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特許で読む:駅で売ってる「冷凍みかん」の独立項は56文字。工場でみかんをめった刺しにして作ってる!?


今週は、コロナ前以来で 4ヶ月ぶりの出張に行きました。そういえば駅の売店を利用するのも久しぶりです。梅雨時の大雨警報が出るような日で、暑くてムシムシした天候。何か冷たい物を、と冷凍ケースをのぞき込むと、アイスクリームに混ざって「皮むき済みの冷凍みかん」が目に留まりました。

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手にとってみると「特許取得済」とあって、ついついお買い上げ。

みなさんは冷凍みかん、召し上がったことはありますか?
私は久しぶりでした。箱をあけてみると、コンビニおにぎりのような開け口のついた袋に、ひとつづつ収まっています。みかんの表面はうっすらと氷の層をまとっている様子。

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みかんが溶けて食べ頃になるのを待ちながら、しばらく特許出願の内容を予想してみたのです。
・みかんの皮のむき方なのか
・表面がうっすら凍っている事なのか
・それとも個別包装の特許なのか

無料特許データベース「J-PlatPat」で調べた結果、
上記3つの中だと「皮のむき方」がかすっていますが、もっと本質的には「凍らせ方」の発明です。(うっすら凍ってるのも、少し関係があります)

凍らせ方のポイントは、記事タイトルの通り「みかんのめった刺し」でした。

それから請求項1が66文字、請求項6は56文字(いずれも独立項)で、同業の皆様は「短い!」と感じられる長さかな、と思います。

以下、検索のポイントと公報の読み方を解説します。

1.検索のポイント

特許調査は「今 わかっているポイント」からスタートします。冷凍みかんだと「パッケージ」がヒントです。

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・品名、原材料は 「みかん」(≓果実、果物)
・製造者(会社名)は ハちゃん堂

J-PlatPatの検索式では下記のようになります。

[八ちゃん堂/AP]*[みかん/AB+ミカン/AB+果物/AB+果実/AB]
/AP : 出願人名
/AB : 要約中の語句

この段階で4件該当があるのですが、
「もしかしたら、この4件の他にも『個人名義の出願』が隠れているかも?」と考えられます。4件の特許出願から発明者名を抜き出して

[八ちゃん堂/AP+川邊義隆/AP+川邊義隆/IN]*[みかん/AB+ミカン/AB+果物/AB]
/AP : 出願人名
/AB : 要約中の語句
/IN : 発明者 

と検索してみました。件数は4件のまま変わらないので、ここで一旦情報収集は終了です。

2.該当出願の特定

ここで、さきほどのパッケージをもう一度見てみましょう。
パッケージには「特許取得済」とあるので・・・

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単に「出願しただけ」ではなく、権利を取得できている、と考えられます。

一方、検索結果で得られた4件のうち「特許取得済」はマーカーを付した2件。4番目は製品形態と異なる点が多いので、1番目の「特許5048049 冷凍ミカンの製造方法及び冷凍ミカン」が、パッケージに記載の「取得済の特許」と考えました。(なお、2番目、3番目は拒絶査定でした。)

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特許5048049 (J-PlatPat)

Google Patentsではこちら▽

ハちゃん堂のFacebookにも特許証が載っていたので、この番号で間違いなさそうです。

3.冷凍ミカン - 発明のポイントを理解する

この発明の背景となった「動機」は・・・ずばり!
一年中ミカンを食べたいという食欲。(私もミカン、好きですよ☆)

10月〜1月頃に収穫され、冷蔵保管しながら市場に供給することとなるのであるが、冷蔵保管の限界があり、3月下旬頃までしか市場に供給することができないのである。

その一方で、一年中ミカンを食したいというニーズが現に認められる。

本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、年間を通じてミカンを食したいというニーズに応えることができる冷凍ミカンの製造方法及び冷凍ミカンを提供することを目的とするものである。

しかし、ミカンをそのまま冷凍保存すると、水分が凍るときの体積膨張で割れてしまうそうなのです。

ミカンの内皮に小孔を形成することなく冷凍した場合には、冷凍時の体積膨張で内皮が破損し、ひび割れを生じた状態で冷凍されることとなる。そのため、冷凍することによって品質面における長期保管は可能となるものの、ひび割れが生じており、商品としては魅力が半減してしまい、結果的に商品として提供することができなくなってしまう。

ひび割れや破損を防ぐために、ミカンの内皮に孔を開けてから凍らせるとのことで・・・どのように孔を開けるか?というと

ミカンの赤道(?)付近に、ぐるりと一周 です。

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ミカンの内部は小房に分かれているので

内皮3に包まれた全ての粒に小孔4を形成すべく、本実施の形態では、小孔4を横方向に一周形成している。

全ての小房(粒)に孔を開けるには、孔を一周形成するということなんですね^^ 

孔を開けてから冷凍すると、果汁が外部に逃げるため割れにくくなります。

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冷凍処理の際には、ミカンの果汁が内皮3に形成した小孔4から外部に逃げることができ、冷凍処理の際に内皮3が破損することがない。なお、内皮3から外部に逃げた果汁は、内皮3と外皮1との間隙で冷凍されることとなる(図2(c)参照)。なお、図2(c)中符号5は冷凍された果汁を示している

段違いに孔を開けたり、全体的に孔を開けたりの例もあります。

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そして・・・「いつ、皮を剥いているか?」というと、どうやら出荷直前。

こうした状態で一定期間の冷凍保存を行い、出荷タイミングに応じて、外皮の除去作業を行う。
具体的には、冷凍されたミカン(冷凍ミカン)の表面のみを適宜方法(例えば、自然解凍、お湯をかける、スチームを当てる等)で解凍し、表面のみが解凍された状態で外皮1の除去を行う(図2(d)参照)。

冷凍の時に逃げ出した果汁で、外皮が簡単に除去できる上に、白いスジも取れるって説明しています。

ここで、図2(b)に示す様に、内皮3から外部に逃げた果汁が内皮3と外皮1との間隙で冷凍されており、この冷凍された果汁の存在によって、外皮1は極めて容易に除去することができる。

また、外皮1を除去する際には、冷凍された果汁と共にミカンの白い筋(維管束)をも同時に除去することができる。

なんだか「冷凍しておいたトマトにお湯をかけると、超簡単に皮が剥ける」という、主婦の知恵的なやつを思い出しますね。

4.特許請求の範囲。請求項6は56文字

最後に「特許請求の範囲」です。全部で6項あるのですが、この記事では独立請求項の1,2、6を取り上げます。

1と2はパッと見、とてもよく似た請求項です。

1は「内皮に小孔」

1.ミカンの内皮小孔を形成する工程と、
小孔が設けられた内皮に包まれた粒を有するミカンを冷凍する工程とを備える
冷凍ミカンの製造方法。

2は「外皮+内皮に小孔」ですね^^

2.ミカンの外皮内皮を貫通する小孔を形成する工程と、
小孔が設けられた外皮を有するミカンを冷凍する工程とを備える
冷凍ミカンの製造方法。

請求項1は66文字。請求項2も67文字。これ、かなり短い部類かな?と思います。

そして請求項6は「出荷前に外皮を除去」するやつ。56文字の独立項です。

6.ミカンの外皮に内皮を貫通する小孔が形成された後に冷凍され、その表面のみが解凍されて外皮が除去された
冷凍ミカン。

一般的に「短い請求項 ≓ 限定が少ない ≓ 広い権利範囲」って言われますが、冷凍ミカンの特許、こんなに短い請求項だったのですね^^

「こんなに短く書けない!」という技術分野も多そうですが、限定要素を少なくする、という点で とても興味深く感じました。



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