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鮨いしかわで冬の海を堪能する

おいしい寿司を食べたくて新宿西口にある「いしかわ」にくる。

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上等な寿司の店です。
職人ひとりが命がけでやってる小さな高級寿司店がもてはやされる。
握り手と一対一の真剣勝負をするような、カウンター一本の濃密な空間で食べる寿司はたしかにおいしいに違いなく、でも今の気分はもっと気軽におだやかに、緊張しないでおいしい寿司をたのしみたい。
この店の特徴的な空間が、そんな気持ちにしっくりとくる。
正方形のLの字2辺がカウンター。そこに面して握り場があり、その内側に小さな厨房。炭がおこった焼き場もあって、暖簾で仕切られた本厨房も含めて10人近い人が働くにぎやかさ。

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かぶりつきの客席で舞台を眺めるような気持ちになるのがうれしい。
よろしければと、塩ゆでにしたそら豆がきてせっかくだからビールにしようと瓶を一本抜いて友人と注ぎ合う。のんびりとした土曜の昼のはじまり、はじまり。

まず貝をひと通り…、といつものお願い。
きっぱりと塩の効いた熱々のそら豆をつまんで待ちます。

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まず赤貝。
職人さんに手元がしっかり見通せる臨場感がまずおゴチソウ。
分厚い殻の大きな貝をパキッとこじ開け身をとりだして、みるみるうちにそれが寿司へと姿を変える。
ミネラル分をたっぷり含んだどっしりとした赤貝は、ムチュッと端切れる。
シャリは少なめ。貝を食べてるって実感がわく。
剥いたばかりのミル貝のザクザク、繊維がちぎれる感じがとても新鮮。癖のない強い旨味にウットリします。
それから青柳。独特なアンモニア臭と、口の中をすべりまわるようななめらかさ。小さい頃、この時期になると青柳の干物をストーブで焼いて食べたものです。細い鉄線に刺されてそれを一個ずつはずしてストーブに置くとよじれるように焼けていくのがたのしかったのを思い出す。

ホタテはとろける。
とろけてシャリと一緒になって口の中からきえていく。シャリの酸味が貝の旨味を甘くする。
ふっかりとした北寄の繊細な食感、味わい。軽い渋みとやさしい酸味が強い旨味をひきしめる。ゴリゴリバリバリ奥歯で砕けるアワビ。噛めば噛むほど粘ってとろけ、旨味がどんどん強くなるがうれしくて、ゴリゴリバリバリかみ続ける。
小柱の軍艦巻きに赤貝の紐。カラカラコロコロ口の中を逃げ回る小さな柱にクニュクニュ奥歯を逃げるようにする紐の味わい。貝って食感、味、風味とも多彩でウットリ。煮たはまぐりにはあまいつめ。軽い苦味と香ばしさが口に広がる、たまらない。

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今日はカンパチがおいしいという。ブリを本当は食べたかったんだけど、脂の状態がもう盛りを過ぎてしまったから先日から扱ってないんですよ…、となるほど魚は季節の素材。
薄切りにしてシャリにそわせて仕上げた寿司。透けて下のシャリがのぞいてみえるほど。ところが薄さに反してどっしりとした味わいで、ねっとりシャリを包んでひとつに混じり合うのだけれど、シャリまでまるで魚のように振る舞うおいしさ。

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マグロの赤身と漬けを続けて。ひんやりとした舌触り。生のマグロは酸味がゆたか。醤油につけて水分が逃げた漬けはピトッと舌に張り付いて、ねっとりむっちり。ちょっとした一手間で素材はこれほど性格変える。おどろきます。

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鯛をとお願いすると、一匹をひいておいしいところを取り出す。ゴリゴリとした歯ごたえに噛むと脂がじわっとにじむ。最初はそっけない味で、ところが噛めば噛むほど旨味が広がる。口の温度で眠った鯛が目覚める感じにウットリします。

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思いつくまま食べたいものをあれやこれやと。
まずはタコ。
つい最近まで、寿司屋でタコを食べるとなんだか損した感じがしたものでした。ところが最近、俄然おいしい。ワザワザこうしてたのんで食べてしまうほど。
タコならではの風味と煮込んだ汁を吸い込み旨味十分。
そう言えば、ボクのおじぃちゃんはタコをつまみに酒を飲むのが大好きで、二切れもあれば酒一合が飲めるんだ…、ってずっとくちゃくちゃ噛んでは飲むを繰り返してた。
それからイカ。
イカとタコって似た生き物。なのに食べるとまるで違ってイカはとろける。粘って甘くなっていく。シャリとまじる感じも最高。
酢〆のサバは脂がなんとおいしいんだろうと冬の海の力を感じる。
今日はイワシがおいしいですよ…、と作ってもらうとこれまたとろける。脂がジュワッと口に広がり、口の温度でおいしい香りが立ち上がる。そしてコハダのおいしいことにまたウットリ。口直しにとお酢で洗って昆布でつけた漬物カリッとかじって口を整える。

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そろそろ〆に向かって驀進します。
まず穴子。塩とタレでとお願いします。炭をおこした焼き場で焼く。キッチンの真ん中にその焼き場があるから脂が焦げる匂いが席までただよってくる。見事な焼かれっぷりにもうウットリ。脂がのっていたのでしょう…、自分の脂であがったように仕上がっていて表面サクサク。噛むとそれがとろっとたちまちとろけてく。

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そしてウニ。軍艦巻きにしてパクリ。海苔がパリッと歯切れてフワッと磯の香りがかおる。海苔だと瞬間思うのだけど食感をたちまちなくして風味だけが残ってウニをおいしくさせる。甘くて香りが強いウニ。贅沢な昼の幕引き前のおゴチソウ。

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トロの鉄火とかっぱをもらって、お腹に蓋した。満ち足りる。


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