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料理人としてクリエイティビティを磨く、はじめの一歩

酒井です。先日、創和堂も参加している出前館の新デリバリーサービス『DePREMIUM』のオープンを記念し、稲本健一さん、『sio』の鳥羽さん、『la Brianza』の奥野さんと対談させていただく機会がありました。

この対談において、稲本さんが「いままさに成功しているシェフは料理人であり、クリエイティブディレクターである」という旨をおっしゃっていますが、この考えに私も完全に同意です。

飲食店で働く料理人やサービスマンは、料理や接客の腕を磨くことに加えて、美的センスや教養などを身につけ、独自のセンスを磨くことで、結果としてクリエイティブディレクターの役割を担っていくと感じます。

これからの時代、「みんなが儲かる」「みんながいい時代」ということはなくなると思います。

流行を追った「そこそこいい」店よりも、食とお客様に真摯に向き合い、自分たちが「本当にいい」と思える価値を創造・追求していくところが生き残っていくと思います。むしろ、自分たちのクリエイティブを研鑽し、価値を明確に示すことで、チャンスはより広がっていくとさえ感じています。

魅力的と思えるお店のコンセプト設計、店鋪における空間づくりのディレクション、器やカトラリーといったアイテムの選定。果ては、会社のビジョンや次のビジネスステージを思い描くクリエイティブ思考。こうした領域まで、私たちの仕事は広がってきています。

そのためには、自分たちのクリエイティビティを日々磨いていかなければなりません。

ただ、そう言われても、何からはじめたらと戸惑う人もいると思います。振り返ると、私がこうした素養の重要性を意識したのは、稲本さんが代表をつとめていたゼットンで働いていた時でした。そこで、今回、私がゼットン時代に経験したことから、「こうしたことからはじめてみては?」と思うことを幾つか紹介していきます。

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いかに論理的に考え、分かりやすく伝えるか

まず、「クリエイティブ」という言葉を使うと、感覚的なものをイメージする人が多いかもしれませんが、基礎となるのは「ロジカルな思考」だと私は思います。

ゼットン時代の私はハワイアンレストラン『アロハテーブル』で料理長をつとめていましたが、新作メニューなどを社内プレゼンテーションするシーンが多々ありました。試食会を行い、直属の上司、次に総料理長、最後は経営層へと提案していきます。

こうしたプレゼンテーションの際に必ず問われるのは、「なぜこのメニューに変える必要があるのか?」「加える必要があるのか?」です。

この提案によって、店舗の売上や集客や原価率やイメージなどを、どう変えたいのか。また、それが実現できると思う根拠は何か。味がおいしいことは大前提で、提案の理由を論理的に説明することが求められます。

その際に、店舗の現状についての自分の理解が低いと、あいまいなことしか言えません。店舗における売上や原価率といった全体的な数値のことはもちろん、メニューごとの販売数や販売金額、売上構成比なども把握しておく必要があります。

ゼットンで働きはじめた頃の私は、そういったことが全くできておらず、自分の考えの甘さを痛感しました。料理の腕も低かったので、新作メニューを考えるのにも時間がかかっていましたが、メニューの企画と同じくらい、データ分析や資料作成に時間をかけていました。

ゼットンで働く前は、ビジネス本を全く読んでいませんでしたが、当時は料理の本と同じくらい、ビジネス本を読んで勉強しました。飲食店経営に関するノウハウが学べるものから、自己啓発本まで、仕事に役立ちそうだと感じたものは片っ端から読んでいました。そうして、プレゼンテーションの質を少しずつ高めていきました。

どのビジネスにおいても言えることですが、多くの人の協力や支援があって、仕事は成り立っていきます。そして、多くの人に自分のビジネスへ関わってもらうためには、プレゼンテーションが不可欠であり、プレゼンの鍵は論理的であることです。

いかに論理的に考え、聞き手に分かりやすく伝えるか。

これは普段の業務のなかでも、意識しているかどうかわかります。例えば、「焼酎の仕入れが今月は多かったため、原価率があがりました」という報告は、報告になっていません。仕入れが多くなれば、原価があがるのは当たり前で、大切なのは仕入れが多くなってしまった理由です。「この仕入れは熟成のためで、来月の売上で飲み込む予定です」といったことならば問題なしと判断できるし、そうでないなら何か打ち手を考えないといけない。こうした会話のひとつひとつに、どれだけ論理的に考えられているかが表れます。

こうしたことは一朝一夕では身につかず、意識し習慣化することで少しずつ身につくものです。酒井商会のみんなには、ロジカルに考え、相手にわかりやすく伝える癖を身につけていってほしいと思います。


未来を語るために欠かせない、知識の収集

また、クリエイティブにおいて、「知識の収集」は何よりも欠かせません。

店舗のコンセプトづくりにおいても、新作メニューやサービスの開発においても、「他にはない」「ありきたりでない」ものを求められていることがほとんどです。その際に、何が世間一般にとっての「普通」なのかという基準点を知る必要があります。

では、どうやって基準点を探りにいくか。それは、既に世の中にあるものを調べていき、その共通項が何かを考えることが大切だと思います。

そのため、私は気になることがあれば、とにかく調べます。本を大量に読んだり、様々なお店に足を運んだり、色々な人に話を聞きにいきます。私自身、基礎をしっかりと学び、そこにアレンジを加えていくことが好きな気質であることも影響しているかもしれません。

そうやって大量の知識のインプットをすると、世の中で何がスタンダードであり、何が最新なのかを、明確な知識をもって語れるようになります。そして、「この先は、こういったものが受け入れられるのではないか?」と先の未来についても、説得力をもって話せるようになっていきます。

食に携わる料理人やサービスマンは一生学び続けるものと言われてきましたが、これからの時代は「学び」がより大切になってくると思います。

収集した知識やデータを、どう分析し、どうアクションに繋げ、どう改善していくか。

先ほど伝えた「ロジカルな思考」とも繋がってきますが、論理的に考える土台として知識量は重要となってきます。何が世間で言われるスタンダードなのかを自分の言葉で語れるようになるくらいまで、知識を収集することを意識してほしいと思います。


ビジネスマナーやビジネススキルの大切さ

最後に、これからの時代の料理人やサービスマンは、様々な人たちと繋がりをもち、価値を共創していくことが大切になってきます。飲食店経営に加え、デリバリーやECなど様々な事業展開の必要もあるでしょう。

その際に重要となるのが、「ビジネスマナー」「ビジネススキル」です。

先ほども書いたように、ビジネスは多くの人の協力や支援があって成り立ちます。そうした際に、メールの送り方がわからないなど、一般的なビジネススキルとマナーがないと、相手に要らぬ面倒をかけてしまったり、不安な気持ちを与えてしまうかもしれません。

ただ、飲食店で働いていると、パソコンに触る機会などほとんどなく、メールの送り方もマナーも何ひとつわからないなんて、普通に起こり得ることだと思います。私自身、ゼットンで働くまでは仕事でパソコンを触ったことはありませんでした。

ゼットンで働きはじめてから、Excelで数字を報告したり、パワポでプレゼン資料を作成するようになりましたが、最初の頃はうまくできず、上司に色々と教えていただきました。簡潔にわかりやすくメールの文面を書くことの大切さや、開いた時に見やすいように整えてファイルを保存するなど、相手への細かい気遣いについても教わりました。

こういった経験が、振り返ってみると大きな財産になっていると感じます。酒井商会の仕事をするうえでもそうですし、コンサルティングやプロデュースなどの仕事をさせていただくうえでもそうです。

どうやって一般的なビジネススキルやマナーを身につけていくか。

「お店の経営に関わりたい」「新しい事業をつくっていきたい」「将来、自分の店を持ちたい」と考えるメンバーは、この視点をもつことも忘れないでほしいと思います。


常にクリエイティブしている集団でありたい

今回、クリエイティビティを磨いていくために、「まずは、こうしたことからはじめてみては」と思う基礎的なことを書いてみました。

ただ、私たちがクリエイティビティを磨くために一番研鑽すべきは、毎日の営業で価値を発揮していくことです。料理人であれば、料理の腕を磨くこと。サービスマンであれば、サービスの腕を磨くこと。この土台がないのに、他のことにばかり目をかまけていてはいけません。

私は、料理やサービスは立派なクリエイティブだと思っています。

一つひとつの料理の盛り付けや使用する器。日本酒を出すのに、徳利が良いか、ぐい呑が良いか。どんなテーブルコーディネートが良いか。あげればキリがないですが、結果として「相手を思いやるセンス」がクリエイティブだと思います。

徹底的に、料理と目の前のお客様に向き合う。自分の役割を全力でやり切る。そのなかで、自分なりのセンスと美的感覚を持って、日々を過ごしてもらえたらと思っています。

「酒井商会は、常にクリエイティブしている集団でありたい」

これが私の想いです。お互い学びあい、刺激しあい、ともに価値創造していきましょう。


<編集協力:井手桂司>