原則(5つのレーンの縦レーンの中には最大2人)を守ることができない。例えば、2-3-5システムで考えると、センターレーンに4人が配置されることになる。

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図12:WGを5レーンの外側レーンに1人だけ配置した場合

私は「5レーン」については③の原則「隣り合うレーンに位置する選手は常に斜めの位置関係を取る」だけで十分ではないかと考える。その方がプレーヤーを配置するときの自由度が高いし、相手ディフェンスの配置にも柔軟に対応できるのではないかと考える。①と②の原則については「ポジションバランスを取るときの目安」ぐらいに考えた方が良いのかも知れない。

「5レーン」のグラウンドには4本の縦ライン(5レーン)と4本の横ライン(4つの横ゾーン)がある。「4つの横ゾーン」は、プレーヤーの配置、例えば 同サイドのWGとSBが同じレーンにポジションを取った場合でも、プレーヤーのライン間の距離をしっかりと取り、ライン間バランスを意識づけするためのラインだと考えている。また、MFをWGとSBの間の高さの「内側レーン」に配置することによってWGとSBとMFが③の原則である「隣り合うレーンに位置する選手は常に斜めの位置関係を取る」ことが実現しやすいと考える。

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図13:③隣り合うレーンに位置する選手は常に斜めの位置関係を取る

ポケットのエリアはペップ・グアルディオラのトレーニング・グラウンドにはないが、ペップ・グアルディオラのチームはそのポケットを攻略し、そこからゴールチャンスを創出することを目標の1つにしていると考えるので追加している。

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図14:ペップ・グアルディオラがトレーニングで使用する5レーンの名称


ポケットエリアを攻撃するには:

ポケットを攻撃するとは、相手ディフェンスラインの背後、相手ペナルティエリア内ゴールエリア縦ライン外側のスペースでボールを受けることを意味する。
このエリアは、ウェブサイトのDailymailでポケットと呼ばれている。

Dailymailによると:

これはボックス内の黄金のスペースである。そのスペースを素晴らしくするのは、ファイナルゾーンに僅かしかないスペースの1つであるが、常にそのスペースがあるということである。

ポケットでボールを受けることの利点:
相手ディフェンスがこのポケットのエリアを守ることは難しい。その理由をウェブサイトのDailymailに次のように記載されている:

タックルを失敗するとこのエリアではペナルティキックになる。ディフェンスの読みが甘いと相手プレーヤーにシュートチャンスを与える可能性がある。それほど離れていなく、低いセンターでプレーできる。

ポケットのエリアは通常、相手ディフェンスラインの背後にあり、相手GKから少し離れた位置あり、相手ディフェンスの視野から外れやすい場所である。相手ディフェンスはディフェンスラインを守りながら、ボールと相手の両方を見なければならないのでマークが外れやすい場所である。このポケットのエリアでフリーマンを生み出し、得点チャンスを増やすことは可能であると考える。

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図15:補足説明図

「5レーン」について、ドイツのspielverlagerung.comというウェブサイトでこのように説明している:

5レーンにおいての基本的な働きは、同サイドのWGとSBが決して同じレーンにいないことである。相手の中央のディフェンダーの位置に応じて、WGとSBは、外側か内側のレーンに1人づつ配置される。

相手の中央のディフェンダーの位置に応じてWGとSBは外側か内側のレーンに1人づつ配置するということは、攻撃側のチームがどこのレーンでボールを保持しているかが大事であると考える。

「センターレーン」か「内側レーン」でチームがボールを保持していると仮定して、左WGが「外側レーン」にポジションを取った場合、相手右SBがその動きについてくるのかどうか、もし、相手右SBが「外側レーン」にポジションを取った左WGをマークした場合、相手の右CBと右SBの間に大きなスペースができることだろう。その空いたスペース(通常、「内側レーン」のスペース)に左SBが入り込むことによって相手右SMFが左SBの動きについていくと、左MFが左SBが空けたスペースでボールを受けることができ、左サイドで3対2(3:左SB、左MF、左WG 対 2:右SMF、右SB)の局面を作ることできるだろう。

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図16:左SBの動きに対して右SMFがマークした場合(攻撃側 2−3−2−3 対 守備側4−4−2)

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図17: 左SBの動きに対して相手右SBがマークした場合

次に、左SBの動きに対して左WGをマークしていた相手右SBが左SBをマークするために内側へポジションを移動した場合、左CBから直接左WGへのパスコースができることであろう。この場合、左MFは相手右SMFを自身に引きつけて、左WGへのパスコースを確保する必要があると考える。

もう一つのオプションとして、左WGに相手右SBがマークについた場合、左WGは「外側レーン」から「内側レーン」にポジションを移動し、「外側レーン」を空ける。その空いた「外側レーン」に左SBがポジションを取りボールを受けるパターンであろう。相手右SMFが左SBをマークすることも可能であるが、そうすると左MFのパスコースを空けてしまうことになる。左SBもしくは左MFが外側か内側レーンでボールを受けると左サイドで3対2の数的優位(3:左SB、左MF、左WG 対2:右SMF、右SB)を作ることが可能である。

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図18:左WGと左SBの動き

WGかSBが「外側レーン」でボールを保持したときに、相手ディフェンス全員が外側へ素早く移動しプレスをかけてきた場合、WGとSBは「外側レーン」の同レーンにポジションを取り、互いをサポートし合うことが大事になると考える。なぜなら、ポジション優位(後ほど詳しく説明する)とは、ボール保持者に対してパスコースを確保することが前提であると考えるからだ。

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図19:ボール保持者と相手ディフェンスの位置によっては、同サイドにポジションを取る左WGと左SB

相手ディフェンスの配置によって攻撃側の配置が変化する、ポジショニングで優位性を獲得するポジション優位という考え方がポジショナルプレーの根幹となるコンセプトだと考える。

ペップ・グアルディオラのチームのプレーヤーは、この「5レーン」のグラウンドで日々、ポジショナルプレーのコンセプトを学んでいるのだろう。フットボールのダイヤモンド・オフェンスもポジショナルプレーを実行するための方法論の1つであると考えるので、プレーヤーが「5レーン」のどこにポジションを取るのかが非常に重要である。従って、「5レーン」のグラウンドは、フットボールのダイヤモンド・オフェンスについて論じるのに適していると考える。

引用・参考文献:

Spielverlagerung.com. Juego de Posición under Pep Guardiola. (25, 12, 2014). http://spielverlagerung.com/2014/12/25/juego-de-posicion-under-pep-guardiola/.

Dailymail. How Manchester City dominate teams tactically. (20,10, 2017). http://www.dailymail.co.uk/sport/football/article-4997692/Manchester-City-tactical-an alysis-best.html . 

バルディ・レナート;片野道郎. モダンサッカーの教科書:イタリア新世代コーチが教える未来のサッカー. ソル・メディア. (2018). 77.




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