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列車に乗って北朝鮮(5)~新義州→平壌 その3~

●機関車撮れるかな

なんせ5時間も列車に揺られるのですから
それなりにほかの列車ともすれ違います。
のどかな車窓風景もいいのですが
鉄ちゃんとしてはやっぱり
貴重な北朝鮮の車両を撮りたい!わけですよ。

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ただ、これが意外とむずかしい。
そりゃもっと確かな腕前がワタシにあれば
あれこれバッチリ押さえられるのかもしれませんが
突然反対側に現れる対向列車を
カメラで的確に捉えるのはちょっと無理。

と、なると基本的にはどうしても
駅にいる列車を狙うことになりますが、
さすがに停車中の窓から無遠慮に
バシバシ撮るわけにはいきません。
日本で暮らしているとピンときませんが
いちおう鉄道ってのは軍事施設に準じるもの。
こちらには悪意がなくったって
やたらカメラを向ける姿を見れば
「怪しい!」ってことになりかねません。

もっと言うと
「鉄道写真趣味」という概念は
日本以外ではなかなか理解されません。
子供ならともかく、大のオトナが
「列車!機関車!」とはしゃぐ様子は
欧米も含めてかなり奇異に映るんだそうでww

そのへん気を遣いながらも
何枚かは撮ることができましたよ。

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これはいちばんよくみるタイプの電気機関車。
「붉은기(プルグンキ=赤旗)」号です。
正面にはその名のとおり赤い旗のマークが。
ワタシら世代には馴染みあるフォルムで
いちばん好きかな。

色違いタイプもあります。

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車体の横には金文字で大きく「白頭密営号」。
白頭は朝鮮半島でいちばん高い白頭山のことで
密営とは朝鮮革命人民軍の活動拠点のこと。
ここで金正日氏が誕生したとされていて
北朝鮮最高の聖地が「白頭密営」なんですね。
そんな名前がついてるので
なにか特別ないわれのある機関車なのかも。

そのほか四角張ったタイプや

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ちょっと小さめなものなど種類も豊富。

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おお!ここで駅員氏が手に持っているの
昔なつかしタブレット!
詳しい説明はマニアックになるので(苦笑)省きますが
単線区間で列車同士が衝突しないように
これを持った列車しかその区間には入れないようにする仕組み。
昔は日本でも広く使われていました。
駅員氏が持ってる輪っかを、走行中の機関車から
手前の青いポールに引っ掛けて交換します。
このシーンがカッコいいんだよなぁ、鉄ちゃん的には。

あ、これは機関車ではありませんがちょっと珍しい。

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もともとピョンヤンで走っていて引退した地下鉄車両に
パンタグラフと変圧器などを付けて改造した一品。
旅客用ではなく事業用だと思われます。

ちなみに、これは地下鉄として活躍していた同形式車両の姿です。
15年くらい前かな。

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ピョンヤンの地下鉄は第三軌条方式と言って
線路の横にもう一本電気を送るためのレールを敷いて
そこから電力をもらって車体を動かす仕組み。
大阪や横浜、札幌の地下鉄なんかもそうですね。
下から電気をもらうので、屋根の上にパンタグラフはありません。

そのうえ電圧も違うのでそのまま持ってきても使えず、
陸上の線路でちゃんと走れるように
かなり大掛かりな改造をしています。
地下鉄の車両はもともとサイズが小さいので
屋根の上のパンタグラフもかなり無理やり感が。
なんかこう、手作り感がありますね。

●駅名標もおもしろい

新義州-ピョンヤン間には30個くらいの駅があります。
駅の建物はやはり北朝鮮独特ですよ。
これは南新義州駅。

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おなじみ指導者お2人の肖像画が高く掲げられ、
その両脇にはスローガンが大きく。
左側は
「敬愛する最高領導者金正恩同志万歳!」
右側は
「栄光ある朝鮮労働党万歳!」。

なお肖像画の下にあるのは駅名です。
最初は珍しくて駅を通過するたび反応してたんですが
規模の大小はあっても
だいたい基本的な構造は同じなので飽きてきますw

下端(ハダン)駅。左右の標語は同じです。

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ちょっと大きな漁波(オパ)駅。

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この駅では下にもう一つ
「祖国と人民のために服務する!」という
別のスローガンが掲げられていました。

宣川(ソンチョン)駅。

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ここは駅名が電光式になっててちょっとオシャレ?


でもこうやっていろんな駅を見ていて気付いたのは
建物よりもホームにある駅名標が実に個性的なこと。
ニッポンのそれはだいたい同じ形ですよね。
こんな感じ。

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       最近はこういう駅名標も少なくなったなぁ…

でも北朝鮮では各駅ごとにいろんな形があるんです。
まずは龍川(リョンチョン)駅。

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これなんかはまだふだん見慣れた形に近いですね。

で、これは東林(トンリム)駅。

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なんか謎の造形になってます。

定州(チョンジュ)駅はこれまた独特の形。

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なにかを表すデザインなんでしょうか。

一転して文徳(ムンドク)駅は素気ないほどシンプル。

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どれもだいたいコンクリート製で
表示そのものは駅名を大きく赤い字で書き、
その下に矢印を挟んで前後の駅、
一番下に所在地(平安南道定州市、とか)…
と、各駅共通で日本とほぼ同じなんですが
そのデザインはまさに多種多様。
他の路線は乗ったことがないのでわかりませんけど
なんか北朝鮮にも「遊び心」が見られて楽しいです。

あと、駅名標の写真って列車が駅を通過するときに
がんばってタイミングを合わせて撮ろうと
無心(?)でシャッターを押すことが多いんですが
宣川駅で撮った写真をあとで見ると
思いがけず駅員さんが写っちゃってました…

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この日は初夏の日差しが強い日。
若い女のコの駅員さんは
ついつい日陰に隠れてたんでしょね。
駅名標がちゃんと写らなかった残念さよりも
可愛らしい瞬間を見られたうれしさの方が大きいなw
ま、本人は撮られて絶対うれしくないでしょうけど(笑)
ただどうしても北朝鮮は息苦しいイメージが強いので
けっこうお気に入りの一枚になりました。

●ようやくピョンヤンへ

さて、こうして鉄道の旅を満喫しているうち
終点ピョンヤンが近づいてきました。
柳並木の普通江(ポトンガン)を渡るともうすぐ。

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他の乗客たちもピョンヤンの街並みに感慨深げ。

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今までとは雰囲気が違う高層建築に出迎えられて

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列車は夕刻、首都ピョンヤン駅のホームに滑り込みます。

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大屋根がついた広大なピョンヤン駅1番線。

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降りる人、出迎える人でにぎわうホーム。

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ワタシもこの後ここで現地ガイドさんと合流します。
楽しかった鉄道の旅もひとまず終了。

うん、やっぱり列車はいいなぁ。

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●沿線風景の偽装疑惑?

ところでこうした沿線風景についてよく
「見える建物は全部宣伝用のハリボテだ」とか
「動員された人々が沿線生活を演技してる」
といった声を聞きますが、
ワタシが見た限りではそんなことなかったなぁと。
いままでにいろんな写真を上げてきましたが
それをご覧になってみなさんはどうでしょう。

今回がなんかマスコミ集めての取材だとか
大きな外交団体の旅行とかだったならともかく
誰に知られるわけでもない一人のマニア(笑)が
ふらりと列車に乗るからと言って
あれだけの人々が動員されるとは考えられませんよ。

列車は毎日走ってますし
日本人はともかく外国人が乗ることは頻繁にあります。
いまはコロナで国境は完全封鎖ですが…

ま、それはともかく
誰か外国人が列車に乗るそのたびに
いちいち200キロの沿線に動員かけるなんて
ローマ皇帝でも無理でしょうww
そもそもワタシら個人旅行者に対して
それだけの手間暇かける意味もメリットもないし。

確かに、選ばれた人たちが特別に与えられた住居に入り
沿線生活を「演じて」いる可能性もなくはないでしょう。
でもそこで彼らが何年も暮らしているのなら
それはもうそれでひとつの「日常生活」でしょう。
失礼ながら決してきれいで立派な住宅ばかりではないし
よく見りゃゴミやガラクタも転がってます。
これがもしすべて演出なら恐ろしいクオリティー。

もちろんこの沿線風景だけで北朝鮮の現状は語れないでしょう。
車窓から見えた人々が社会的にどの階層なのかもわかりません。
ただ少なくともある一定の生活水準で暮らす一般市民の
リアルな日常の一端であることは間違いないと思います。


で、次回の記事からは現地で見聞きしたあれこれを
順番無視(苦笑)で思いつくままに上げていきます。
それらも、ほんとうにどうなん?と疑いだせばキリはありません。
それにピョンヤン市自体が「特別な街」であることも事実。
でもすべてワタシが実際にピョンヤンで見た「現実」で
少なくとも北朝鮮の今のリアルな姿の一部であることは確か。
まだまだ知られざる国の「へぇ、そうなんだぁ」を
あんまり深く考えず、気楽にご覧いただければ幸いです。

★おまけ★
途中にあった列車基地での一枚。

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むこうに見えるスローガン看板が
鉄道らしいカッコ良さでいいんですが、
むしろその手前にある
ボクシングしている熊がむっちゃ気になるww

まぁカワイイっちゃぁ可愛いんですが
なぜに列車基地で熊がボクシング?
わざわざこういう像が置かれていることに
謎が深まります。

ちなみにスローガン看板の内容は
上に赤い文字で金正日のお言葉
「私は我が国の機関士たちを愛しています。金正日」
そして下には青い文字で
「機関士たちよ!」
「その愛、その信頼に忠誠の偉勲で応えよう!」
とあります。鉄道員も勇ましいですね。

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