【ステーキ】肉の番人 赤身の旨さで勝負だ!
「つくばのショッピングモールで、タイフェスやってるから行こうよ」
友達からの誘いに、つくばまで車を飛ばしたある日のこと。
結論から言うと、タイフェスは思ったほどの規模じゃなかった。
毎年、大規模なタイフェスをやっている代々木公園のような広さはなく、ショッピングモールの一部エリアでの開催だから、まあこれは仕方がない。
いつもは東京で会っている友達と、つくばで合流するなんて珍しいことではあるので、その後もどこかへ適当にふらふらしてみたものだけど……。
「カラオケ、久しぶりに歌ったら、お腹が減ったね」
「どうしよう、つくばに詳しくないしなあ……」
わたしの車の中で二人して途方に暮れて、とりま、スマホで近辺を検索する。
和食か、洋食か。あるは中華か。
肉か魚か。
「肉だな」
「うん、肉だよね」
迷っても仕方がない。さっさとマップアプリで検索すると、出てきたのが、とてもインパクトのある店名だった。
◯
「肉の番人て……」
「なんていうか、ででーんと腕組みして待ち構えてる感じがする……」
どれだけ迷おうとも、つくばのことは1ミリも知らないのだし、その威圧感ある店名を頼りに、行ってみることにした。
失敗はしたくないけれど、期待どおりではなかったなら、それはそれでネタになると開き直った二人である。
けっこう並んでいたので、どうやら人気店ではあるらしい。
店頭の看板を見た瞬間、わたしの期待が爆上がりした。
「やわらかい赤身の肉」
という見出しにはじまり、
「脂身と筋を丁寧に取り除き、独自製法でやわらかく仕上げた赤身の肉!!」
和牛などは、脂身と混じったものが多く、焼けばその脂によってやわらかくジューシーになる。
それはとても美味しい。
でも……わたしは、むしろ赤身だけで勝負できる牛肉が好きなのだ。
「この出会いは、運命かもしれない」
つぶやくわたしに、友達が「いやいや大袈裟だから。恋人とか、そんなんじゃないから」とツッコミを入れてくる。
店内では、カウンターの向こう側で肉を焼いている様子がまるっとぜんぶ観察できるようになっている。
銀色に磨かれた鉄板は、場所によって温度が違うのか、ジューっと焼いたあとに肉を動かし、その後に脇へ移動している。
表面を焼き固めた後に、じっくり低温で火をとおすのだろうと推測した。
──このステーキ屋さんは、期待できる!
やがて運ばれたるステーキ肉。とご飯とお味噌汁、そしてタレ。
赤身は赤いまま、てらてらと照っている。一見して生に見えるが、
「おそらくこれは、きちんと火がとおったプロのレアだ」
そりゃプロが焼くのだから当然だが。
塩と胡椒でいただく。
歯がさくっと通る。やはり火がきちんと通っているレアだ。
固すぎず、生の風味を活かしつつ、きちんと噛めるステーキ。火が通っていない肉は、ぶよぶよして噛み切れない。
二種類あるステーキソースをちょこんとつけて食べる。
番人のタレというのは、この店が独自に調合したソースなのだろう。
さっぱりした青じそソースもある。
すりおろしニンニクがあるのも嬉しい。
少しずつ味変を楽しみつつ、一切れ一切れを丁寧に味わう。
ソースを堪能したら、また塩と胡椒のみのシンプルな味へ戻り、またつぎはニンニクをたっぷりめに乗せ……。
あの味が忘れられず、何度か訪れた。
けっして近所ではないし、というより車で二時間くらいはたっぷりかかる小旅行になってしまうが、この〔肉の番人〕のためだけにつくばを訪れてもよい、とさえ思える。
わたしの中で、大好きなステーキ屋さん3本の指に入る。
沖縄の〔ジャッキーステーキハウス〕と、この〔肉の番人〕、そして残りの1本分はまだ空席。
いや、いつか「これぞ運命の出会い!」と感激できるステーキ屋さんに出会えた時のために、ね。
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