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「賑やかな街やね」|超短編小説

田舎を離れこの街に出てきて3年が経った。

ほとんど信号もないようなところで育った僕も、3年という年月の中で、夜も明るいこの大都会の一員という顔をつくれるようになった気がする。

そんなこの街に今夜は恋人がやって来る。

僕の就職を機に3年前から遠距離恋愛となった2人。

年に数回僕が地元に帰った際は必ず会っていたのだが、彼女がこちらに出向いて来ることはなかった。

「都会の空気を吸うてまうとな、なんや自分が変わってまうような気がすんの」

3年前、冬の田んぼに挟まれた畦道を歩きながら彼女はそう呟いた。

「ほら?月の裏側って、見たいようで見たないやろ?」

時折こぼす彼女の詩的な表現、

月を見て微笑みながら話す彼女の横顔、

それらが僕は大好きだった。

「月の裏側か…」

そう呟いた僕の白い吐息が月に吸い上げられたあの夜の事を、今も大切に覚えている。

あれから3年。もちろんあの日みたいに都会の空は澄んではいないけど、今夜も月は表の顔を覗かせている。

大切な人を乗せた電車がこの街に着いた。

初めてこの街に足を踏み入れた僕の恋人は、この街の一員なら誰もしないぐらいの、大きな大きな伸びをした。

「賑やかな街やね。知らんかった匂いがする」

ビルに挟まれたアスファルトを歩きながら彼女はそう呟いた。

「なあ?月の裏側におるウチは、君からどんな風に見える?」

鬱陶しいと思った。

急速に鬱陶しく感じた。

通り過ぎた居酒屋からは木綿のハンカチーフが流れていた。

ーENDー


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