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【上田】刀屋のもりもりてんこ盛り蕎麦

 もうすぐ、新蕎麦の美味しい季節!

 基本、東京の蕎麦が大好きだけど、蕎麦そのものの良さと洗練を語るなら、信州・長野県を推す人が多いと思う。それこそ、満場一致の勢いで。
 古来からのブランド力もあるだろうけど、やっぱり実際に、信州のお蕎麦は香りもよくて、美味しい。
 東京の老舗も信州から職人さんを呼ぶと聞いたことがあるほどだし。

 わたしが長野県・上田市へよく足を運ぶということは、当然お蕎麦屋さんへもよく行くことも意味する。
 地元の人に愛されるお店としては〔草笛〕などが有名で、何店舗か散在していて、上田城のすぐ近くにもある。
 城址を散策した後、道路を渡ってすぐのお店へふらりと立ち寄り、香りの高いもり蕎麦を手繰ると、なんともいい気分になれる。
 わたしが草笛へ立ち寄った時は、ついでにお店特性の「美味ダレ」も購入してゆく。「おいだれ」と読むこのタレは、要するに上田名物の焼き鳥のタレだけど、決まった定義があるわけではなく、それぞれのお店特有の味があるのだ。(「うまだれ」でもなく「びみだれ」でもなく、「おいだれ」なのだ)

 数多くの蕎麦屋さんがある中でも〔刀屋〕は特に異彩を放っていると思う。
〔草笛〕が常識的で正攻法の由緒正しい信州蕎麦とすると……〔刀屋〕はお客さんへ挑戦状でも叩きつけているのかというほどのインパクトで迫り来る。

 とにかく高い!
 いや、値段がじゃなく、物理的な高さが。
 つまり……胃袋の限界を試すほど量が多いのだ。
 普通の〔もり〕でも、他の蕎麦屋の大盛りかそれ以上に匹敵する。
 そのためにわざわざメニューに小盛りを用意している。
 すまし顔で「大盛りで」と注文すると、お店の人はほぼ確実に、
「量がとても多いですよ。まずは普通盛りからでいかがです?」
「いえ、大盛りで。当然、存じていますよ、ふふふ……」
 そして店員さんは、その心配が杞憂だったことをすぐに悟ってくれるのである、ふふふ……。

手前が大盛り、奥に見えるのが普通盛り

 刀屋は、量が多いだけではなく、他の店よりずっと太くて、食べ応えがある。その分だけ〔蕎麦感〕も強烈になる。
 更科のような、白くて上品な蕎麦も魅力だけど、がっつりワイルドに喰らいつくなら刀屋をおいて他になし。

 他にも何か食べたい気分の時には、天ぷらを注文する。
(ただでさえ大盛りなのに……天ぷらまで?)
 と心配されることもあるけど、大丈夫。
 最初の半分くらいまでは蕎麦を純粋に楽しんだ後、おもむろに天ぷらをツユへつけて、はぐっとかじるのだ。
 本当は天ぷら、揚げたてをすぐ食べる方が美味しいに決まっているけれど、ここではまず蕎麦を楽しみたいので、必然的にこの順番になっちゃう。
 どうしてもって時は、最初に天ぷらを一つだけに塩をかけて楽しむという手もあるけど。
 後半戦で天ぷらの旨味がとけこんだツユへ蕎麦をひたすと、これまた美味。
 幸福な味変だよね。

刀屋のもりと天ぷら

 なお、草笛では「中盛り」なるものがあって、これが大盛りに相当する。これで、ちょうど刀屋の普通盛りと同じくらい。それくらい刀屋が異常ということになる訳だね……。当然、草笛ではこの中盛りに、もうひとつ普通盛りも重ねる。
 どちらかというと更科に近い蕎麦の気分になった時は、草笛へ。
(今回は草笛か刀屋か……)
 とぎりぎりまで迷うのも含めて、上田の蕎麦が楽しい。

 刀屋や草笛がタイミング悪く閉まっていても、まあ大丈夫。
 どこかその辺の、例えば温泉施設などに併設してあるお食事処のお蕎麦でも、そこが信州であるかぎり充分に美味しい。
 信州蕎麦のブランド力で、なおさらそう思ってしまうのかもしれないけれど。
 室賀温泉ささらの湯で食べたお蕎麦と天ぷらも、一緒に行った友達が、
「美味しい!」
 目の色を変えてくれたくらいの蕎麦っぷりだった。
 室賀といえば、以前の大河ドラマ「真田丸」で「黙れこわっぱ!」が決めセリフだった、あの室賀ゆかりの土地である。

 あー、思い出と想像力で、お蕎麦への思いを満たそうとしたけれど……まずい、逆効果だったかもしれん……!

お蕎麦の締めは、蕎麦湯で
刀屋のたたずまい

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