見出し画像

特許調査の基礎 (Nigel Cleak)から「64,000ドルの質問」

こんにちは! 特許調査をしています、酒井といいます。調査研修の仕事もしていて・・・受講者の方から時々「特許調査って、なんとなく自己流でやってこれているのですが、体系的に習った事は一度もないです。」というお話を伺います。

J-PlatPatやGoogle Patentsなどは、無料で気軽に使えて、キーワードを入れれば「それらしい」結果が出るので、改めて体系的に学んでみよう、と考えるのも、割と気合い(?)が必要なのかもしれないですね。

この記事では、欧州特許庁(EPO)の講演集「Best of Search Matters」から、Nigel S. Clarke氏の「The basics of patent searching」(特許調査の基礎) 冒頭で出てくる「64,000ドルの質問」を取り上げたいと思います

講演の録画はEPOに

講演録の書き起こし(英語)は、エルゼビアのサイトにあります。

このnoteを覗いてくださっている方は、きっと知財/特許業界の方が多くて、特許調査もした事ある方、多いのでは?と想像しています。が、「なぜ特許調査をするの?」って、改めて考える事は少ないかもしれないです。

64,000ドルの質問は
Why Search Patents?  (なぜ特許を検索するのですか?) という問いかけで始まります。

画像1

ナイジェル先生、こう言ってます。(意訳です。正確に知りたい方は、書き起こしか動画でどうぞ。以降の引用も同様です)

この質問に対する単純な答えは「特許情報があるから」です。しかし、特許を検索する理由はたくさんあります。
たとえば、最新の発明について調べたり、特定の技術開発動向を調査したり、著名な発明者による特許出願を見つけたりするためです。
発明の完全な説明を含む特許文書の公開は、特許プロセスの必須のステップです。世界中の特許庁は、登録された特許を公開することを義務付けています。公開されない限り、特許を特許(権)にすることはできません 。

そして・・・ここからが本題、64,000ドルの質問なのですが。

「みなさん自身の事や、仕事の位置づけについて、時間をとって考えてみてください」って言ってます。「最初はこの質問をされると戸惑う調査担当者/知財担当者も多いが、必ず役に立つから!!」とも。必ず役に立つこと、私も保証します。

では・・・ナイジェル先生の「64,000ドルの質問」紹介します。
 (私の判断で適宜、項目を区切らせて頂きました)
たくさんありますが、ぜひ頑張って考えてみてください^^

1)あなたについて
・あなたは誰?
・あなたのバックグラウンドは?
・どうして特許調査を担当する事になったのですか?
・直属の上司や、その上の管理者、会社なども含めて「誰のため」に働いていますか?
2)会社/勤務先やプロジェクトについて
・勤務先の会社はどんな事業をしていますか?
・なぜ特許情報を探しているのですか?
・それは通常の業務プロセスの一部ですか?(日常的に特許調査がプロセスに組み込まれていますか?)
・(会社では)技術開発を常に監視し、目を光らせているのですか?
・会社は今、新製品を計画していますか?そのための調査は必要ですか?
・会社のポートフォリオを守るための調査は必要ですか?
・企業合併や買収、M&A等は監視していますか?関心はありますか?
3)業務内容と、それに続く意志決定について
・あなたが行う検索作業はどのレベルですか?
・危機管理に関連する検索・調査をしていますか?
・ダメージを小さく抑えるための調査ですか?
---
・戦略的/長期的な調査を実施していますか?
・戦術的/短期的な調査を実施していますか?
・1回限りで単発の調査を実施していますか?
---
・あなたの仕事(調査)の結果は、誰が見ますか?
・あなたが提示した調査結果に基づいて、どのような決定がなされますか?
・誰がその決定を下しますか?
・決定者はどのような形式のレポートや分析を望んでいますか?
---
どのような情報を抽出しようとしていますか?
・純粋に技術的な発明情報を抽出
・法的情報や、権利が有効/無効の情報
・特許侵害を未然に回避するための情報
・権利行使のための情報
・ビジネス関連情報の抽出
4)ビジネス環境について
・競合他社/競争相手の事を知っていますか?
・競争相手(競合)は誰ですか?
・競合は何をしていますか?
(どんな事業を持ち、どんな出願をしていますか?)
・最も出願の多い発明者を把握できていますか?
・特許出願が一番活発な企業(出願人)はわかりますか?
・「熱い技術」ホットスポットは何ですか?
・他社はどのような情報を必要としていそうですか?

知財業務/調査業務についたばかりだと、難しい質問もあると思われますが、自分の事、所属企業や職場の事、業務と意志決定、それからビジネス環境と他社の事。ナイジェル先生のお勧め通り「改めて時間を取って、しっかり振り返ってみる」ことで・・・

・自分や所属部門の仕事の価値が明確になり
・知財/調査専門家としての、自分に対する励ましや自信をもつキッカケ
・求められている「良い検索」像が鮮明になる
・プロとしての道標にもなり、良い仕事につながる

などの効果が期待できそうです。

「ナイジェル先生の講義録」には、まだまだ続きがあり、後半では具体的な検索テクニックや、初心者が失敗しがち?な注意点も説明されています。また、64,000ドルの質問以外の色々な講演も含めた「Best of Search Matters」集があり、無料公開されています。

「Best of Search Matters」には、「おー!日本と同じー!」って話もあれば、あまり聞いた事のない話もあって、2倍楽しめます。(そうかな?)

次回から不定期ではありますが「ナイジェル先生の『特許調査の基礎』」を紹介し、その後「Best of Search Matters」や、その他のEPO資料から、日本の知財関係者の方が面白がってくれそうな記事の解説に進もうと考えています。相変わらずの不定期ぶりですが、ご期待ください。


ちなみにですが「日本語で」特許調査の基礎を体系的に学びたい場合、
INPITに資料が色々揃っています。初級からプロ向けまで充実です!

拙著にも、基礎をぎゅうっと詰め込んでいます。Amazonでは在庫切れが多いようなので、発明推進協会にお問合せ頂くのがお勧めです。

それでは!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?