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【漫画原作】『煩悩フリマアプリ ボンノン』第1話 なんでも買える少年

 【あらすじ】
 ありとあらゆるものを売買できるアプリ「ボンノン」
 それは物だけではなく寿命など形の無いものすら売買できる。
 寿命を売り大量ポイントを所持する小学6年の男子 平河寺平太はそれがきっかけで事件に巻き込まれてしまう。
 平太は監視役の女性天音いさりび(25歳)の協力を得ながら売買で乗り切っていく。

 平太は寿命を売ってまで何が欲しいのか。
 襲いかかるテロリスト。
 そして運営も平太の存在を危険視する。
 少年が何かを失い何かを得る成長譚。

 息も絶え絶えの平太が地面に横たわっている。冷たい雨。
「寿命なんか売らなければこんなことには」
 そう悔やむ平太を黒い死神のような姿の人物が見下ろしている。
「こんなとこで死ぬなんて… お姉ちゃん、守れなくてごめん」
 その近くには地面に座った状態のままぴくりともしない女性。名前は天音いさりび。
 薄れゆく意識の中、姉との思い出を回想する平太。
 そして、動かなくなった平太に黒い死神のような人物がゆっくりと歩み寄る。


 ■半年前 4月
 小学六年生になったばかりの平河寺平太。
 彼のスマホにはフリマアプリ「ボンノン」がダウンロードされている。
 もはやインフラと化した「ボンノン」は様々なものが売買されている。
 有名人のサイングッズなんかはもちろん、通称Pと呼ばれる違法薬物もある。若い子はデート権を売ったり、おじさんは精力増強剤を買ったりしている。

 「ボンノン」では「ボンポイント(通称Bポイント)」で売買が行われていて、Bポイントの所有量が絶対だ。
 「Bポイント」さえあればなんでも買える。

 冬になると入試の問題用紙(解答セット)も頻繁に売買される。
 選挙の時期には票数が大量に売買される。
 平太もボンノンを利用している。
 しかも所有Bポイントはなんと10億ポイント。
 10万ポイントを貯めるのも大変だと言われている中、小学生で10億ポイント所有は異常だ。
 (物品の売買は店頭販売価格の1割から2割引きで出品されている。1Bポイント=1円)

 平太が家で何を買うかボンノンを閲覧していると、インターホンが鳴る。長身の女が訪ねてきた。
 「平太さんはご在宅ですか?」
 居留守を決め込む平太。知らない大人とは関わらない方が良い。
 「ぴらりん、と言えば出てくれるかな?」
 心がざわつく平太。
 ぴらりんとはボンノンでのアカウント名だ。
 ぴらりんが僕だと把握し、しかもこの家にやってきたということは、確実にボンノンでのトラブルだ。

 ピンポーン
 インターホンの音が家の中に響き渡る。
 「ぴらりーん、あーそーぼー」
 息をひそめ震えながらボンノンの過去の売買履歴を見直す。何かトラブルがあったのか。メッセージ通知などを確認したが特に問題は無さそう。
 「居ないのー?また来まーす」
 静寂。
 どうやら帰ってくれたようだ。
 念のためスマホのGPS機能を切っておこう。
 「居るんじゃーん」
 女が部屋の窓から僕を覗いていた。
 「!!」
 のけぞる平太。
 「スマホがここからずっと動かないから忘れてどっか行っちゃったのかと思ったよ」
 GPSを切ってしまったせいでむしろばれてしまったということか。
 「まぁ、10億Bポイントが入ったスマホを手放すわけないか」
 女が不敵な笑みを浮かべて僕を見下ろしている。

 「ただいまー」
 姉のつぐ美が帰ってきた。
 少しほっとしたのと、この女をどう説明するかというのとで思考がフリーズしてしまう。
 気付くと女は平太の部屋の窓から離れ、いつの間にか玄関に戻っていた。
 「こんにちはー」
 「こ、こんにちは」
 後ろから声を掛けられたつぐ美が驚いているのがここから見えていなくてもわかる。
 「平太さんにお話しがありまして」
 「平太に?なんですか」
 つぐ美の警戒心が一気に強まる。
 つぐ美は弟の平太が大好き。かわいいし気が利くしお姉ちゃん思いだし。いう事聞いてくれるし、家事とかもなんでもやってくれるし。もし平太の恋人が出来たらと思うと我を忘れてしまうかも知れない。そんないたって普通な姉だとつぐ美自身は思っている。
 そんな弟にデカい女が近づこうとしている。しかも年齢は一回り以上歳上に見える。24,5歳くらいか。

 「お姉さんも一緒にお話しを聞いていただけると嬉しいんですけど」
 「わかりました。少々お待ちいただけますか」
 デカい女を玄関の外で待たせ、その間につぐ美は平太と打ち合わせをする。
 「あの女知ってる?」
 「知らない」
 「心当たりも?」
 「無い」
 「よし、怖いけど家に入れよう。何かあったらすぐ警察に通報しなさい」
 うなずく平太。

■ご挨拶と来た目的
 「監視?!」
 平太とつぐ美が驚く。
 「ボンノンでは大量にポイントを所持している人物に護衛の意味も込めて監視を付けております。平太さんはその対象になったということです」
 つぐ美が平太を驚いた顔で見つめる。
 「マジ?」
 「…うん」
 「今やボンノンは地方自治体を指先ひとつで動かせるほどの力を持っていますからね。大量ポイント所持者の誘拐事件なども起きています」
 「お願いします!」
 つぐ美が頭を下げる。
 「大事な弟なんです!平太に何かあったら私…」
 弟の頭をなでながら悲痛に訴えるつぐ美。
 「わかりました。この天音いさりびにお任せください!そもそも承諾とか無くても監視しなければならないですし!」
 (お姉ちゃんを守るつもりが逆に護衛兼監視をされるなんて)
 (でも待てよ、僕とお姉ちゃんが一緒にいればデカ女に守ってもらえるかも)
 「そうそう、私は平太さんを最優先にお守りしますのでご理解くださいませ。平太さんのお姉様は護衛対象外となっております」
 (このデカ女!お姉ちゃんも守ってもらうからな!)

■監視を数日続ける
 それから天音いさりび(25歳)により監視と護衛が開始。
 平太は登下校もしっかりつきまとわれる。
 平太の同級生は「でけー」「平太のねえちゃん?」「おっぱい!」と騒いでいる。
 突然護衛がついて回る方がむしろ怪しまれてないか?
 大量Bポイント所持者だと言ってるようなもんじゃないか。

 「平太さんは何か欲しいものがあるんですか?」
 「まあね。お姉ちゃんのために使おうと思って」
 「えらい!」
 「いさりびさんはなんでこの仕事を?っていうかどうやって?」
 「私もBポイントを貯めてるんですけどなかなかねー」
 「え?監視役でもボンノン使って良いの?」
 「はい。ボンノン使ってたら求人出てたんで、それで」
 「結構軽い…」
 「ボンノン運営の情報を出品すればかなり高く買ってもらえそうなんですけどねー。それはダメみたいで」
 「そりゃそうだろうね」
 (ボンノン運営は謎が多い。どのように維持しているのか。売買についてはどのように行われているのか。そもそも形の無いものをどうやって?)

■平太がついに購入するものを決める
 下校中にスマホをいじる平太。
 お姉ちゃんのために僕はある出品物に目を付けた。
 それは「人気アイドルへの道」という出品名。出品内容は「代々木のとあるアイドル事務所+敏腕プロデューサー1名」のセットで1億Bポイント。
 お姉ちゃんは高校2年生。地下アイドルグループに所属している。
 地下アイドルはファンとの距離が近い。
 ファンもアイドルとの近さを求めて地下現場を渡り歩いているような猛者どもだ。
 そして地下アイドルの運営も金儲けか地下アイドルの身体目当てのプロデューサーばかり(平太評)。
 だから地下アイドルを辞めさせてお姉ちゃんを一流のアイドルに押し上げるんだ!
 「アイドル事務所+敏腕プロデューサー」これを購入してお姉ちゃんを所属させればあとは売れるのを待つだけ。お姉ちゃんもトップアイドルという夢が叶う!

■死刑執行人出現
 購入ボタンを押そうとした瞬間、僕は強烈な寒気に襲われた。
 「死が僕を見つめている」そう感じた。
 振り返る。
 明らかに常人ではない、禍々しい雰囲気をまとった長身の男があらわれた。
「ぴらりん、だな…?」
 平太は直感する。僕の命が狙われている。しかもアプリのユーザーネームを知られている。
 天音いさりびと初めて対面した時とは比べ物にならない恐怖。
 ボンノンが原因に間違いないだろうが、どれがきっかけなのか何もわからない。
 「アイドル事務所+敏腕プロデューサー」を購入しようとしたから?購入したわけでもないのにこんなヤバい奴が現れるのか?
 それとも僕が10億Bポイント所有者だから誘拐目的?

 「死」がゆっくりと近づいてくる。
 いさりびが平太をかばうように前に立つ。
 「どちら様ですか?」
 言葉は丁寧だが殺意むき出しの声のトーンで放つ。
 「執行人…だ……」
 「執行人……?」
 「いさりびさん知らないの?」
 「都市伝説レベルでは聞いたことあるけど、まさか実際に出現するとは」
 いさりびの服をつかみながら後ずさりをする平太。
 「平太さんがそれほど危険人物だと運営に認定されたってことですね」
 いさりびが冷や汗を垂らす。
 身体がこわばる平太。
 「ぴらりん、死んでもらう……」

 仁王立ちになるいさりび。
 「そうはさせませんよ」
 「いさりびさん!」
 「平太さんが死んじゃったら10億Bポイントが使えなくなっちゃうじゃないですか!!10億は絶対に守る!!」
 「ん?いさりびさん?」


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