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令和6年度税制改正大綱 ~ 税調幹事が見た、改正のプロセス ~

■ 与党が持つ税制の最終権限

先月14日に、与党は令和6年度税制改正大綱をとりまとめました。「デフレからの脱却」を引き続き掲げ、日本経済の成長を目指したもので、減税規模数兆円とも報道されました。毎年末、私たち与党の国会議員は税制大綱の取りまとめと次年度予算原案策定のために、せわしい日々を送ります。
これらの作業は、国会日程とはまったく切り離され、与党のみの仕事となります。予算案の最終的な権限は政府であり、財務省の主計局にありますが、税制に関しては与党にその最終権限があります

■ 税調という組織

私は今年もその自民党の税制調査会(税調)の幹事のお役目をいただきました。自民党の税調は「インナー会議」「正副・顧問・幹事会議」、そして国会議員が全員参加できる「小委員会」と、大きく三層の構造となっています。午前中に正副・顧問・幹事会議(正副会議)を行い、午後には小委員会を開催するパターンが多く、私はこの両方の会議に出席可能なので、長いときには1日6時間以上会議に出ることもありました。
正副会議では、参加者は役員扱いとして何度でも発言できるのですが、小委員会は人数が多いために、1日1回のみの発言と限定されてしまっています(幹事は午前の正副会議で発言するため、小委員会では発言できません)。

■ 結論までのプロセス

議論も11/20~12/14に現在の経済状況の共有から現在の税制を復習し、各部会(省庁ごとに設置され、対応する政策を議論するところ)から今年の税制要望をヒヤリングし、まとめ、個別の要望案件を一つずつ精査します。また、「まるせい案件」と呼ばれる深く議論すべきものは、別途2日に分けて国会議員の意見を吸い上げ、最終的にはインナー会議の会長を始めとする、10人弱の議員がまとめていくのです。
個別の案件はほとんどすべて各産業分野などからの減税要望であり、何十年も継続されているものもあれば、最近の環境の変化の中で取り入れられたものまでさまざまあります。

■ 減税という「手法」

減税は例えば脱炭素など、国民の消費行動を一定の方向に変えていってもらうための手法というのが基本的な考え方です。
また税制を活用しての支援においては、自然と納税者が基本的に対象となりますし、何らかの活動を行った場合(今回の場合は、企業の賃上げや国内投資など)、そこにかかる費用に税がかからないようにするといった形が多くなります。
税による支援に対してネット上の批判の中に「納税者だけが対象」「消費する余裕のある人向けの対策」といったものがありますが、あくまでも「税による支援」というのは納税者への支援なので、そこに該当しない方々には別途予算で給付金や補助金といった形で手当てすることになっています。

■ 話題になった税制

今回の税調の議論で、国家戦略として重要視される物資の国内生産を促すための「戦略分野国内生産促進税制」や、知的財産から生じた所得を最大30%、法人税の課税対象から控除する「イノベーションボックス税制」などが新たに導入されることになりました。
また盛んに報道されたような定額減税、賃上げ扶養控除見直し、子育て支援などのテーマも議論されました。
詳しくは、昨年12/15の新聞の朝刊などの解説を図書館やネットなどで確認いただきたいと思います。

■ 法人税減税の意義

今回の税調の大事な議論の課題の一つは、法人税の在り方だったと思っています。
日本は法人税を下げてきており、税率30%を切っています。その狙いとして、一つは国際的に投資先として選んでもらえるよう税率で競争力を持つこと、そしてもう一つは、企業に残ったお金で国内投資を進めてもらい、日本経済のために活用したり、賃上げに回して社員の皆さんの可処分所得を増やすことにより、消費拡大に資するものになってほしいということでした。しかし、後者はほとんど狙い通りに動いていません。
国債発行により国内に貨幣を供給し続けているため、法人税率下げと相まって、企業内留保という貯金ばかりが増え、国内投資も賃上げも期待したほどなされていないことが今回改めて分かり、問題だとの指摘が相次ぎました。
私も同様の指摘をしましたが、今回の改正を読売新聞が「賃上げや投資に積極的な企業は税制で後押しする一方、消極的な企業には不利になるようにして、積極的な行動を促す『アメとムチの税制』」と評しています。つまり、一定の基準をクリアしていないと減税の対象企業とならないということです。
加えて、来年はこれにとどまらず、狙った効果への検証を行い、必要なら法人税を上げ、国が資金を集めて予算で対策を行うという選択肢もきっちり検討する必要があるのではないかと思っています。
今までの法人税下げの方針とはベクトルが180度違うので、かなり幅広い議論が必要になりますが、私はその議論をやるべきだと考えています。

■ 与党と政府の間の緊張感

そして一昨年に続き、昨年も党税調の根底を揺るがす事態が起きました。一昨年は「防衛費の負担1兆円を税で」、昨年は「定額減税の中身」を、岸田総理が税調に諮ることをせずに先に発表してしまったことです。「これは手順が違う」と感じざるを得ませんでした。
「税制は与党が決める」であるはずなのに、政府の立場から、政府代表の総理が明言しているわけです。こうなると、自民党総裁でもある総理なので、党内不一致をもたらすことを避けるために、税調にも一定の縛りがかかってしまった気がしました。政府と与党は協力関係にありますが、一定の緊張感もあるものです。お互いを尊重して、各々の役割を担ってきていると思っていただけに、非常に違和感があります。
党という立法府と行政は三権分立の中のチェックし合う役割に立っているわけですから、ここをないがしろにしないことが重要だと考えます。

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