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SHIZENを通じて、料理人としての表現を追求し続ける【酒井商会で働く #03】

渋谷にて『酒井商会』『SHIZEN』、恵比寿にて『創和堂』を営む株式会社酒井商会では、様々な個性をもつメンバーが働いています。連載「酒井商会で働く」では、それぞれのスタッフがどんな想いをもって酒井商会で働いているかを語っていきます。今回は『SHIZEN』の料理長をつとめる國居 優(くにすえ ゆう)です。

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いつもお店にお越しいただいている方も、​はじめましての方も、ご覧いただきありがとうございます。國居 優と申します。

伝統的な日本料理の習わしや技術を大切にしながら、薪火と発酵を用いて、自分なりの食の表現を追求したい。こうした想いを抱いていた私が、株式会社酒井商会で働きはじめたのは2022年1月。現在は、2023年1月にオープンしたSHIZENにて料理長をつとめています。

酒井商会で働く以前

酒井商会で働く以前は、日本料理の『懐石小室』で4年間修業した後に、フランスの在ストラスブール日本領事館に公邸料理人として赴任。帰国後は、調布にある薪火料理の人気店『Maruta』で働かせていただきました。

私が料理の道を志すことを決めたきっかけは、幼い頃からレストランという空間に魅力を感じていたことにあります。

世の中には様々な職業がありますが、お客様から「おいしかったです」「ありがとうございました」と直接感謝の言葉をいただける仕事はそう多くありません。料理を通じてお客様を幸せにでき、その姿を見て働く側も幸せな気持ちになれる。こんなポジティブな環境で毎日仕事ができたら素晴らしいだろうと、子ども心に感じていました。

日本食の世界を選んだのは、調理学校で様々な国の料理を学ぶ中で、日本の料理の歴史や食文化を十分に理解していないことに気づいたからです。もともと和食が好きだったこともあり、まずは日本料理について深く学びたいと思いました。

最初の職場に懐石料理のお店を選んだのも、日本文化について詳しく知りたいという思いからです。懐石料理の特徴は、お茶事のお料理を出張して提供するなど、様々な日本の伝統文化と接点があることです。懐石料理自体が日本の美意識と伝統を凝縮した料理形式であり、料理を通じて多様な日本の文化に触れることができる点に強く惹かれました。

『懐石小室』で働いた4年間は多くの経験を積むことができました。その後、23歳という若さでフランスの在ストラスブール日本領事館の公邸料理人を任せていただくことになりましたが、ひとえに懐石小室での経験とその看板のおかげだと感じています。

私が公邸料理人として赴任することに惹かれた理由は、大きく二つありました。一つは赴任先がフランスであることです。フランスの食文化に以前から興味を持っており、現地でそれを学ぶことで自分の視野を広げたいと思いました。

もう一つは、料理人として幅広い経験を積むためです。公邸料理人の主な仕事は、領事館にお招きするゲストをおもてなしする席での料理をつくることです。数名の会食から百人規模のレセプションまで様々な規模の料理を担当します。そのなかで、公邸料理人は献立作成から食材調達、調理まで全てを担当します。

懐石小室では、親方が季節に合わせた献立を作成し、新鮮な食材を毎日仕入れてくれていましたが、これを全て自分で行わなければなりません。いつかは自分も料理人として全てをできるようになりたいと考えていたので、この挑戦は非常に魅力的でした。

当然、日本領事館に訪れるゲストの方々は、日本のおもてなしとして、日本食を期待されています。そこでお出しする料理が日本食のイメージを左右するため、公邸料理人として日本食を背負っている感覚で料理と向き合っていました。

(▲)フランスで働いていた時の一枚


薪火と発酵との出会い

SHIZENでは薪火を使用していますが、薪火との出会いはフランスで働いていた時のことです。

和食では炭火を用いて食材を焼くことが一般的です。一方、フレンチやイタリアンでは、食材に応じて薪火と炭火の特性を使い分けてきた歴史があります。特に私が赴任していたストラスブールのあるアルザス地方は寒い地域であり、多くのレストランが料理の熱源として薪火を使用していました。

日本食の世界にいた私にとって、薪火は非常に新鮮なものでした。薪火には温かみがあり、独特の香りがあり、炭火とは異なる魅力があります。薪火の魅力に触れ、薪火を日本料理に取り入れることで新たな可能性が広がるのではないかという考えが芽生えました。

フランスから帰国後、薪火料理のMarutaで働かせていただき、薪火の扱い方や薪火料理の可能性について学びました。そして、薪火について知れば知るほど、日本料理に取り入れたいという気持ちが強くなりました。

さらに、Marutaでは発酵の魅力についても学びました。Marutaでは「この食材を発酵させたらどんな味になるのだろう」と様々な実験を行い、そうして生まれた発酵食品が独特の味わいを生み出しています。私自身も自宅で魚醤などを作り始めるなど、発酵の面白さにますます魅了されていきました。

こうした経緯から、「薪火と発酵を融合させた日本料理」という、自分なりの食の表現を追求したい気持ちが膨らんでいきました。そして、そのビジョンを実現させるために、自分の店を持つことを具体的に考えるようになりました。

実は、学生時代の頃から、いつかは自分の店を持ちたいという想いを抱いていました。そのいつかに備えて、『懐石小室』で働き始めた頃から、素敵な器に出会うたびに、いつかに備えて器を買い集めていました。それらの器は実家に置かせてもらっていましたが、買って帰るたびに両親から「お前は器屋にでもなるつもりか」と言われたものです。

とはいえ、自分の店を開業するとなると、料理以外にも様々なことを考えなければなりませんし、資金も当然必要です。店を開くにしても、早くても30歳くらいだろうと漠然と考えていました。そんな私が20代のうちに自分の店を出すことになったのは、酒井商会との出会いがきっかけでした。

(▲)Marutaで働いていた時の一枚


酒井商会で自分の理想を追求する

もともと私は、お客さんとして創和堂や酒井商会に通っていました。

最初は、調理学校時代の後輩が創和堂で働いていたこともあり、たまたま創和堂に足を運んだのですが、店内の洗練された空間に一瞬で魅了されました。また、同じ和食の料理でありながら、自分が取り組んできた懐石料理とは全く異なるスタイルに興味を引かれました。

そうして創和堂にも酒井商会にも何度も足を運ぶうちに、酒井とも親しくなっていきました。プライベートで食事に誘っていただく機会もあり、打ち解けた関係になる中で、自分の構想について話をさせてもらいました。

すると、酒井から「それなら、酒井商会でそのビジョンを実現してみないか?」と誘われました。「薪火と発酵を融合させた日本料理」というコンセプトに共感してくれて、株式会社酒井商会の新しい業態として、私が構想している店をオープンする。そして、その新店を私に任せてくれると言うのです。

それまで自分で開業する以外の選択肢を持っていなかった私は、酒井の提案に最初は驚きました。しかし、自分で店を開業するとなると、様々なことに頭を回さなければなりません。食の表現を追求することに今は専念したいと感じていたこともあり、他の部分を支えてくれるパートナーがそばにいる方が合理的かもしれないと考えるようになりました。

そのパートナーに酒井がなってくれるというのは心強い以外の何ものでもありません。酒井商会や創和堂という、自分が心から素晴らしいと感じる店を作り上げた酒井のもとで、自分の理想を追求するのは魅力的な挑戦だと感じました。

こうして、2022年1月に株式会社酒井商会に入社しました。最初は創和堂で酒井商会全体のハウスルールを学び、その後は酒井商会で接客の細かい作法などを酒井のもとで学びました。その裏で、酒井とともに、物件探しなどの新店の準備を進めていきました。

そして、入社から一年後の2023年1月、SHIZENがオープンしました。

今振り返ってみても、自分一人で開業していたら、これほどのクオリティの店には仕上がっていなかったと思います。酒井と何度も議論をするなかで、コンセプトが磨かれ、自分が思い描いていた空間をつくることができました。自分のやりたいことに寄り添ってくれた酒井には、本当に感謝しています。


SHIZENでしか作れない時間を提供する

私が感じる酒井商会の特徴は、細部への徹底的なこだわりです。会社全体として「魂は細部に宿る」という言葉を大切にしており、調理、接客、空間設計に至るまで、一つひとつに細かく気を配っていきます。

酒井からは「料理人はただ美味しいものをつくればいいのではなく、サービスマンとしての意識も持たないといけない」とよく言われます。

お客様は美味しい料理を期待するのはもちろんのこと、料理を中心とした特別な時間や居心地の良い空間を楽しみに来店されます。その期待に応えるためには、料理やお酒だけでなく、お店の空間づくりや料理人やスタッフの一つひとつの振る舞いが重要になります

私の肩書きはSHIZENの料理長ですが、料理するメンバーは私一人だけです。他にはホール担当のメンバーが一名とアルバイトスタッフが一名。現在は合計三名の小さなお店です。

SHIZENはほぼ全てがオープンな空間のため、料理人として手を動かす私に自然と注目が集まります。私の振る舞いがお店の空気感に大きな影響を与えるため、いかに自分らしさを表現しながら、スタッフやお客様を巻き込んで、SHIZENらしい空気感をつくれるかを常に意識するようにしています。

当面の私の目標は、SHIZENを酒井商会や創和堂と肩を並べられる存在にすることです。

現時点では、酒井商会の系列店として興味を持ってくださるお客様が多く、酒井商会の看板を借りている状態です。ありがたい話ではありますが、将来的には酒井商会の看板を借りなくても多くの方が興味を持ってくださる状態にまで成長させたいと考えています。そのために日々研鑽を積み重ねていかねばなりません。

酒井商会や創和堂が培ってきた酒井商会らしさを大切にしながら、SHIZENでしか作れない時間を提供し続けていきたいです。

<編集協力:井手桂司>

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