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通過点としてのポリリズム/アフリカ音楽の身体性

ここ数年、ジャズ、ヒップホップ、R&Bなどで「ポリリズム」を取り入れた音楽が増えてきた(フライング・ロータス、ハイエイタス・カイヨーテなど)。つんのめる/遅れる、一曲の中でテンポや拍子が変化するなど、リズムが複雑になったのである。

現在ではそのブームは落ち着いてきているようだが、私もかなり影響されて、「ポリリズム」にこだわって制作をしてきた。しかし、今ではここ数年の自分の音楽への取り組み方を反省している。あまりに分析的で表面的だった。


きっかけはYouTubeで視聴したアフリカ音楽の演奏動画である。「ポリリズム」はアフリカ音楽の特徴として挙げられる。私はアフリカの音楽の中でも、ギニアやマリの打楽器アンサンブルの動画を好み、これまで視聴してきた。
(参考動画:マリの打楽器アンサンブル https://youtu.be/jR0z_nMbwwI

「ポリリズム」とは、簡単に言えば複数の拍子が同時に演奏され、交錯している状態を指す。ギニアやマリの打楽器音楽は、基本となるリズムパターンに乗ってジャンベ奏者がソロを取る。ジャンベのソロは大抵、基本のリズムパターンとは食い違ったリズムで演奏され、ソロの叩きはじめ/終わりのタイミングもまちまちである。


私はいつも基本のリズムパターンの拍子をカウントしながらソロを聴いていた。ある日、それをやめてみた。

ジャンベのソロのフレーズを頑張ってカウントせず、聞こえてくるフレーズに素直にノってみた。すると、ジャンベのフレーズが「お喋り」として聞こえてきたのである。その時、演奏者たちの言いたいことや身体性を、自分の身体でダイレクトに感じた。そしてそれが快かった。


今まで、アフリカ音楽のリズムは彼らの言語の影響を受けている、という説を色々なところで見聞きしてきた。まさにそのことを体感したのだと思った。今まで分析的に聴いていた為に気づかなかったのだが、アフリカのミュージシャンたちは複雑なことをやろうとしているのではないのではないか。そうではなく、リズムに乗りつつ、ユーモアを交えながら自分のリズムで自分の言葉を話し合っているのだと思った。


この時から、自分のここ数年の音楽制作があまりに分析的で、リズムに対する取り組みも表面的なものに過ぎなかったと考えるようになった。計算して作っていたポリリズムも、今は頭でっかちで不自然なものだったと考えている。


「音楽を分析する」ということを考えてみると、「ポリリズム」という理論によって、例えば「黒人のノリ」のようなドグマを解体することはあるかもしれない。一方で、物事を必要以上に複雑にしてしまい、却って実体/実態から遠ざかるということもあるだろう。


私は今、ここ数年の自分の音楽への向かい方を反省し、その上でまた歩き出そうとしている。アフリカ音楽から学んだリズムにおける言語感覚、身体感覚。

私は自分の言語感覚や身体感覚を見直そうと思っている。そして、自分のブラックミュージックを実践していくつもりである。


追記

この文章を書いて後も、アフリカの音楽を聴きつづけ、最近はリズムの訛りやノリを拍子や連符といった用語で言い換えることができるようになった。

しかし、だからアフリカ音楽のリズムは○拍子と○拍子のポリリズムである、とか明記する気はない。そのようにも言えるだけであり、本当のことは分からない。

ただ自分の中で整理ができて、自分の音楽に活かせるのならそれでよいと思っている。



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