あの1部上場マンションデべが経営不振に陥って中国企業に買われた

もう15年ほども昔のことになろうか。私はある中堅マンションデベロッパーの「みなさまへの感謝の会」的なパーティに紛れ込んでいた。一流ホテルに会場を借り、立食形式で行うスタイルのパーティである。業界ではよくあるスタイルだ。派手なところはタレントを呼んだりもする。

そのパーティも、招待客の9割は40歳代以上の男性ビジネスマン。といえば聞こえがいいが、見るからにやぼったいオッサンたちばかりである。なぜなら、彼らの職業はこましな方で都市銀行の行員や支店長クラス、大手ゼネコンの社員。その他大勢は不動産ブローカーや設計士、税理士、中小工務店の経営者、地方議員や国会議員の私設秘書・・といった連中だからだ。
彼らの中で肩書の見栄えがいい順に壇上であいさつをする。中身は決まったようにパーティを主催している中堅デべとその経営者親子への賛辞。

マンションデベロッパーというのは、時々この手のパーティを開催する。「うちの社業は順調なので、いつでも土地を買いますよ」というメッセージを伝えるためだ。
主催側としてはできるだけ大勢の人間が集まった方が見栄えがいいので、私のような広告屋(当時)も人数合わせで紛れ込ませてくれるのだ。
ああいったパーティを観察していると、業界人たちの生態や位置関係が見えてきたりするので、非常に興味深い。

その時のパーティでもっとも興味深かったのは、ある人物のもてはやされぶりである。
30歳代半ば程度に見えるその容貌は、パーティ参加者としては若い方である。不動産屋らしい値段が高そうで派手なスーツを着ていらした。髪の毛はやや長め。明らかに週1以上のペースでゴルフをしていると思えるほどに日焼けした顔と、その奥で光る鋭い眼光が印象的だった。
彼の周りには、会話や挨拶を求めて次々と人が現れる。50も過ぎているであろう銀行員や建築会社のオッサンたちが、作り笑いを浮かべながら若い彼のご機嫌を伺っているのだ。

「あれがG社のN社長だよ」
私と一緒にパーティに紛れ込んでいた、広告業界の先輩が教えてくれた。
「G社」という名前はその頃からよく聞くようになった社名だ。しかし「N社長」という名前は、弱小広告会社を経営していた私の耳にまでは入ってきていなかった。
「ほら、四天王のAさんの一番弟子さ」
そういわれて、ハッとした。「あのAさんの・・・」

昭和の後期から平成の半ばまで、日本のマンション供給戸数でナンバーワンをキープし続けた会社がある。新築マンションを売ることにかけては最強を誇った企業だ。
そんな中でも「四天王」と呼ばれる「営業の鬼」がいたという。すでに伝説と化している。
その頃の話で、こんなエピソードを聞いたことがある。
当時から、道路に販売用の看板を設置することは法律で禁止されていた。電柱などに看板を括り付けているところを警官に見つかると、逮捕されることもあった。四天王のひとりは、逮捕されて収容された留置場で、担当の警察官を口説いてマンションを売ってしまったという。真偽のほどは定かでないが、あの頃はそういう鬼のように売る営業マンがいたのだ。

「N社長」はそういう時代に四天王と崇められたA氏が、子会社の社長となってブイブイ言わせていたころに育てた一番弟子だという。これも真偽のほどは定かでない。しかし、仮にそうだとするとやはり「営業の鬼」なのだろう。
現にそのパーティが開かれた頃のG社、主に新築マンションの販売代理を行っていた。それこそ「売る」ということにかけては、当時でも業界随一の実力企業と見做されていたという記憶がある。

それから十余年。
G社は成長を続けて、瞬く間に一部上場企業へとのし上がっていた。
私は12年前から新築マンションの資産価値を分析するレポートを作成するため、東京23区で販売されるマンションの建設現場をくまなく見て回っている。
ここ10年ほど、G社やその関連会社が開発分譲しているマンションをいくつも分析した。特に城東エリアでの開発事業には強みがあったようだ。
しかし順風満帆に業績を伸ばせる事業環境が、十年一日の如くには続かないのがこの業界だ。

アベノミクス以降の局地バブル発生によりマンション事業用地の入手が著しく困難をきたしているという環境変化は、業界関係者なら誰でも承知している。
そこでG社グループは、急増するインバウンドを見据えてホテル開発へ事業を拡大させようとなさったようだ。しかし、突然ふってわいた新型コロナ騒動・・・

そのG社が事業展開に行き詰まり、IRに「継続企業の疑義」を注記されたのは2020年の5月だった。
そのことを知った私は、そのIR書面を読み込んだ。決算書面を読み込むことについて私は素人だが、それでもかなり傷は深いように思えた。
「これではホワイトナイト(白馬の騎士=救世主)は現れないだろう」
そう考えざるを得なかった。
マンションデベロッパーが苦境に陥った場合、M&Aを目論む者が見る主な資産は事業用地と人材である。しかし、保有している事業用地にはほぼ抵当権が付いている。抵当権を普通に剥がしてから事業化したのでは赤字になる場合がほとんどだ。
あとは人材だが、これはミズモノ。新築マンションの営業マンというのは、売る人間ならどの看板の下ででも売る。同業他社から好条件で誘われれば、すぐに転職してしまう。売る人間が逃げ出しそうな会社を高く買うわけにはいかない。
つまり、マンションデべは経営が苦境に陥っても救済されるケースは少ないのである。

リーマンショック後の2009年、マンションデべが次々に倒産した。1部上場だけでもゼファー、日本綜合地所、アゼル、ニチモ・・。
であるので、ここでG社も逝ってしまうのか、と予想した。
しかし、どうやらG社には意外なホワイトナイトが現れたのだ。

以下は有料でお読みください。中身は別段非公開情報ではありません。ですので購読料は500円に設定します。また、同様の内容をいずれ一般メディアで公開する予定です。

ここから先は

2,282字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?