機械人形の贖罪

錯雑としたおもちゃ箱をひっくり返したような町並みを抜け、砂浜に出た。乳白色の月明かりが照らすのっぺりとした海面。緩やかな波が慎ましく白浜を濡らす。高密度のかき氷みたいな砂の上を歩くたび、ぎゅっ、ぎゅっと音がした。侘しさすら感じなくなった僕は、海と浜の境界をおぼつかない足取りで進む。遠くにぼんやりとうかぶ小さな漁港は心許ない灯りのもと、ぽっかりとあけた口を静かな海に向けていた。随分まえに通り過ぎた居酒屋の喧騒が耳に居座り続ける。遠く、航走するフェリーのチカチカと瞬く船灯を見て、蠕動する君の頸動脈のぬくもりを思い出した。どんな罪も受け入れ赦してしまう君の瞳をすがるように見つめた僕。暗澹たる幸福を噛み潰して過ごした君との日々。甲斐ない努力の美しさ。『盗賊』の一節が頭をよぎった。砂浜の終着点。積み上げられたテトラポット。平遠とした青黒い海。その先に待つのは、緩慢な死。怠惰な僕にはお似合いの最期だと思った。けれど安心して。約束を破ったりしないから。それは僕が君にできる、唯一の恩返しだから。

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