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列車に乗って北朝鮮(4)~新義州→平壌 その2~

●食堂車へ行こう

さてのんびり車窓を楽しんでいるうちに
もうお昼を過ぎる頃になりました。
おナカも空いてきましたので
列車に連結されている
食堂車へ行ってみることにしましょう。

ああ、食堂車。
今の日本では特別なゼイタク列車(笑)のみで
お高い料理を出す「レストラン車両」しかありませんが
ワタシが子供のころは多くの長距離列車に
ふつうの「列車食堂」が連結されてました。

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ナイフとフォークのマークは食堂車のしるし


そう、まさに文字通りの「食堂」で
オムライスだのハンバーグだのがそろってて…

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(写真はいずれも「交通公社の時刻表」1981年3月号から)

なつかしいなぁ。

それも今回は北朝鮮国鉄の食堂車です。
どんなものを食べさせてもらえるんだろう。
いやがうえにも期待が高まりますよ。

ちょうど編成の中ほどに目指す食堂車が。
お、なんかレストランっぽいぞ(←気のせい)

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「食堂車」とは書いてありませんが
窓には「ドアを必ず閉めてください」の表示。
でも半開きでしたけどね(笑)

いそいそと中へ…
が、なんと超満員。

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予想外の大繁盛ですよ。
中国人団体が乗り込んでいたためか
どのテーブルも大賑わいで
手前の席ではパイプ椅子まで出してきてます。
あちこちから大声の中国語、
みんなわぁわぁと喋り、かつ、飲む!
まぁ旅先ですからね。羽目も外すでしょう。

そのうちどこかの席が空くだろ…と
しばらく待ってみたものの
各テーブルでの宴は盛り上がり
一向にお開きになる気配がありません。
店員さんも「ごめんなさいねー」と苦笑い。

どうしたものかと思案していたら
「お弁当にできますよ」との提案。

なんでもこの食堂車のお昼メニューは
実は定食の1種類のみなんだって。
それを持ち帰れるよう容器に詰めてくれるそう。
オカズの内容も値段も一緒らしいので
じゃあそれを席で食べましょうか、お願いします。

「あとで席までお持ちしますよー」と言ってくれましたが
5分もかからないらしいので待つことに。
で、できあがってきた「お弁当」は

どどん。

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なんとゴハンは別パックで2段重ねの豪華版。
ペットボトルの水も1本ついてきます。
これでお値段は58元。
日本円だとおよそ1,000円くらいですね。
中国の食堂や弁当のことを考えると
もうこれは相当お高いんですが
ま、このボリュームだし
貴重な北朝鮮のお弁当(?)だしww

フタを開いてみるとこんな感じ。

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うわ、尾頭付きのエビがっ!
おせち料理じゃあるまいし
弁当にしては無駄に豪華です。
もうちょっとシンプルでいいからお安く…
というヤボな感想は言うまい。

さて、そのほかのオカズは何でしょうね。

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上から時計回りに
ハンバーグ、エビ、固ゆでタマゴ、鶏モモの素揚げ
キムチ、棒鱈のキムチ和え、からし明太子、山菜の油炒め。

お味はなかなか良かったですよ、うん。
おかげさまでおナカもいっぱい。
ただ、辛いものがちょっと多かったかな。
半年の韓国留学でトウガラシにかなり慣れた舌でも
しばらく辛さが口に残ってました…

ちなみに、このお弁当。
さっきの食堂車で「定食」として食べてもお値段同じ。
やっぱり気になるので、帰りの列車であらためてトライしました。
そのへん、鉄ちゃん根性がまだ抜けてません。
マニアは貪欲ですよw

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これ、オカズは同じなんですが
1品ずつ小皿で出されるので見た目ちょっと豪勢。
そしてそして、こちらにはわかめスープがついてます。
なるほどスープは持ち帰れませんからね。
やはり食堂車で食べたほうがお得…と計算するセコさ(苦笑)
それに、ゆったりしたお食事感が弁当とは断然違いますよね。

ウェイトレスさんもけっこうキレイだしw
そういえば食堂車での業務以外に
ワゴンを転がして車内販売にもやってきますよ。

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戻ってくるときにお顔しっかり撮りたいとカメラ向けたら
マジで怒られちゃいました…
彼女たちは撮っちゃダメみたいです。なんでかな。

ワゴンの中身はビールにおつまみ、
カップラーメンにお菓子など、まぁ一般的な内容です。
日本製の商品もありました。写真は撮れませんでしたが…

ところで帰りの食堂車は行きとは打って変わってガラガラ。
せっかくなのでちゃんと撮れなかった食堂車内部を一枚。

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けっこう落ち着いたキレイな内装です。
空調に家庭用エアコンがついてるのがすごい。
古い装備の客車を工夫して精一杯のサービスですね。

ちなみに20年前の食堂車はこちら。

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この時は案内員が同乗していて、
「撮っちゃダメです」と渋るのを頼み込んで撮影。
この方向での1枚だけ許されました。
反対側には厨房と配膳台、
そして当時は例の「肖像画」も掲げられてましたよ。
天井の扇風機が時代ですねぇ。
テーブルやイスは確かにチープですが
内装はそれなりに立派です。なんで鏡があるのかは不明w

なつかしついでに当時のお弁当の写真もどうぞ。

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こちらはむっちゃシンプル(笑)
お値段はもう忘れちゃいましたが
まん中の煮卵がむっちゃ旨かったのを覚えてます。

●ついでに車内見物

さて、食堂車へおでかけついでに
列車内をすこし見物してみましょう。
ただし、食堂車より向こうにある
北朝鮮国民用の一般車両へは
外国人が立ち入ることはできません。

それにしても通路にしてもデッキにしても、
大きな荷物であふれてますな。

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マジ邪魔…



寝台車なので、洗面所は広いですよ。

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夜行列車だと朝は混雑しますからね。
ちょっと乱暴な置き方ですが、セッケンも備え付け。

この洗面台でお湯は出ませんが
お茶用の熱湯は反対側にあります。
中国やロシアの鉄道ではよく見かける設備。

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でも茶炉「室」という表示はどうなんだろ。
どう見ても部屋じゃないよなぁw
中国語ではそういう表現なんでしょうか。
上の朝鮮語表示では「沸かした水の出るところ」、
まぁつまり熱湯出口ですが、そう書かれてます。

こちらはトイレ。昔ながらの和式ですね。
すでにゴミなど放置されてますが
室内はおおむねキレイで衛生的。

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手洗いに洗面器が置いてあるのは
使用後に流すためです。
水洗ペダルがついてないんですよね。

ところで、この車両。
北朝鮮国鉄の車両ではあるんですが
どうやら中国製のようです。
いろいろ細かいところで
なんとなくそうなんじゃないかなぁと
鉄ちゃんの勘がそう思わせていたんですが
ここで判明。

例えばトイレの手洗い器の製造銘板がこれ。

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中国は南京の工場のプレートがついてました。

あと、「水を流してください」の表示板も…

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中国語の文字はしっかりしているんですが
朝鮮語の方は文字の形が微妙なうえに
文章の区切りがおかしい。表現も。
細かい説明はここでは省略しますが、
朝鮮・韓国語を勉強した人ならわかるはずw
日本語でのイメージなら

「便を流レ てくた”さしゝ」
(便を流してください)

と書かれてる感じかな。
そこまでひどくはないですけどね(笑)

まぁそれはともかく、次の車両へ。
こちらは上級寝台車。
日本で言えばA寝台車…と言っても最近はわかんないか。
われわれの一般寝台車よりもひとつ上のグレードです。

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それぞれ扉の付いたコンパートメント。
さすがに中は他人がいるので撮れませんが
こちらのベッドは上下2段でゆったりです。
ベッドもちょっとクッション良さそう。
通路もスッキリ、車内も静かで空調はよく効き
やはり「上級」な感じです。

通路のラックには
「朝鮮の今」という北朝鮮の代表的グラフ誌が。

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中国語版だけでしたけど。

デッキの車両番号表示板を見ると
記号は「나침30 5313」。
最初の文字が「다(タ)」よりひとつ”上”の「나(ナ)」です。

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定員も一般寝台車のおよそ半分。ゆとりですね。

いやもちろん、
うちらの一般寝台も一応空調はあるんですが
タバコを吸いたいオヤジがいっぱい乗ってて
入れ代わり立ち代わりデッキに出るし
ドアも開けっ放しにするので
クーラーの冷気は全部逃げる…

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そのうえタバコの煙もどんどん流れてきて
もはや室内禁煙の意味すらない状態。
庶民的と言えばそうかもしれないけど
あきらかに雰囲気が違うよなぁ。
まぁそれでも、その他の国内列車に比べれば
こうした寝台車そのものが特権的なんですけどね。
やはり一般市民が乗る機会はまずないようです。

●ほかの列車は

その国内列車とも途中で何度かすれ違いましたが
かつて多く語られていたような
窓がないとかドアがない、といったような
ボロボロの車両はもうなくなっていて
多少古めかしいとは言っても塗装もきれいで
ある程度整備されたものになってました。
窓もしっかり寒冷地仕様の二重窓です。

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窓の下の行先表示を見てみると
これは北朝鮮東北部の恵山(ヘサン)から来た列車。
校外学習の生徒たちを乗せているみたいです。
私たちの列車の通過を待つ長時間停車だったようで
ホームへ出て休憩してる子がたくさんいました。


こちらは別の列車。
塗色の違いが何によるのかはわかりませんが
以前のように濃い緑に黄線の大陸カラーだけじゃなく、
赤や緑や青…といろんな種類があるようです。

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これは「上級座席車」ですね。
2人掛けのリクライニングシートが
窓の向こうに透けて見えます。
いわゆる「グリーン車」クラスで乗客少ないw

また、窓際にジュースやお菓子など
「旅のお供」を置いている乗客もかなりいて
そういう部分でもちょっとしたゆとりを感じます。
以前は見られなかった光景です。
たぶんまだまだ限られた人だけなんでしょうが
こうした鉄道旅行を楽しめる機会も
少しずつ増えてきているのかもしれません。

いつか外国人もそんな普通列車に
気軽に乗れるようになればいいなぁ、などと
鉄ちゃん妄想をボンヤリ膨らませながら
静かに車窓を眺めて、と思ってたんですが…

●警笛がうるさい

そう、どうにもさっきから警笛が頻繁に聞こえます。
プアァーーンと長い警笛もあれば
プァンプァン、という短い警笛もあって
それもある区間ではもう休みなく鳴らし続けるんです。

日本ではトンネルや鉄橋、工事区間以外では
よほどのことがないと警笛なんて鳴らさないので
いったい何があったんだ?と思うほど。
鉄ちゃん的には警笛も本来心地よい音なんですが
これだけ鳴らし続けられるとさすがにうるさいぞ(笑)

ほんとに何があるんだと思ってよく見ると

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線路脇を列車ギリギリに悠然と歩くおっさんが。

そのほかにも
日本では考えられない近さで
多くの人が普通に歩いてますよ。

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実は鉄道の線路って
地元の人にとっては生活路になってるんです。
確かにとなり街へ行くのに最短距離だし
線路はまっすぐで坂も少ないからラクチン。
地面もしっかり固められてるので歩きやすい。
見方を変えるとこれは最高に便利です。
列車もめったに来ないので
なるほどコレを使わない手はありませんw

さらに、線路をみんなが勝手に横切るうちに
いつしか道ができてしまった「勝手踏切」も
あちこちにたくさんあって自由に行き来されてます。

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自転車もよいしょと抱えて…

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正規の踏切も、遮断機のないところが多く
みなさん列車通過の直前まで渡り続けます。
そんなわけで線路上には
あちこちで常に人がウロウロしてるわけ。
これは列車のいちばん後ろから見た光景。

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まぁのどかと言えばのどかなんですが
運転士の気持ちになれば
前方がこんな状態だと警笛鳴らし続けちゃいますよね。

その後もピョンヤンに着くまで
警笛が鳴りやむことはありませんでした。

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