【京都】村川 新選組ゆかりの地と至近距離の、京風おでん
京野菜が出回る冬、十二月。
聖護院大根、九条ねぎ、壬生菜、金時にんじん……。
京は薄味文化とかいうけれど、こんな旨味たっぷりな野菜を使えば、そりゃ、ごてごてした味付けをしようという気にもならないと思う。
大学時代、在原業平ゆかりの寺にて精進料理を食べた。
ほぼ味付けなどしていないかのような……や、調味料のたぐいを使っているとはとても思えない、超絶うすあじ料理だった。
それでいて、味覚の奥底にしっかりとした野菜のあまみが存在していたのが、とても印象的だった。
などと取りすました野菜論なんてどうでもよくて、要するに、
「京野菜さいこー!」
と言いたい訳で、その理想系のひとつが京おでんだと、わたしは思う。
京都駅から出て左側へてくてくとあるき、大きな交差点へさしかかったところに、そのお店〔村川〕がある。
他にも京都の庶民料理である「おばんざい」も取り揃えているという。
行ってみると、油小路がすぐそばにあった。
新選組の、藤堂平助が無惨な最後を遂げた場所だ。
その時の京都旅行は、わたしの趣味で「新選組紀行」と決めていただけに、とても幸先がよかった。
思えば、西本願寺(新選組の屯所)も徒歩圏内だし、近藤勇の休息所も近い。もう少し足を伸ばせば、隊士たちがどんちゃん騒ぎをしていた、かつての遊郭・島原へも行ける。
新選組が最初に屯所とさだめた〔八木家〕へは、まっさきに訪れた。
芹沢鴨の一派を襲撃した時の刀傷を、直接この目にした時はもう興奮したし、ぐるり、室内を眺め渡して、
「そりゃ、暗闇のなかで狭い室内で刀を振り回したら、刀とか食い込むよね」
こういう、現地で得られる空気感はとても大切。
それはともかくとして。
関東とは一味違った京都のおでんは、最高だった。
特にインパクトがあったのは、京野菜である聖護院大根の、巨大なおでん。
これを頼んでみると、
「うちのは大きいから、女性なら二人で一個がちょうどよ」
「一人で一個なんて、この欲張り!」
二人の店員さんが口々に、楽しい掛け合いを投げてくれる。
それが実際に出てくると……。
通常の三倍はあろうかという大きな大根だった。
ネギととろろ昆布が鎮座し、ほぼ透明にも近いツユに半身を沈めている。
その旨いこと甘いこと。
これだけでも、
「来てよかったよね」
わたしは、友達と頷きあった。
お酒が弱いわたしだけど、この時は日本酒も一緒に味わいたい気分にさせられて、瀉楽という銘柄を頼んだ。
なお同行の友達は酒豪なので、飲めない分は引き受けてもらうつもりだ。
先程の大根にまけない存在感を放っていたのは、だし巻である。
これまた巨大で、他のメニューと同じように九条ネギととろろ昆布を従えている。
通常のだし巻卵は、妙に甘いのが多いけれど、これはわざとらしい甘味などない、上品なツユとしっかり調和した味付け。
好き。
とうふ、糸こんにゃく、ちくわ、玉子、がんも等、次々と制覇してゆくが、中でも三度目の衝撃となったのが「きつねうどん」だった。
ちょっと、想像がつかない。
京都のうどんが、絶品なのはわきまえていたんだけど……。
「何だろうね、これ」
などと囁き合いながら、好奇心いっぱいで頼んでみると、出てきた途端、
「なるほど、巾着だったかー!」
油揚げに包まれている、餅ならぬ、うどんであった訳だ。
これがまた、内部にたっぷりのツユを閉じ込めていて、うどんの、つるんとした舌触りとともに、口中へ幸せを運んでくれる。
こういう大当たりなお店を引き当てると、大袈裟かもしれないけれど人生が豊かになった気分になれる。
次に京都へ行った時も、かならず行きたいよね。
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