【第三十五話】よっ、待ってました!いよいよ本番当日。楽屋入り〜化粧編|しがない勤め人、国立文楽劇場で藤娘を舞う

さて本番当日。

前日ビックカメラで手に入れた、
めぐりズムほっとアイマスクのおかげでよく眠れ、
さわやかに目覚めた・・・

と言いたいところであるが、
寝られたのかどうかよくわからない。

眠気、空腹感、のどの乾き、など
基本的な体調のフィードバックが全くきかない。

ぼんやりとした目と頭でしたくをする。

楽屋用ゆかた(おしろいがついてもかまわないもの、つまり外に出るには憚られるコンディションのもの)に着替え、帯は省略。

あら隠しの長コートを羽織って定宿を出る。

ゴロゴロゴロ・・・<キャリーケースを引く音

楽屋入口で姉弟子さん二人に出会い、
ちょっとほっとする。

楽屋入りは朝9時。

あら、先生や名取の姉弟子さん達とはお部屋が違う。
さみしいなぁ。

ポツンとひとり、荷解きをしていると

「藤娘さんおられますー?すぐお顔洗って来てくださーい」

と化粧さんにお声かけいただく。

うっ、早い・・・

白塗り・かづら・お引きずり枠のトップバッターだからそんなもんか。

なるほど、楽屋用のゆかたで来ていいよ、
とおっしょはんが言われたわけだ。

楽屋には洗面台がある。
浴用の四角い白い石けんで、顔のアブラがゼロになるまで洗う。

顔を拭いたら即、化粧師さんが待つお部屋へ。

(化粧水などはつけません。ひー、パリッパリだよぅ・・・)


化粧は3人がかりである。

ひとりめの化粧さんに土台をつくっていただく。

ゆかたの衿もとをがばっと胸の上まで、
背中も半分まではだく。

固いなにかを手で伸ばしつつ顔に塗られ、

「怖い顔してたらそのまま固定されちゃうよ~」

とおどされ。

(緊張しすぎて眉間にしわがよっていたらしい)

ほかにもなにかいろいろ塗られ、

ひんやりした液状のなにかを顔〜首〜背中と刷毛で塗られ、

粉をはたはたとはたかれ押さえられ。

(ここで塩の壺が出てきたら注文の多い料理店みたいだ)


ふたり目の化粧さんの前に座る。

頭になにやら布を巻かれ、テープであちこちつられる。

(あご下すっきり体操、いらなかったのでは・・・?)


眉、目、唇とパーツを描いていただく。

つけまつげは、カールのついていないまっすぐなものを使う。

私は初回の舞台の際に購入したものを延々と使っており、三度目の今回もそれを持参した。

が、そろそろ寿命かも。
(それっぽいことを化粧さんに言われたような気がする←耳に入ってこない)

日本一の顔師さん、とおっしょはんはおっしゃっていた。

なんと貴重で光栄な機会!

せっかくなのでプロの技を盗みたいところだが、そんな心の余裕はまったくない。

されるがままの、でくのぼう。

「はい、目ぇ閉じて~」
「はい、うすーく開けて〜」

仕上げに目尻と唇に紅をさされる。

「はい、ええよ」

「ありがとうございます」


3人目の化粧さんに腕を差し出す。

ひじから手首まで、
はけで白い液体を塗られ、粉をはたかれる。

「手先はお衣装着てから塗りますからね~
まくった衿と袖はしばらくそのままにしといてくださいね~」

「はい、ありがとうございました」

いったん楽屋にもどります。

(続く)

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