【シルクロード】国境の崖を越えろ!(2)迷走の越境計画
前回のあらすじ:
中国の西の果て・カシュガルに行ったら、ビザを取り消された人と出会った。
波村さんのビザ取り消しを、どうにかできないものか……ということでカシュガルの公安外事処へ相談しにいった。
なにしろ、中国から退去しようにも、一番近いパキスタンへの国境の道が、崖崩れで消失しているのだから、どうしようもない。
ついでながら、国境を越える予定のないわたしも、その手前にあるタシュクルガン(三蔵法師・玄奘ゆかりの地)へ行きたいと思っていたところで、同じように困ってる。ま、事の重大さがかなり違うけど。
市の公安では「この問題は処理しかねる。区の公安へ行ってくれ」と、たらい回しにされた。
公安もいろいろ管轄があるらしい。
なので区公安とやらへ出向いてみたものの、そこの門番をしていた公安が、とても横柄な態度で、人のことをなめきった薄ら笑いでバカにしてくるときたものだ。
波村さんはぐっとこらえていたけれど、そばで見ているわたしは、はらわたが煮え繰りかえる思いだった。
ただ、すぐ近くにいた別の公安が、様子を見かねたのか、親切に外事処の場所をおしえてくれた。
行ってみたけれど、しかしそこも不発。
ビザが切れるのは、明後日。
正直、詰んだ。
◯
翌日。
朝から公安めぐりをして、かけあうも、まるで無駄。
横から見ていて、
(露骨に権力をかさにきた人間って、こんな醜悪な顔つきをするんだ……)
自分は、こういう顔つきをする人間にはなりたくない。
ところでカシュガルは、ウイグル人の都市だが、隣国パキスタン人も多い。
ゆえにパキスタン人が経営するホテルもあって、そこが彼らの基地のようになっている。
当然、わたし達のような外国人も泊まってよい。
しかも、安いらしい。
なのでさっそく、ホテルを移ることに決めた。
其尼瓦克(チニワカ)賓館というそのホテルは、安さのわりにとても立派な建物だった。
しかも、越境計画をたてるのにとても有用な環境。
なにしろ国境を越えたいパキスタン人が多いし、同じく越境をのぞむ各種外国人もたくさんたむろしていたのだから。
ビザは明日には切れるけれど、こうなったら慌てても仕方がない。
ホテルを移った後、波村さんと二人で博物館へ出向いたり、東湖公園で、なぜか釣りをしてみたり。
波村さんが、釣り糸と釣り針をポーチから取り出し、付近にころがってる適当な木の枝に結んで、釣竿を作ったのだ。
なお、釣果はゼロ。
いや待て、余計な荷物をいっさいもたない、旅のベテランな貫禄をかもす波村さんなのに、
「なんで釣り道具なんかもってるん?」
「たまたまです」
◯
ビザが切れる当日。
昼ごろ、海関(税関)へ電話してみたところ、
『ああ、開いているよ。え、ビザが切れた? 特別な状況なんだ、切れてても通してやるよ』
とのこと。
だから、計画を立てた。
崖崩れで道が消失した地点は、カシュガルから南へくだること120キロのあたり。
そこまではタクシーをチャーターしよう。
仲間をつのって割り勘にすれば、そう高くもない。
チニワカ・ホテルでは、その仲間を容易に集めることができた。
日本人も、そこそこいたから。
また、この頃になると、パキスタン側から越境してくる勇者がちらほらと、このホテルへたどりつくようになっていた。
その一人、フランス人女性は、
「崩れた道は川に沿ってるけど、その濁流すれすれまで降りて、渡ってきた。でも登山経験のある私だから言うけど、おすすめしない。足許がもろすぎて危険だから。それより、崩れた崖を登って、ある程度までいったら横移動し、また降りる方が見込みあるかもしれない」
また、ひとりの日本人男性は、口髭を陽気に動かしつつ経験談を語り、
「水の確保は重要だ。時々くさむらを流れる小川があるけど、羊などの糞で汚染されてるから、浄水剤を使うといいよ。僕はさいわい持ってたけど、よかったら分けてあげよう」
トランクの中を探し始めたものの、大量のゴム製品が出てきて、男性はおもわず叫んだ。
「なんじゃこりゃ!」
いや、あなたの荷物ですから。ていうか、そんな大量の「うっすいゴム製品」、どこで誰に使うつもりなん?
そんなこともありつつ、希望が見えてきた。
実際、パーティを組んだ8人組が、すでにパキスタンをめざして出発している。
その後を追うべく、タクシーの手配をすませ、わたし達は4人パーティを組んで、早々に就寝した。
早朝に目覚めたら、いざ、出発だ。
来週につづく。
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