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ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.6 Nectaron

前書き
近年、『ニュージーランドスタイルペールエール』と『ニュージーランドスタイルIPA』がアメリカのブルワーズアソシエーションの発表しているスタイルガイドライン2021年に追加されたように南半球のホップが「ニューワールドホップ」として注目を浴びています。ニュージーランド産ホップのアイデンティティとオリジナリティが世界に評価されているということです。今回紹介するのは17年以上の年月をかけて開発された「ネクタロン」と呼ばれるNZ産三倍体の新品種ホップについてです。まだ日本のブルワーにもあまり知られていない存在だと思います。

ネーミングの由来
ホップの名前の一部であるネクタロンの『ロン』は、Plant and Food Research のHop Breeding & Genetics(ホップ育種家であり科学者)である Ron Beatson(ロン・ビートソン) にちなんで付けられました。彼は一生をホップの育種に捧げてきました。もともとのコードネームは『Hort 4337』。

基本
α酸 : 10.5-11.5%(ネルソンソーヴィンと同じくらいですかね)
用途 : デュアルパーパス(ビタリング使いは勿体無さすぎる)
原産国 : ニュージーランド
特徴 : パイナップルやパッションフルーツ、ピーチや柑橘類(グレープフルーツ)などのトロピカルフルーツのキャラクター

歴史
現在まで、これは単にHort 4337として知られており、New Zealand Hops Ltdは、協同組合外の競争から保護するために20年間植物品種権(PVR)を持っています。特にその主要な品種であるネルソンソーヴィンに対する協同組合の植物品種権が2021年に終了することが決まっています。しかしながら、第2のネルソンソーヴィンとなりうるホップはすでに用意されていました。その名は「ネクタロン」。名前は「神々の蜜」に由来します。ネクタロン (HORT4337) は、ワイメアの姉であり、パシフィック ジェイドの娘です。2020年半ばに発売されたばかりで、トロピカルフルーツ、パイナップル、パッションフルーツ、ピーチ、グレープフルーツのアロマが高レベルだと言われています。

協同組合と業界は20種類の品種を栽培しており、そのうち約9種類がニュージーランドで生産されるホップの総量の約80%を占めており、その品質と収穫量からネルソンソーヴィンが最大の優良株です。Craig Orr氏は、Hort 4337は、トロピカルな香りとより高い収率を備えた新しいネルソンソーヴィンになる可能性があると述べています。次のステップは、そのためのいくつかの強力な成長プログラムを確立することと語っています。

現時点で醸造業者から得ている強いフィードバックは、「ニュージーランドのホップを手に入れることが困難だ」ということです。生産されたものに対する需要が多すぎるというのが現状です。

また、ニュージーランドのホップは高価です。カスケードの倍の値段がすることさえあります。彼らは完全に世界のホップ成長市場のプレミアムエンドにあり、それが彼らの築き続けたブランドです。日本のホップ産業のロールモデルとなりうるのではないかと思っています。

個人的見解
私はこのホップについて最初に耳にしたのは、同じ会社で働く部下がニュージーランドのホップファーマーで働いていた経験から、「働いていたときに育てられていた品種。数年後には大活躍する品種になる。」と聞いていました。実際にその話を聞いてから2年が立ちますが、最近は本当によく聞く話題となってきました。残念ながらまだ日本にはまだ入ってきていないはずの品種で、使用した感想などは国内では聞いていません。(2022年後半頃から日本でも見かけるようになりました。)

初めて飲んだシングルホップのIPAはFirestone Walkerの「Propagator Series: Nectaron Single Hop IPA」です。ブレンドされたものだと同じくFirestone WalkerのLuponic Distortion No.18。どちらもストーンフルーツとメロンのフレーバーに近いものを帯びていて、弾けるフルーツ感というより、良く熟した甘やかなフルーツフレーバーという印象でした。

余談ですが、私は一度や二度、お客様から「日本のブルワーはもっと海外のビール飲んで勉強しなさい。」とお叱りを受けたことがあるのですが、結構多くのブルワーは飲んでますし、勉強しています。飲んでいたとしてもSNSに挙げたり、批評する人は少ないと思います。美味しいと言うことはあれど、ネガティブな内容は発信しません。ブルワーの感想は他社批判になったり、関係者がいたりと、ファンを傷つけたりする可能性がありますから、極力控えた方が良いと思っています。結論、割とたくさん飲んでますと言いたいです。


追記
ネルソンソーヴィンに魅せられたブルワーはたくさんいます。それを超える期待を背負うことになるというのは荷が重いかもしれません。また、kg当たりの単価があらゆるホップ品種よりも高価で、費用対効果について厳しい目を向けられてしまうのも仕方のないことです。実際のところ、悪いホップではないのですが、その大きすぎる期待に応えられているフレーバーかというと、そこまで肩を持ってあげられないというのが個人的な感想です。ペレットは非常にフレッシュで、ダンクな香りが漂いました。プレーン寄りの桃感。穏やかなトロピカルなキャンディー。Idaho7やMotuekaにも似ています。鮮烈で刺激的というよりは、マイルドで甘やか。シングルホップではなく、組み合わせ次第では良い働きをしてくれることでしょう。Nelson Sauvin の関心を奪う日はもう少し先になるかもしれません。


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