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夢と悪夢の3Dダンジョン『ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団』感想

私はかなり前から
ロングヘア黒髪の美女がメインキャラにいて世界観はファンタジーで戦闘システムは『世界樹の迷宮』のような(最初に指示すればあとは自動で戦ってくれる)3DダンジョンRPGでドールなど人工生命が出てきて人間の心の善悪を描き出すようなダークで見応えのあるシナリオのゲームがやりたい!
という性癖丸出しの願望を持っていたのだが、なんと2016年にもう発売されていた。
それが『ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団』である。
2020年にSwitch移植版が出るまで存在に気付かなかった私の情報惰弱さはさておき、ゲーム開始前から内容についての情報を得るごとにワクワクしたのは久々だった。
条件のきびしい裏ダンジョンを出現させていないながらも、届いてからのプレイ時間はかなり「エグい」ものになった。
Switchを購入した時、同時購入したブレスオブワイルドを猿のように遊び続けてしまい「これは強制的にボスを倒してクリアしないと延々とやっちゃう奴」と己自身からの警報が鳴ったため強引に旅を終わらせた時と同じ感覚がした。
攻略本を見ながら最短ルートをなぞるか、超非効率的に右往左往して散策三昧してストーリーを止めるかの2択しかゲームの遊び方を知らない人間はやることが極端である。

これは私のエゴだが、もし『ルフラン』を遊ぶ際は迷宮攻略以外の情報をなるべく絶って1周目クリアまで突っ切って欲しい。

ここからはキャラクターとストーリーの話をする。
メインキャラクターは先ほど触れた黒髪の美女こと魔女ドロニアと、その弟子の少女魔女ルカ。ゲーム上では主に魔女さまと呼称される。
しかし主人公は彼女たちではない。彼女たちが所有する伝説の書物にして魔法道具・妖路歴程(ようろれきてい)に宿った「さまよう魂」である。
魔女たちは基本的に拠点である馬車小屋から動かず、妖路歴程(以降、愛称のレキテイと表記する)が地下迷宮に潜り、人形兵を使役して進んでいく。
ちなみにレキテイは本なので動けないし言葉も交わせない。
レキテイの部下のような印象のある人形兵たちだが、彼らは魔女が木偶人形に「さまよう魂」を込めた存在なので扱い/立場/成り立ち的にはレキテイとほぼ同列である。
戦闘員である人形兵はあらかじめ顔パターンが決まっているが、性格、名前は自分で設定できる。進めていくうちに愛着が生まれるはずだ。

レキテイたちが潜る地下迷宮はただの縦穴ではなく、さまざまな異世界とつながっていて、全て巡って魔女の望みを叶えることが旅の目的となる。
だが、魔女たちがいる地上(ルフラン市)が比較的平和で落ち着いた中世ヨーロッパの世界観であるのに対して、地下迷宮で見る異世界は登場人物、生物、モンスターのどれもがクセモノ揃いである。
「人間よりはるかに高度な知性を持つか、強大な力を持つ異種族がヒエラルキー最上位に君臨しており、人間は軽んじられている」世界が圧倒的に多い。
人間が想像している以上、ファンタジーの世界はとかく人間優位になりがちなのだが、その概念を取り去りリアルに生々しく、若干のグロ嗜好をも混えて組み上げられた異世界を歩くことになるのだ。
ある世界では、人間はただの弱く脆い食料にすぎない。
ある世界では、洗脳を受け下僕としてこき使われている。
あえて下品かつ醜悪に描いている部分もあるだろうが、神(世界を考えた作者)の特別視がなくなるだけで、これほどになるのかと驚かされた。
というか、これは、「人間優位でない異世界生物による支配社会を一般ゲームとして作って良かったんだ、よくシレっと販売できたな」という感心かもしれない。
人間への扱いを抜きにしても、倫理観の飛んだ設定とシナリオが大量にお出しされるのだ。
中盤までいたって平和に見えるルフラン市も数多の秘密を抱えており、一筋縄ではいかない。

(語弊があるかもしれないが)洋ゲーのような雰囲気と、ミステリ寄り和ゲーのジワジワと染みてくるような独特のえげつなさが複雑に絡み合っていて『ルフラン』は独特の空気を生み出している。
「明らかに嫌な目に遭うのでこれ以上見たくないのだが見てしまう、見届けてしまう」そんな謎の魅力がある。
万人受けを狙わず「その筋のファンに刺されば良い」というストロングスタイルが功を奏したのか、このゲームは想定以上の売り上げを記録したようだ。
移植版が発売されたのも、続編が決まった(発売日未定になってしまったが)のもこの全体的な潔さにあるのだろう。

※以降軽いシナリオネタバレ

『ルフラン』で唯一残念に思った点は、レキテイの地下迷宮探索の道程が魔女たちに全く影響をもたらさないことだ。
前作枠の(キャラクターや舞台に関連はないが世界観は同一)『魔女と百騎兵』では、主人公は百騎兵として沼の魔女メタリカのため沼を開拓する陣取り合戦めいた道程を辿る。
沼から離れられない性質を持つメタリカは基本的に百騎兵に同行しないが、無線のような魔法を使って常に百騎兵の状況を確認、適宜助言を行う。
百騎兵がメタリカの実質的な手足であるためもあるが、百騎兵が沼を広げる手段を発見すれば「でかしたぞ!」とすぐに褒め、強大な敵を退ければある程度疲労をねぎらってくれる。
現場に降りて状況をみてくれる上司といった風情をもっており、魔女が口と性格が悪くやりたい放題やっていてもなんだかんだ味方なので許せてしまう。
シナリオキャラがおおよそメタリカの比ではないレベルに性格の悪い連中揃いなのも、メタリカへの評価が上がる要因だろう。
プレイヤーは百騎兵を通じて沼の魔女メタリカに尽くすことが嬉しくなってくる。
しかし『ルフラン』のレキテイは状況が違う。主人公は妖路歴程に取り付いた魂であり、基本的に自力では身動きができない。
呼び出した人形兵に抱えられて地下を探索し、アイテムを拾って収納して持って帰る以上のことができない。
また、魔女たちは(特にドロニアは)レキテイの自我云々にはあまり興味がないのか、メタリカのように密な連絡を取ろうとしない。
レキテイが進むごとに自動的に記される地下迷宮の進捗を「妖路歴程を本として読む」ことで把握し、探索の続行を命じるのみである。
道程でどのような出会いがあり、どのような経験をしてきたか地上では一切触れられないのだ。
メインストーリーにもレキテイは関わらない。
ただただ魔女のために働き続けるし、それに対して魔女がなにか特別な情を向けることはない。
魔法で探索の助力はするし、礼も言うが、あくまでもビジネスパートナーめいた響きでしかない。
端的に言ってしまえば、百騎兵と沼の魔女メタリカは現場監督と部下、レキテーと魔女ドロニアは鵜飼いと鵜のような関係性に見える。
レキテイが百騎兵のことを知ったら「大切に思われてて、いいなぁ…」と多少なりとも考えそうだ。少なくとも私ならそうする。
今後、続編が無事に出るとしたら、主人公レキテイにもっとスポットライトを当ててもらえるとプレイヤーはちょっと嬉しい。

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