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ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.5 Sorachi Ace

前書き
避けては通れない、ソラチエース。

日本産のホップとしては最も有名なホップかもしれないですね。
そして、僕が知る中で最も不遇な経験をしたホップでもあります。
ちょっと関係者関連に絡む話でもあるので、これに関しては詳しく述べませんが、産まれてくる時代を間違えたのか、時代が追いつけなかったのが悪いのか。

基 本
ソラチエースは平均12%〜13%のアルファ酸。
最大16%を達成したという報告もあります。
コフムロンは23%と低く、セオリー的にはクリーンな苦みとされますが、様々な文献を読む限りコフムロン神話は信憑性が低いので私はあまり気にしていません。詳しくは、Simcoeの記事をお読みください。

レモングラス、レモンピール、レモンバーベナを彷彿とさせるフレーバーとアロマで他にはない独自性を持ちます。一部のテイスターは、コリアンダー(コリアンダーの葉)、ディル、ディーゼル燃料のアクセントとともに、オークのようなキャラクターを見つけます。

歴 史
コードネームは75K-B6-5。
僕が住んでいる上富良野と言う町は北海道のほぼド真ん中に位置し、昔からホップ栽培が盛んです。サッポロビールの研究所がこんな田舎町にポツンとあります。さて、遡ること約半世紀の1974年。北海道空知郡上富良野町にあるサッポロビール株式会社幌工場上富良野分場(現・北海道原料開発センター)に勤めていた荒井康則氏は、ソラチエースの元となる新品種のホップ開発計画をスタートさせました。世の中、妙なことがしばしば起きますが、この荒井さんというホップ育種家が遠い親戚であったことには本当に驚きました。僕はもともとサッポロビールに営業職で入社したくて大学に入ったようなものなんですが、大手の狭き門をくぐることは叶いませんでした。サッポロビールの入社試験に落ちた直後だったと記憶していますが、いとこの親父さんから「俺のいとこがサッポロビールにいるから紹介すればよかったな。」と言われましたが、今時コネ入社なんてないだろうし、そういう意味合いではないだろうし、コネがあったとしても実力で入社したかったから、この話にはあまり興味を持ちませんでした。それでも、そんな話をした記憶は残っていました。まさかその人が、ソラチエースの開発者だったとは思いもしなかった。業界に入って、そんな事実が発覚した後、イベントで少し話したり、いとこの家で焼き肉を一緒にしたりしました。家族の前で前のめりになってソラチエースのことを質問するのもアレなのでタイミングを見てインタビューしてみようかなと思っています。血のつながりは無いものの因縁めいたものは感じますよね。話を戻します。掛け合わせで生まれた新たなホップの中に、独特な強い香りの特徴を持つものがいました。大事に研究を重ね、1984年9月5日、誕生の地の名をつけた「ソラチエース」が品種登録されたというわけです。

さらに、登録から10年後、サッポロビールのホップ研究員であった糸賀裕氏がアメリカ・オレゴン州立大学にこの品種を持ち込んだようです。この糸賀さんはコロナの状況になる前は、僕の所属するブルワリーのビール会によく顔を出してくれた。「これは何のホップ使っているの?」と下っ端だった頃の僕にも質問をしてくる、フランクで感じの良い方です。糸賀さんがソラチエースをアメリカに持ち込んだことがきっかけで、ホップの世界的な生産地であるワシントン州ヤキマ地方でホップ農場を営むダレンガメッシュ氏がソラチエースと出会い、その魅力を高く評価した彼は、各地のブルワリーに紹介したようです。アメリカでの研究植栽は1994年に米国農務省/オレゴン州立大学の研究農場で行われましたが、ホップはワシントン州トッペニッシュのVirgil Gamache Farmsによって2006年にリリースされるまで、アメリカで商業的に利用可能にはなりませんでした。その後、瞬く間にソラチエースという品種はアメリカのクラフトビールシーンでは有名な存在になったといいます。

経験則
超マニアックな話なんですけど、ホップ農家さんにソラチエースについて質問したら、収量があまり良くなく、あまり積極的に扱いたいホップではないと言っていました。アメリカのホップサプライヤーのコマーシャルを見ると収量は良いと説明されています。どちらが正解かは分かりませんが、現場で働く人の意見や感想も大事ですよね。彼らも生活かかっていますからね。リアルな意見で面白かったです。

使用した感想は、まさにヒノキ、杉、オークなどの「木」!
コリアンダー?ディル?レモングラス?いや、木だろって思います。
熱々の麦汁にソラチエースを投入した直後の仕込室はヒノキ風呂の湯気、あるいはアロマテラピーのようで癒されます。僕なんかはソラチエースから柑橘類のニュアンスなど全く感じられません。ネガティブな意味ではなく、これだけ「木」の強いキャラクターを持つホップは他にはなく、本当に唯一無二の存在感だと思います。
コリアンダーやディルもよくわかりません。そもそもディル、分からない。
某大手さんは淡色系に使用していますが、僕は昔から黒系との相性の良さを提唱しています。バレルエイジのアーリーフィニッシュのような効果をもたらすのではないかと期待を寄せています。実際に何度か試してみましたが、手ごたえを感じています。これがうまくいけば、フェイクバレルエイジング効果が得られるのではないかと考えています。


残念ながら、IPAや淡色ラガーに使う際は要注意です。
ソラチエースはどんなスーパースターで保険をかけても、入れすぎるとビールをぶっ壊します。隠し味程度にと考えているのであれば、イメージしている量の半分くらいで良いかもしれません。とにかくソラチエースは独特かつ個性が埋もれない自己主張の強いホップです。しかしながら、巧みな制御の先には、他との圧倒的な違いを生み出す可能性が感じられます。ソラチエース、使いこなしたらカッコイイな。その称号、ひそかに狙っているんですけどね。

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