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鴨南蛮

苦手だったのに好きになってしまうモノ…。

歳をとるとかつて苦手だったものが食べられるようになることがある。
あぁ、今まで何で苦手にしていたんだろう…、と後悔することもあるけれど、まだまだこれから新たな味覚に出会うチャンスがあるかもしれないと思うと、歳をとることにワクワクできる。
例えば「鴨」がそういう食材。
ずっと鴨は得意じゃなかった。
しかもフランス料理の鴨のローストとフォアグラは好きだったのに、鴨鍋だとか鴨焼きだとか日本料理としての鴨はなぜだか苦手。
気の利いたそば屋なんかで、鴨を炙って食べてる人が隣の席にいたりすると、匂いに息が詰まってしまう。
だから鴨南蛮なんて食べようなんて思わぬ食べ物。
だったのだけど…。
還暦手前になって、新たな魅力に開眼したのが鴨南蛮そば。最近ではその鴨南蛮が目当てでそば屋を選んだりする。

蕎麦の小松庵

新宿の高島屋にある「小松庵」。
上層フロアの食堂街の一角で、窓の外には西新宿の超高層ビル。間近に迫るビルの合間に都庁のビルが頭を覗かす…、と東京ならではの迫力のある景色がご馳走。
お店の風情は楚々として、サービススタッフの優雅な仕草にホッとする。
お店としても好きなのだけど、ここには好きな商品がある。
生粉打ち三昧という名前にて「麺」「薬味」そして「鴨」という好きなポイントはこの3点。

麺は生粉打ち

まずは麺。
生粉打ちと書いて、キコウチと読むそば粉100%のそばがおいしい。
つなぎを使わず作るから細く仕上げるのはむつかしく、太くてゴリゴリボソボソした食感を売り物にする店もある。
けれどここは極力細く、喉越しなめらかに仕上げて作る。力強い風味は生粉打ちそのもので、繊細と野趣が同居しているオキニイリ。
ただ、どの状態で食べようか…、となかなか決まらぬなやましいのが生粉打ちという蕎麦の特徴。
冷たくするとガツンと奥歯を叩くような噛みごたえからねっとり粘る食感の移ろう感じがたのしめる。
熱い汁そばにするとむせかえるような蕎麦そのものの香りが立って、ねっちり歯茎に絡みつくような肉感的を味わえる。
さぁ、どっちにするかとそんな悩みに惑わされなくてすむオキニイリがここの「生粉打ち三昧」で、冷たいせいろと熱い汁そばをそれぞれたのしむことができるというありがたさ。

多彩な薬味、そしてタレ

しかもせいろのお供の薬味が三種。
ネギとわさびと角切りきゅうり。
きゅうりが付いてくるというのがちょっと独特。
実はボクは冷たい麺にネギはほとんど使わない。蕎麦であってもうどんであっても、素麺にしてもネギの香りが強すぎてネギを食べてる気持ちがしてくる。
代わりにきゅうりをよく使う。大抵は千切りで、その食感やみずみずしさ、そして緑の香りが麺をおいしくさせる。
だからここのこの薬味。
オキニイリです。

タレは2種類。
すっきりとした醤油のタレとクルミを潰して混ぜたクルミだれ。
このクルミのタレときゅうりの相性抜群。
どっしりとしたクルミの風味や旨みや食感が、きゅうりの歯ざわり、みずみずしさでスッキリおいしく味わえる。

せいろのお供に天ぷらがつく。エビに穴子に白身の魚。かぼちゃに茄子にシシトウと種類も豊富で色白衣でサクッと揚がる状態もよい。
その天ぷら用にと塩が付いてくる。
塩で食べてもおいしいですよ…、と自信満々ということでしょう。
ただ漬けだれに油の風味がほしくてエビの天ぷら突っ込みタレを油で汚して食べる。せっかくサクサクに揚がった天ぷら衣がびしょびしょに濡れる勿体無さがオゴチソウ(笑)。

なんでこんなに鴨がおいしく感じるんだろう…。

そして3つ目。
「鴨」であります。
ここの汁そばが鴨南蛮というのもオキニイリの理由のひとつ。
厚みをもってそぎ切りされた鴨肉もネギも炭で焼かれて風味整う。軽い血の匂いとでもいいますか…、新鮮なレバーを食べたときに感じる生き物臭さがかつては苦手で今はオキニイリ。
噛むとスパッと歯切れてずっと繊維がちぎれ続ける食感心地よく、ザクッと砕けたネギからトロリと甘い芯が飛び出しとろける。
ボクも大人になったなぁ…、とニッコリします。堪能す。

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