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【中国】桃 安くて好きなだけ食べてた日々

 桃──宇宙を統べる至高の存在なり。
 ちな、宇宙で二番目に偉いのはプリンね。

 ……ていうくらい、桃が大好きすぎて身もだえる。
 あの柔らかく、たっぷり蜜を含んだ果肉へ前歯をしずめた転瞬、口中に爽やかで濃厚な甘味がいっぱいに拡がる。
 至福すぎて、もう、悟りだって開けちゃいそう。
 全身が、ぶるっと震えて鳥肌が立つほどの幸福感。

 そんな桃を、好き放題、食べたいだけ食べられた時期があった。
 中国をあちこちふらふら放浪していた時の二〜三ヶ月は、本当に幸せだったっけ。

 中国では、露天のおじさんおばさんが街角へ出て、量り売りをしているわけで、そういうのを見つけたら、まずは値段交渉。
 単位は一斤(500グラム)で、一元の10分の1の、一毛単位で値切ることになる。
 一毛なら1.5円程度なので、その程度ずつの値切りなんて大したものじゃないけど、こういうのは一種のゲームみたいなものだから。
 露天商との値段交渉の時はほんと、喧嘩さながらなやりとりになることも珍しくなかった。日本では絶対できない体験。

 ある時……。
 少林寺へ行ったときだったか、食堂を出た後に、おつりをまんまとごまかされたことに気づいた。
 でも、もう遅い。今さら戻っても、しらばっくれられるだけ。
 その怒りで、ぷりぷりとホテルへ向かい、その途中に立っていた桃の露天商のおばちゃんから桃を買った。
 当然、値段交渉をするのだけど、こっちはもう激怒モードなので、
「一斤につき3元だよ」
「2元! それ以上は絶対に出さん!」
 通常は、少しずつ値段を歩み寄って、互いの中間地点で手を打つものだけど、もうその時のわたしは、一歩もひかない不退転の勢いで、いっさいの妥協をしなかった。やつあたりも甚だしいけど。
 露天商のおばちゃん、
「わ、わかったわかった、その値段でいいから」
 ……なんか、ごめんね、おばちゃん。今さらだけど。
 しかもその時の桃、めちゃくちゃ美味しかったんだよね……一斤につき3元の価値あったよ、ごめん。

 桃は中国全土で栽培されているのか、大体どこの都市へ行っても量り売りの露店を見つけることができた。
 洛陽、西安、蘭州、成都、大理、上海……。
 日本に比べて、何分の一かで買える。
 10元(その時のレートは150円くらい)で、かなりどっさり。
 さすがに高級品ともなれば、たった1個で10元だの20元だのするのもあったけど、街角の量り売りならそこまで高級じゃない。

 中国の桃は、日本の桃とは性質がちがってた。
・日本の桃……皮が剥がしやすい。果肉と種が融合している。
・中国の桃……皮が剥がせない。種は、ぽろっと取れちゃう。
 という感じだから。
 日本の桃は、最後までかじると、果肉の繊維が種と融合しているのだけど、中国の桃は、すっきり取れてくれて、種の形に穴が開いている感じ。
 果肉は、硬めであることが多かった。
 なお、わたしは皮ごと桃を食べる主義。

 高級品となると、日本の桃と同じような感じになることもある。
 皮が剥がしやすく、種が果肉と融合しているタイプだ。
 そういうのは、さっき述べたとおり一個で10元以上もしやがる。
 いっそ、日本でもそういう高級品ばかりじゃなく、街角の露店で売っているような安い桃も流通してくれればいいのになー、と思うこともある。

 日本の桃はおしなべてどれも高級だと思う。
 もっと安いのが出回ってくれても、いいのになあ……。

 ちな、夏になると、我が家の冷蔵庫はこんな感じになる。
 あまりお金ないけど、夏の間、桃だけは贅沢したい。

我が夏の冷蔵庫

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